~ココロノチ、頂戴。 *【帝憑編】*
其れはある日の事。
其れはまた、化け者が人間のふりをし、学園から帰宅していた刻だった。
化け者は狂世界を往き来でき、普通の狂い者は化け者に連れて往かれると、
通常の世界からは失踪と見られ、
その数日後、通常の世界では何事もなく戻ってきたように見えるのだ。
ちなみにそれはその狂い者の本体で本性ではなく、分身である。
本性で本体はもちろん、狂世界にいるのだ。
明らかに性格が奴隷のようになり、愛想笑いしか見せない。
これが狂い者にならせた者への仕打ちである。
まぁそんな話をしたのだが、今回は―――
まだエナの生き別れの双子・八幽榎弘羅がまだいなかった頃の謎館での御話――――
帝憑編である。
コ コ ロ ノ チ 、
頂 戴 。
「さてと…そろそろ狂世界に行かないとね――。」
化け者は目を閉じ、謎館の前に立ち、狂世界への移動儀式を行おうとしていた。
―――その時だった。
「…おい、其処な化け者よ…こんな館に何の用じゃ?
…まあ、我は丁度貴様を探しておったのじゃからいいか…
クックックックックッ……。」
其処―――謎館の中から、男の声がした。
それは化け者も「…あれっ、誰?」とその男に問う。
いや―――こいつは人間ではない。
ヴ ァ ン パ イ ア だ 。
「ククク…何をそんなに驚いておる。ヴァンパイアなんぞ狂い者に壱匹か弐匹おるじゃろ?
我は貴様を探しておったのじゃ。
まあさすが化け者と言った処じゃのう、雰囲気を消す能力まであるとは…
さすがの我も見失ったわい…クククク」
ヴァンパイアはまたクククと笑う。
「...へぇ、それで何の用な訳かな?? ヴァンパイアさん」
「今言った通り、我は貴様の事をずーーっと見ておったのじゃ―――。
最初見つけた季は、只の人間かと思ったのじゃが・・・貴様は狂い者、嫌われ者の化け者じゃった。
それでの、貴様の体に帝を憑けてやろうと思ったのじゃ。
・・・おうおう、名を名乗るのが遅れたな。
まぁ我に名などない。
ありとあらゆる怪奇生物に強き聖霊生物【帝】を憑ける名も無いヴァンパイアじゃ、クククク」
「へぇ・・・帝ねぇ? それを私に憑けてくれるということ?」
「そうじゃそうじゃ・・・我はそれが仕事じゃからの。それに・・・
貴様を見ているうちに貴様に惚れてしまったのじゃ・・・
我の性的な血の騒ぎが収まらなくてのぉ・・・
丁度いい、帝憑きは交尾で行えるものじゃ・・・貴様には多めに帝の種を付けてやろう」
帝憑けのヴァンパイアは化け者に近づき、
耳元で囁いた。
「・・・なにそれ? それは本気? こんな気持ち悪い化け者が相手でいいの?」
「我は至って本気じゃが・・・? それに、我は目覚めたばかり・・・
初仕事なのじゃ。我の『初めて』とやらを奪わせてやる相手が貴様なのじゃ。
どうじゃ? 嬉しいであろう?」
「・・・いいよ。私も初めてだから」
「クククク・・・一つ条件があるのじゃが、よいか?」
「・・・?」
「多めに種付けしてやるから・・・我と恋愛契約を結べ。」
「・・・私でいいの? 正直私は一目惚れしたようなもんだから、できるなら別にそれでいいけど」
「ああ、貴様でなければダメなのじゃ。狂っているのに優しい貴様じゃなきゃ・・・。
まぁ、嫌だと言われても契約を結ぶつもりであったぞ・・・ククク・・・
それでは始めようぞ・・・化け者よ。」
「・・・分かった」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふ―――っ、んんっ・・・はぁっ、はあっ…ふああ……っ」
「ふふふ―――っ、いい声で鳴くじゃん…可愛いじゃん―――っ、あう…っ」
「はーっ、はあっ…あ………っ、出る……っ」
「はあ…っ、んんっ……ふふふ…可愛い、その顔」
「……っ……ククク…貴様だってはしたない顔をしているではないか…クククク」
「…これで私の躯に帝が宿ったってこと?」
「そうじゃ。覚醒すればその【帝】が貴様の躯に憑き、力が強まるあろう…
かなり強い聖霊だが、貴様なら操れるな?」
「勿論…それじゃ、これで恋愛契約も完了ってことだね…
…そうだ、お礼って言ってもなんだけど…
名前、付けてあげる?」
「ほぉ…名前―――か。
我には充分じゃ…恋愛契約が礼なのだからな…名があるとすれば…そうじゃな、『帝ヴァンパイア』、
というところじゃろうな…
そうじゃ、貴様、正式な名がないんじゃろ? 付けてやろう…
…そうだな、貴様の正式な名は…
帝・ルナティックザナイトメア・ディストラクション・
マリオネットドール・パニッシュメントモンスター…じゃな。」
「…その名前、くれるの? ありがと。」
「礼には及ばん。
…貴様は今日から我の恋愛契約者じゃ…その狂世界というものも特と見せてもらうぞ。」
「勿論、大歓迎だよ…私の契約者さん」
――こうして恋愛契約・帝憑きも成功し、
化け者はまた世界を支配するのであった。
*帝憑編 終*
*おまけ*
化け者は帝を体に憑けたことにより、
帝憑以外にも帝憑+弾ける音でフォルムチェンジ【帝音ハジケ】ができるようになったのだ。
狂気の歌声も、完璧な歌声も出せるようになった。