第15話
シンシア姉がシアと略名がかぶるのでセシリア姉に名前を変更しました。
◆ ◇ セシリア視点 ◇ ◆
なんやこれ...。
ニアが帰ってくるなり、なんかテンパった様子で変なメダルみたいなんを手渡してきよったんやけど。肝心の本人がテンパっとって何が言いたいんか意味わからん。
メダルにはニアの名前が書いてあるだけで、裏面は何も書かれてへんし。さっきからこの子が言うとる貴族の紋章とか言うのんは何の事や?
「なぁニア、裏に紋章なんてあらへんけど?」
「嘘!?」
「ほれ、見てみ」
「そ...そんな」
取り敢えずメダルをニアに返して...。んん?
何か模様が浮き上がってきおったな。これは...剣に炎の羽...?
「ほっ、ほらっ、見て...見てっ!!」
「あー...うん、何か浮き出てきたみたいやね」
...けどこの模様、何やどっかで見覚えが...。どこやったっけか。
......。
っと、そや。そんな事より先にシアの怪我を治療してやらんと。
テンパるニアを一先ず放っておいて、シアの怪我を綺麗な水で洗い流してから、薬草を揉んで貼り付ける。後は仕上げに包帯を巻いて終わりや。
切り傷やから化膿だけが心配やけど、この薬草を貼っつけとけば...まぁそのへんは大丈夫やろ。
半日おきに取り替える必要があるけど、ニアとシノが沢山薬草を取ってきたし完治までもちそうやな。
「セシリア姉...ありがと」
「はいよ」
さてさて、シアから感謝の言葉も受け取った事やし、そろそろニアの相手をしてやらんとな。
もうテンパり過ぎて、メダル見たまま固まってしもうてるし。
「それでニア、そのメダルやけどジークが帰ってきたら...」
「おおおっ、ニアそれどうしたの!? いいな~...それ、フォール様の紋章だろ? いいなぁ~」
「ロナン、帰ってきたんか...。そのメダルの事で相談があるんやけど、ジークも一緒に帰ってきたんか?」
「いや、ジークはもうちょい仕事の話で遅れるって......。それよりなんで騎士の証の模造品をニアが持ってんの? 騎士なんか興味無いって言ってたのに。いいなぁ~ 俺も欲しいなぁ~」
「なんやロナン、そのメダルの事知っとるんか」
「知ってるも何も、俺が目指してるものだよ。実力を認められれば貴族様からそのメダルを渡されて、騎士になる後ろ盾になってくれるんだよ」
「へ、へぇ~...そうなんか。それって騎士の後ろ盾以外でもらえたりするモンなんか?」
「んー......。俺の知ってる限り、貴族が私兵の騎士として雇うためにくれるって事だけだけど」
「ほんとか...」
「ぴっ...ぴぇっ」
あー...うん。
ニアが限界越えて変な音出しとるけど、まぁこりゃしゃあないわな。
騎士かぁ......。
そうか、騎士かぁ.......。
「ニア、騎士になっても頑張るんやで」
「えっ、何!? ニアも騎士目指すの!?」
「...ふひっ...ひぇっ?」
まぁ、からかうのもこの辺りにしとくかな。
しっかし、こりゃ本格的にジークと相談せんとあかんな。うちだけじゃ何も判断できんわ。
「んっ、セシリア姉、私も貰った! 私も騎士になるっ!!
そしたらお肉いっぱい食べられる...ロナンから聞いた、騎士になったら何でも買える......じゅるり」
「お...おおう」
ホントか...シノもか...。いきなり問題が二倍になってしもたな......。
◇ ◆ ジーク視点 ◆ ◇
はぁ......。
人生とはうまくいかないものだ。
僕は孤児だ。
まぁ、それは別に良い。教会から最低限の食料が貰えるし、最低限の仕事も確保出来てる。
血は繋がっていないが家族だって存在する。
この14年間は何も問題なかった。この14年間は...。
僕達が住んでいるのは3つのスラムの丁度真ん中。15歳までの子供たちはみんなこの場所に住んでいる。
15歳になったら仕事を見つけて出ていく事を条件に、この地域での安全は3つのスラムから約束されていて、争いごとは殆ど起こらないし、犯罪に巻き込まれることも殆ど無い。
まぁ、この決まりは新たな派閥が生まれないようにする措置でもあるんだけど、僕達孤児が犯罪に巻き込まれずに暮らせるので不満を言う人は僕も含めて誰も居ない。
それで、いよいよ僕とロナンとセシリアが仕事を見つけて出ていく事になったんだけど......。
--仕事が見つからない
厳密に言えばロナンの仕事が見つからない。
端的に言ってアイツは天才だ。貴族の目に止まりさえすれば絶対に騎士になる事が出来る。
本人も騎士になる事が夢だし、僕もロナンには夢を叶えて欲しいと思ってる。
けど、肝心の貴族の目に止まるような仕事が無い。
彼に来る仕事のオファーは全部裏の仕事関係ばっかりで、怪しい店の用心棒や、借金の取り立て......。
これじゃあ実力を貴族に見せる機会なんて存在しない。
せめて冒険者にでもなれれば...。
けど、冒険者になるためには紹介状が必要だ。
街の安全に関わる仕事も多いし、身元が保証されないと冒険者になる事が出来ないわけで。
僕達にはそんな保証も無いし、紹介状をくれるような人脈も無い。
手詰まりだ......。
で、家に帰ってくると何故か雰囲気が変な感じに...。
なんでロナンは部屋の隅っこで膝を抱えてんだ?
それに、ニアは突っ立ったまま目の焦点があってないみたいだし。
「なんかあったのか?」
「そや、ちょっとニアとシノの事で話があるねん」
それでセシリアから話を聞いたんだが。これ...本物か?
手渡された2枚のメダルにはニアとシノの名前が彫られていて、裏面はツルツルで何も無い。
けど、二人が手に持つと......なるほど。
「こうして貴族の紋章が浮き上がるわけか」
「ど、どど、どうしよう、ジーク兄」
「んっ、お肉いっぱい食べれる」
シノは何を言ってるのかさっぱりわからんが。
成る程、こんなしかけがある以上...本物に間違いない。それでロナンがショック受けてあんな事になってんのか。
けど、これが本物だとすれば二人は何故ここにいる?
これを受け取った時点で私兵として屋敷に住み込みになるはずだし、此処に帰ってはこないはずだ。
しかもこの紋章は......。
「フォール家...」
--嘘だろ...
剣に炎の羽、間違いない...。
演劇にまでなってる英雄、リディア - N - フォール様の紋章だ。