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第九話 どうやら面倒事に巻き込まれたようだ。

「おい、ハゲのオッサン。アンタ……何故、獣化しないんだ? ここら辺は獣の領域だ。やって来たモノ――主に人間を獣の姿に変えてしまう呪いが、流行り病の如く蔓延しているはずだぜ」


「ハゲって言うな! 生きたままゾンビにするぞ! それに獣化の呪いなんぞ跳ね除けたわ。わしって凄くね?」


「ま、まあ、普通の人間の倍の魔力を持つ魔法使いの類なら、アレを跳ね除けられるかもね」


 兎天原を分断するふたつの領域のひとつ――獣の領域には、獣化の呪いと呼ばれるインフルエンザ等々の流行り病の如き呪いが広く蔓延している。


 そんな獣化の呪いにかかると、文字通りの忌まわしき現象――獣の領域に訪れた人間を獣の姿に変化させてしまうのだ。


 故に、獣の領域に住むモノの大半――住人は元人間である。


 しかし、例外もあるモンだ。ハゲ頭の死霊使いことハーゲンのオッサンのように獣化しない人間もいるワケだし――え、同じ人間でも普通人の倍の魔力を持つ魔法使いの類なら、忌まわしき獣化の呪いを跳ね除けることができるって!?


 ン、その前に俺やマリウスが獣化の呪いを跳ね除けることができたのって天界からやって来た戦乙女だからなのか? あ、でも、同じ戦乙女のオリンデを小さな竜に変化させちまったワケだし、獣化の呪いって何気に強力無比なモノだったりして……。


「さぁて、ここで出会ったのもナニかの縁だろう。そんなワケでわしの頼みを聞いてもらえないかな。天界からやって来たお嬢さん達」


「むう、やっぱりわかるのか……」


「まあな。わしは知り合いに魔界の悪魔がいる。お前らから、ソイツと同等か、それ以上の膨大な魔力を感じてね。ああ、だが、清浄な魔力だ。色に例えるなら、白……或いは青だろうか?」


「それはともかく、頼み事ってナニ? 場合によっては受諾してやってもいいんだが」


「うむ、それじゃ単刀直入に言おう――わしの兄者である死霊使いゲハルスを捕まえる手伝いをしてくれ」


 魔界の悪魔と知り合いだぁ……このオッサン、侮れんな。それはどうでもいいけど、俺達は仮にも天界からやって来たんだ。当然だろう。魔力とやらを色に例えるなら白、或いは青といった清浄なイメージがあっても――。


 さて、死霊使いハーゲンの兄ゲハルスとやらも死霊使いなのね。兄弟ともに同じ職業なワケだし、なんだかんだとライバル意識を持っており、蹴倒し、自分の方が一歩先へ進みたいと思っているのか? だからハーゲンのオッサンは、兄ゲハルスを捕まえてくれ――と俺達に依頼してくる。ん、別の目的もありかな……かな?


「兄のゲハルスとやらを捕まえてくれって? 悪いが管轄外だな」


「その通り! 私達はオッサンの私的な用事につき合う余裕はないのよ」


「ほう、それじゃ大量のうま味のある魂——戦士の魂を得る機会を逃すことになるぞ。それでもいいのかァ?」


「な、なんですってーッ! ちょ、その前に何故、戦士の魂のことを知っているワケェ!」


「フフフ、今はノーコメントと言っておこう」


「な、なあ、戦士の魂ってなんだ?」


「んじゃ、説明するぞ、アルテナ。戦士の魂というのは、アタシら戦乙女が来るべき日に備えて天界に送る人間の魂の中でも特に別格の――所謂、うま味のある魂って言っておく」


「うま味のある魂!? その表現だとイマイチわからんが、特別な魂ってことでいいのかな……かな?」


 ナンだかよくわからんけど、ハーゲンのオッサンの兄ゲハルスを捕まえることが出来れば、同時に特別な魂——戦士の魂とやらも大量に入手できるのかも。何気に得をする話だったりして――。


「だが、ひとつ問題があるのだ」


「問題? オッサンの兄貴ことゲハルスの居場所がわからない――って感じの問題ッスか?」


「ズバリ、その通りだ。眼鏡兎くん――しかし、それも呆気なく解決しそうだ。そこにいるパンツ戦乙女が抱えている本がカギを握っているのさ」


「パ、パンツ戦乙女だと!? むう、俺が持ってる本――魔法大百科がカギを握っている?」


「魔法大百科? それは仮称だ。わしにはわかる。ソイツは伝説の万能魔導書スィーデトーチだ」


「え、コレってそういうモノだったかな? ハハハ、まったく知らなかったぜ☆」


 マリウスの奴、俺に手渡した魔法大百科の詳細をナニも知らずつい先程まで所持していたのかよ。し、しかし、まさか真の題名がスィーデトーチ、そして伝説級の代物とはねぇ。


「ああ、言い忘れていたが、魔導書の類いは所有者の能力を底上げする効果があるようだ。故に、伝説級の魔導書であるスィーデトーチの所有者のお前さんは、今や何十年もの修行の末、大魔法使いなどと呼ばれるようになったモノと同等、或いはそれ以上の魔法使いと言っても過言ではないかもしれん」


「ちょ、それが本当ならチートだな、おい!」


「オマケにアタシらは戦乙女だ。この意味がわかるだろう?」


「あ、ああ、チート効果も倍増ってか、アハハハ……」


「そうそう、魔導書ならもう一冊、持っているぞ」


「う、うお、マリウスの胸の谷間から本がッ……あ、ああ、それがもう一冊目の魔導書ね」


 魔法大百科――真名スイーデトーチだが、流石は伝説級の魔導書だ。持っているだけで能力が底上げされるワケだし、オマケに戦乙女の能力もプラスされているはずだ。フフフ、今の俺は大々魔法使いなのかもな☆


 さて、マリウスの奴も抜け目がないな。一体、何冊、魔導書を所持しているんだ、コイツ――って、胸の谷間から出しだぞ!


「では、そろそろやってもらおう」


「ん、ナニを?」


「スィーデトーチに記されているはずの探査系魔法の呪文で、わしに兄ゲハルスの居場所を特定してもらいたい。まあ、呆気なく見つかるだろうから苦労はしないと思う」


「ま、まあなぁ、伝説級の魔導書に記されている呪文なら、人をひとり探すのも容易だろうな」


「そんなことより、アンタの兄貴をここに召喚したらどうだ? その手の呪文も記されているはずだぞ」


「お、おお、それもそうだな。それを思いつくなんて、お前さん、頭がイイな!」


「アハハ、それほどでも~☆」


「まあいい。とりあえず、探してみるか」


 居場所を探すより、ここへ呼んだ方がいいのでは!? とオリンデが言う――ま、まあ、確かにな。その方が手っ取り早い気がする。


「お、この呪文か? でも、召喚するモノの身体の一部が必要だって書いてあるぞ」


「それなら大丈夫だ。兄ゲハルスの身体の一部――体毛なら、この通り!」


「うわ、縮れている! どこの毛だよ、おい……」


 おお、召喚魔法(?)の呪文を発見! しかし、呼び出す対象の身体の一部がないと駄目な様子である――って、おい! ハーゲンのオッサン、それどこの毛だよ。縮れているぞ……。


「では、唱えてみるか――イコイコショータイ、イータショコイコイ! へ、ヘンな呪文だなァ、おい……わ、ナニか来た!」


「ヒ、ヒゲ眼鏡のオッサン!?」


「兄者だ、兄者……ゲハルスだ!」


「な、なんだァ——こ、ここはどこだァ!」


 どこの部位の体毛かはあえて訊かなかったけど、縮れた体毛を媒介に俺が呼び出したモノは、背の低いヒゲ眼鏡のオッサンだ。このオッサンがハーゲンの兄ゲハルスのようだ。


「むう、お前は弟者……ハーゲン! うお、それに戦乙女が一緒……だと!?」


「アンタにもわかるのか?」


「当然だ。吾輩ら兄弟は今は人間だが、元は天界の住人――天使だったからな。同じ天界に住むモノなら、その身に纏う清浄な気でわかる」


「え、天使? ハゲ頭の天使……だと!?」


 ハーゲンの兄ということでゲハルスも当然とばかりにハゲ頭である――っと、それはどうでもいいけど、元は天界の住人で天使!? なるほど、俺達が天界の住人――戦乙女だってことを見抜いた背景には、そういう理由もあったのね。ああ、だから、来るべき日とやら下準備とばかりに天界に送らなくちゃいけない人間の魂の中でも、特にうま味なモノである戦士の魂とやらについても知っていたワケだ。

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