第11話 俺、盗賊団に対し、チートで立ち向かう。
広大な兎天原は、人間の領域と獣の領域に別れている。
北方と西方が人間の領域、東方と南方が獣の領域という具合に――。
だが、最近、人間達が獣の領域にもやって来るようになったんだとか――主に冒険者と呼ばれるタイプの人間達がね。
マリウスの使い魔であり、下界こと兎天原の出身の使い魔である兄貴とヤスの話によると、東方と南方には、通称ウサルカ文明という古代文明が存在していたそうだ。
しかも七割以上が未発掘――名声や多額の賞金を求むモノ達が目をつけないワケがないだろう? オマケに金鉱も多々、存在してるそうだ。
そんな連中と一緒に人間の領域を追われた盗賊団等の悪党共もやって来ている――当然の流れだってりする?
さて、余談はここら辺にして話を進めようじゃないか。
「ウメーウメーッ! この蜂蜜、超ウメェーッ!」
「下品ですよ、リドラー卿。壺に腕を突っ込むとか下品にもほどがあります!」
「ああ、やめられんわァ! 癖になるぅ! お前もどうだ?」
「む、むう、せめてスプーンで蜂蜜を掬ってください……って、そんなモノはありませんなぁ。困ったモノです」
ニャオーダの村の郊外——人気のないそんな場所に、大きな樽を抱えた白銀の鎧兜を身に纏ったヒグマ、そして同じく白銀の鎧兜を身に纏う狼の姿が見受けられる。ちなみに、前者も後者も獣人である。
『兄者、ここら辺に盗賊団が隠れている気がする! ん、アイツらでは……』
『多分な。さぁて、イリアーナ騎士団……悪の道に堕ちたモノ達を捕まえるぞ! 天界、復帰の足掛かりだーッ!』
そんな大声が響きわたる――ハーゲンとゲハルス兄弟だ。元天使でハゲ頭の兄弟が、ニャオーダの村の郊外へとやって来る。
その目的は、無論、盗賊団ことイリアーナ騎士団の捕獲である――ん、白銀の鎧兜を身に纏うヒグマと狼は獣人だ。もしかして、コイツらは獣化の呪いにかかってしまったイリアーナ騎士団の面子だったりするのかな……かな?
「貴様らがイリアーナ騎士団? いや、訂正――盗賊団だな。覚悟しろ!」
「兄者、先制攻撃か! よし、それじゃわしも――レム、ザム、あの獣人を捕まえるんだーッ!」
「御意ッ! が、がああーッ!」
「了解です……ぐ、ぐえーッ!」
「ん、スケルトンを召喚した? ハゲ頭のオッサン……死霊使いだな?」
「お、おう、その通りだ……って、おいィィ! わしに使い魔を一瞬で戦闘不能にした…だと…!?」
ハーゲンとゲハルス兄弟が、先制攻撃とばかりに仕掛ける――死霊使いの十八番とばかりに、操屍術で仮初の命を与えられ蘇った白骨死体こと不死者の一種であるスケルトンを二体けしかけるが、白銀の鎧兜を身に纏う狼獣人に呆気なく返り討ちに遭ってしまうのだった。
「ハーゲン様、呆気なくやられてしまいました。ナニかこう……ビューッ! ってトンデモなく強烈な目に見えない何かが襲ってきて……あ、突風です。ほら、例えるなら台風が発生した時のような強烈な風です、はい!」
「一瞬でバラバラにされてしまいました、ワハハハ……って、今、魔法を使いましたよ。あの狼!」
「よく喋る骸骨ですね。さて、先制攻撃とは騎士道精神に反する行為ですよ。戦うなら正々堂々、真っ向から立ち向かってきたまえ!」
「グワーッ! なんだァ、この一撃……か、風? やはり風の魔法か……ふ、吹っ飛ばされるゥ!」
「あ、兄者ーッ!」
狼獣人は魔法使い? とにかく、猛烈な風(?)の魔法を行使し、二体のスケルトンを返り討ちにしたのか!? んで、ゲハルスも二体のスケルトンと同様、狼獣人が行使する風の魔法の奔流に飲み込まれて弧を描きながら吹っ飛ばされるのだった。
「お、今、魔法でぶっ飛ばされなかったか?」
「おお、イイところに来た! 兄者がやられちまった……カタキを討ってくれ!」
「ぐおおお、まだ死んでいないぞー!」
「ん、騎士がやって来た? し、しかし、なんという破廉恥な格好なんです!」
「このビキニアーマーが破廉恥? フフフ、大事なところさえ見えなきゃいいんだ☆」
「そ、そういう問題かァーッ!」
「その黒髪の女! お前も格好が破廉恥です! ナンでもいいです。服を着たまえーッ!」
狼獣人が行使する風の魔法でぶっ飛ばされたゲハルスは、なんとか無事のようだが、地面に頭から突っ込んでしまった状態なのでしばらくは動けないだろうなァ……。
さて、俺達がハーゲンとゲハルスが狼獣人に返り討ちに遭った現場――ニャオーダの村の人気のない郊外へとたどり着く。
ハハハ、狼獣人に指摘されたぞ、マリウス。お前さんの格好が破廉恥だってな――え、俺も格好が破廉恥だって? そうは思わんだが……。
「どこが破廉恥なのかわからん……」
「破廉恥だって? ハハハ、アタシの場合は、この黄金律に満ちた天性の肉体を見せつけたいがために、この鎧を身に着けているんだ。ああ、なんなら脱いでもいいんだぞぅ☆」
「ち、痴女ですかアナタは! む、むう、それはともかく、アナタ達は魔法使いですね」
ナニが黄金律に満ちた天性の肉体だよ! そんなマリウスの物言いは逮捕された露出狂が言い放つ言い訳にしか聞こえないんだが……。
ん、それより俺達が魔法使いだって? そう狼獣人は言うのだが、残念ながら戦乙女でしたー。
「俺達は戦乙女だ。一応な」
「そう小さな竜の姿をしてはいるけど、私も戦乙女よ」
「右に同じくアタシも戦乙女だぞ」
「戦乙女? ほほう、珍しい存在に出会えたモノです。さて、この姿になってから妙に鼻が利くようになりましてね。戦乙女かは存じませんが、私と同じ穴のムジナ――同じ職業のモノを鼻で見分できるようになりました」
「ワンちゃんは鼻が利くからなァ……って、俺は戦乙女であり、魔法使いだったのかーッ!」
「その本を持っている時点で魔法使いに職業転職したようなモノだ」
「ワンちゃんですと!? 狼なのですがねェ……」
「あ、ああ、スマンかった! おっと、それはともかく、アンタ達が聖イリアーナ騎士団――いや、食糧庫を荒らした盗賊団なのか?」
「如何にも。しかし、とある大義名分のため致し方ないことをしてしまった、と反省しております。ついでにですが、その盗賊団という呼び名で我々――聖イリアーナ騎士団の名を汚さないでもらいたい」
は、ナニを言う! どんな大義名分があるのかは知らないけど、他人の所有物を強奪する等々の悪行を働くモノ共に堕ちたモノが言える物言いじゃないだろうに……。
「さて、なんだかんだと、我らを捕らえにやって来たモノ達なんでしょう、アナタ達は――が、そう簡単に捕まるワケにはいきません。捕えようと思うなら全力でお相手しましょう」
「よし、アルテナ。アイツをやっちまえ!」
「え、えええーッ! 俺がァ……ま、まあいい。この本がありゃ、なんとか……う、うお、先制攻撃ィ、ほ炎の矢!?」
「戦いはもう始まっています。今のは先制攻撃ではありませんよ」
「あ、そうなの? むう、とにかく、やり返すぞ――ベトッフデウフクバーッ!」
狼獣人が燃え盛る火炎の矢を放ってくる――ゲームなんかじゃ低レベルの魔法使いでも行使できる初歩的な魔法の一種だったな。
んで、確か空気中の酸素が媒介で――っと、そんなことはどうでもいい! なんだかんだと、アレが命中いたら一溜りもない。故に、俺はやり返す!
「ム、ムム、その呪文は――ガ、ガアアアッ!」
「あ、あれれ、光の玉が拡散しないままドーン――とそのまま狼獣人のもとの飛んでいったぞ」
「お前の炎の矢もかき消したな――で、狼獣人を爆破!」
むう、猫攫いを誘き出す時に使った魔法と同じはずなんだがなァ。あの時は拡散して周囲の廃墟を爆破したって感じだったのに、今回は拡散せず光の玉が狼獣人目掛けてドーンと飛び奴を爆破って感じだった。
「ぐ、ぐうう、この鎧がなければ、私は死んでいました。し、しかし、意外です。アナタは見た感じだと素人そのモノなのに、触れたモノの爆破する場合の度合いの調節、制御が難しいモノのはずなのに……」
へえ、あの魔法は調節と制御が難しいモノだったのか!? じゃあ、何気に上手く行使できたのはチート――俺は知らぬ知らぬうちにズルをしていたのかも? さて、一方で狼獣人は身に纏っていた白銀の鎧兜がバラバラに砕け散り、ゴトンと仰向けに倒れ込む。この調子だと、しばらくは動けそうにないな。
「へえ、ティレア卿を魔法でぶっ倒すとはね。君って意外と凄い魔法使いなのかもね」
「く、熊? 熊が出たぞー!」
「見た目は熊ですが、私は騎士だ。リドラーと名乗っておくとしよう」
「騎士? 盗賊の間違いじゃないのかァ?」
えういえば、盗賊団こと聖イリアーナ騎士団の面子は、もうひとりいたな――蜂蜜で満たされているっぽい大きな樽を抱えた白銀の鎧兜を身に纏う熊が。
「さて、私はアナタが倒したティレア卿と違い魔法は不得意……苦手な部類に入る。故に、徒手空拳技お相手しよう」
「徒手空拳技? 空手とか、そんな感じ? むう、俺はそっち系は苦手なんだよなァ……」
狼獣人は魔法使いだったけど、熊は――熊の獣人は空手等の徒手空拳技を得意とするようだ。
しかし、俺的にはそっち系はダメだ――というか、拳と拳と語り合うような喧嘩では、一度も勝ったことがないしねェ……。
「ハハハ、自身がないようだね。まあいいでしょう。さあ、どこからでもかかってきたまえ」
く、馬鹿にして! 熊獣人リドラーは、俺を挑発するかのように両手で身に纏う白銀の鎧のドテ腹の部分をガンガンと二度、叩く。
「む、むう、仕方がない……とりあえず、殴ってみる!」
「ほほう、それは正拳突きというヤツだな? ぐ、ぐおーッ!」
「あ、あるぇ~? 熊の鎧に穴が……って吹っ飛んだァ!?」
俺って、そんなにパワーがあったワケ? とにかく、テレビなんかで見た見様見真似の右拳による空手の正拳突きを放ってみた――そ、それが思わぬ威力を発揮したっぽいぞ! 何せ、熊獣人リドラーが身に纏う白銀の鎧のドテ腹の部分を俺の右の拳が撃ち貫くのだった。オマケに熊獣人を4、5メートルほど吹っ飛ばす!
お、俺は知らぬ間に、また何かしらのチートを使ったのかも……いや、間違いなくチートだ。あんな大柄な熊の獣人をたった一撃でノックアウトすることが出来たワケだし。