第15話 俺、盗賊団のアジトを発見する。
「地面に滴り落ちた蜂蜜は、ここで途切れている」
「なんだってー! く、またナメ足りねェ……」
「意地汚いッスねェ、兄貴ィ……」
「ん、どうでもいいけど、あっちこっちに大小に問わず純白の石が転がっているわね。崩れ落ちた家の跡?」
「ああ、間違いない。ここはウサルカ文明絡みの古代遺跡がだな。多分、神殿跡だろう」
俺の目の前には、崩れ落ちた純白の石の塊が見受けられる。しかも、それがあっちこっちに――。
どれくらい昔のモノなのかは俺にはわからんが、兎天原に於いてかつて栄えていたウサルカ文明絡みの神殿廃墟らしい。つまり古代遺跡ってワケだ。
「あっちこっちに落ちている純白の石は、きっと折れた柱の一部ね。ん、石に装飾が見受けられるわ。この装飾はウサルカ文明の中期……第十五王朝から二十王朝あたりまで流行った様式だったかな?」
「わお、詳しいじゃん、オリンデ」
「フン、なんだかんだと、地上の歴史に興味があったね」
「地中の歴史に興味がある? イイ男を探すついでにでしょう?」
「ば、馬鹿、ナニを言う! その前に男という存在を知ったのはつい最近なんだからーッ!」
「ホントにホントォ?」
「本当よ! 股間に角を持つ生き物……男なんて存在を知らなかったわ。本当に……」
「くだらねぇ話はそこまでにしようぜ。さてさて、ここがウサルカ文明の古代遺跡だとすると必ずと言っていいほど、どこかに地下空間が存在しているはずだぜ」
オリンデとメルフィアのくだらない話はさておき。古代の兎天原で栄えたウサルカ文明絡みの古代遺跡には、マリウス曰く必ずと言っていいほど地下空間が存在するそうだ。
「うむ、その話が本当なら、あの熊獣人はそこに逃げたはずだ。そんなワケで仮に今いる古代遺跡内で地下空間へと続く階段を見つけた場合、その先は奴らの――聖イリアーナ騎士団のアジトがあるはずだ」
「ああ、しかし、人伝に聞いた話だと、ウサルカ文明絡みの古代遺跡の地下空間は迷宮と言っても間違いないほど入り組んでいるそうだ。オマケにゴブリン等の魔物の巣と化している場合が多いと聞く」
古代遺跡にある地下空間は、複雑に入り組んだ迷宮と化しており、オマケにゴブリン等の魔物の巣と化している場合も多いそうだ。
ん、ゴブリン? 緑色の肌をした薄気味の悪い小鬼って感じの魔物だっけ? RPGの序盤に出てくる奴らで集団で襲いかかってくる、みたいな? ついでに好色で、ある程度の知能も持ち合わせているので弱い魔物だ――と思って甘く見ちゃいけない気がする。
盗賊団――聖イリアーナ騎士団とどっちが強いかなって、何気に気になってしまったぜ。
「兎天原の獣の領域に住むモノなら、誰だって知っているぜ。そんなことはよぉ」
「そんなことより、ここってもしかして……ま、間違いないッス! 皆さん、地下空間へと続く階段を発見したッス!」
地下空間発見!? ヤスが飛び跳ねながら、俺達を呼んでいる――お、おお、確かに! 襤褸布でカモフラージュされているが、これは間違いなく地下空間へと続く階段だ。
「この中から蜂蜜の匂いがするワン」
「あ、あれ、柴犬が喋った!? 獣人、それとも使い魔?」
「私の使い魔のイヌウスよ。可愛いでしょう~☆」
「お、おお……」
「可愛さなら俺の方が上だぜ!」
「チビの使い魔はサキュバス!? や、やるわね!」
「チビじゃねぇ、櫻井健一……いや、アルテナだ」
「俺はアイオーン――可愛い可愛い妖精さんだ。姿が似てるからって淫魔と一緒にすんな!」
「それはどうでもいいけど、メルフィアの使い魔のワンちゃんは役に立ちそうね」
「任せてくれワン!」
俺は小柄な女のコの姿に転生しちまったけど、チビ呼ばわりはやめて欲しいもんだぜ、まったく!
俺の使い魔のアイオーンは、見た目はマジで淫魔なんだよなァ——が、アイオーンご本人は妖精を自称している。ま、俺的にはどうでもいいことなんだけどね。
さて、ギャル戦乙女ことメルフィアの使い魔は、黒毛の柴犬だ。さて、そんなメルフィアの使い魔である黒柴犬のイヌウスが、地下空間の中から蜂蜜の匂いがする、と言い出す――この中に盗賊リドラーがいることは確定かな?
「ん、声も聞こえないッスか?」
「ああ、聞こえるな。ん……モメてないか、連中?」
「あの熊さんが責め立てられているっぽい会話ッスね」
「あの熊さん? ああ、リドラーって名乗ってたアイツか!」
「そうそう……って、物凄く偉そうな物言いの野郎に責め立てられているっぽいぜ」
「盗賊団の団長ってか?」
流石は聴力に優れた兎の獣人だぜ――とばかりに、兄貴とヤスは地下空間から聞こえてくるかすかな声を聞き取るのだった。
あのリドラーが責め立てられている――ってこたぁ、他の元聖イリアーナ騎士団の連中こと盗賊も身を潜めているようだ。さて、ここは連中のアジトだ。当然、奴らのリーダー格の盗賊もいることだろう。
「うん、蜂蜜のイイ香りと同時に、洗っていない犬の臭いもするワン」
「それってお前の体臭では……」
「失礼だワン! お風呂なら毎日、入っているのだワン! だから臭くないのだワン!」
「わ、わかったから吠えるな! 連中に気づかれるじゃん!」
「ま、とにかく、地下空間へ降りてみるわね。イヌウス、おいで!」
蜂蜜の甘い香りと一緒に洗っていない犬の臭いがするって? イヌウス自身の体臭じゃないのか? それはともかく、メルフィアとイヌウスが地下空間の内部へと続く階段を先行するカタチで駆け降りるのだった。
「お、ポツンポツンとだけど、所々に灯りが見受けられるわね」
「松明ってヤツか?」
「松明の灯りじゃないな。光蟲を硝子瓶の中に閉じ込めてつくった照明器具だ」
「光蟲?」
「その名の通りの光を放つ虫だ。この遺跡の近くに沼があるんだろう。あの虫は水辺へ集まる習性があってなァ」
「フーン、蛍みたいな感じかの虫……って、光蟲っていうのは蝶のような翅の生えた小指ほどの多さの百足かよ!」
「あんな小さな身体ながらも太陽の光の如き烈光を放つこともあるだぜ。スゴイとは思わないか?」
お、地下空間の内部は、何気に明るいぞ。蜻蛉のような翅が生えた百足といった感じのナマモノが封印されている硝子瓶が、天井から吊るされており、ソレが暗闇を照らす照明器具の役割を果たしているってところだな。
「ん、この先から強烈な蜂蜜の香りがするワン」
「あの熊さんがいるわ……おっと、連中のボスっぽい奴も一緒だわ。みんな物陰に身を潜めるわよ」
「そんなことわかってらぁ! お、地下空間は身を隠せる大きなモノが多いな。ナニか入っているのか? それとも空なのかは知らんけど、酒樽や木箱があっちこっちに見受けられるしな」
なんだかんだと、熊獣人リドラーを発見! イヌウス曰く、強烈な蜂蜜の香りのおかげなんだとか――とそれはさておき、盗賊団のボスらしきモノも一緒だって!? むう、気になるぜ。物陰に身を潜めつつその姿を拝見と洒落込むか。