第13話
えーっと......。
......うーん...説明かぁ...説明...。
説明ったって、傷が消えたり毒にならなかったり、説明するのがメンドイぞ。
んんー.......よしっ。
こんな時はまた話題を変えちゃおう。
「そう言えば、もう一人倒れてるけど大丈夫なの?」
「あぁー...えーっと...この子は...」
「私はダイジョブ、こうして状態異常を回復してる」
--ぐで~
「あとちょっと...」
「う...うん」
私が心配の声を掛けると会話には参加してきたんだけど、顔も上げずに地面で『ぐで~』っと広がったままだ。
黒髪の隙間からは同色の猫耳がピコピコと動いていて、何ていうか......。そう、まんま家猫みたいだ。
ああ、あの猫耳を撫でまわしたい。
嫌がるのを撫でまわして萌え癒やされたい...。
「それであなた...大丈夫なのよね?」
「えっ?」
私が癒やしを妄想してると、何か聞かれた。大丈夫ってなんぞ?
「えっ...って、痺れ毒よ痺れ毒」
「あっ、うん、それね、平気みたい」
「そう...言いたくないなら何で大丈夫なのかは聞かないから、悪いけど向こうまで引っ張ってもらえる?」
うへっ、話を変えたのバレてたっ。
「あなた迷子なんでしょ? 助けてくれたら道を教えてあげるわよ」
「えっ、ホントに?」
「嘘なんてつかないわよ」
「よし、わかった、任せて!」
道を教えてくれるとか、女神かっ!?
こんなの迷う必要すらない、即答だよっ!
このまま帰れなかったらどうしようかと思ったよ。
さてさて...っと、それじゃあ早速引っ張りますか。
んー...服を引っ張ると破けちゃいそうだよね。ボロボロだし......そうだな、腕を引っ張るか。
「んしょっと...」
--パスッ
--パスッ
--ぽとっ
......。
あぁー、またトゲが飛んで来た。
けど、それにしても深淵の素材、凄いな。
うーん...いったいどうなってるんだろ?
飛んできたトゲが全部弾かれて地面に落ちたんだけどさ。手触りも感触もただの布地なのに、どんだけ硬いんだこの素材。
露出してる手にあたった時はサクッと刺さったんだけどなぁ。
--ホント、何なんだ深淵って......
さて、それじゃぁ気を取り直して...。
何か2人が私の事を見てるけど、気づかない、知らなーい。深淵の素材とか説明できる気がしなーい。
んじゃ...。
--ズリ
--ズリ
--ズリ
◆
◆
◆
「っふぅ......」
ちょっと時間が掛かっちゃったけど、無事に二人をあのトゲを飛ばしてくる草の範囲外まで引っ張り出せた。
--けど
道を案内してくれるって言ってたけど、これ痺れて動けないよね?
まさか私が背負って行くとか? いやいやいや、それは無いな。
まっ、2人が動けるようになるまで待ちますか。
それから2人が立てるようになるまで、なんでこんな所でこんな事になってるのか聞いてみたんだけども。
なんと、魔物に追っかけられて此処に逃げ込んだとか言いやがった。
--魔物っ!?
--どこにっ!?
何で先に言わないんだ! そんなん出てきたら私じゃ無理だぞ!?
って警戒するも束の間......。
あそこに逃げ込んだ時点で魔物はどっかに行ったとか言われた。
なんでもあの植物は有名で、魔物も含めて生物は基本的に近寄らないんだそうだ。
何だよ、びっくりしたじゃないか。まったく。
しっかし、あの植物そんなにやばいんか。
あんな危険なもの街の近くにあって良いものなの?
って聞いたら、魔物避けになるから放置されてるんだってさ。
あの植物の範囲に入り込んだら最後、喋れる程度の痺れ毒だけど死ぬまでずっとかけ続けられるらしい。
痺れ毒の胞子を撒き散らしていて、胞子毒が効かない生物が入り込むとさっきみたいなトゲを飛ばしてくるとか...。
危険だからこの森の入口に注意の看板が3つくらい立ってるって...そんなの見た覚え無いんだが?
え...まじで?
って、もう森の出口...あ、はい、ありますね看板。赤文字で目立つのが3つも。
うん、ごめん、見落としてました......。
「はぁ...あんた、あんな目立つ看板見落とすって......
まぁ、私達はそのおかげで助かったんだけど......」
「それはそうだけど、そっちだって何で危険だってわかってるのに、どうしてあんな場所にいたのさ?」
「それは...。仲間が怪我して薬草が必要だったのよ...」
「んっ、シアが怪我した」
「あー...ごめん」
仲間が怪我したんならしゃーないよね。
「確かにあの森...薬草いっぱい生えてたし、集めやすそうだよね」
私もそれに誘われて迷い込んじゃったし。
--あれっ?
「でも、薬草ならあんな危険な場所に行かなくても、森の手前にも生えてたけど?」
私みたいに依頼で沢山集めないといけないワケじゃないし、手前のトコでも良かったんじゃ?
「あそこは冒険者が来るから駄目よ。スラムの人間が薬草なんて採ってたら奪われるだけだし...冒険者は危険なのよ?」
「えっ...私も冒険者...」
「あんたは......なんか大丈夫そうだし...」
そんな直感的な...。まぁ実際、奪ったりしないけどさ...。
--それより......
「私はメイ」
「えっ...ああ、そう言えば自己紹介してなかったっけ、私はニアで...こっちが」
「んっ、シノ」
ふむふむ、ニアちゃんとシノちゃんかぁ。
「それでメイは何であんな場所にいたの?」
「えっ、薬草採取...」
「冒険者よね?」
「...うん」
「何で森の手前じゃなくてあんな奥に?」
「......ごめん」
「ちょっと、何で急に謝るのよ?」
いや、ホント、単純に薬草がいっぱい生えてるのが見えたから奥まで行ったんです。
「ま、まぁ良いわ。それよりほら、もう門まで着いたわよ」
「あっ、ホントだっ」
「それじゃあ私達は潜り込ませてくれそうな馬車を探すから...」
「ん?」
潜り込む...って?
「普通に入らないの?」
「当たり前でしょ?」
当たり前?
「私達はスラムの人間よ? 街に入る御金なんか持ってるわけないじゃないの」
「えっ...? 御金居るの!?」
どっ、どどどどっ、どうしようっ。
そんなの知らないし、出る時タダだったから御金なんて殆ど持ってきてないぞ!?
確か、帰りに串焼きの露天で1本買おうと思ってたから銅貨1枚......。
「こっ、これで足りるかな?」
「......はぁ...」
えっ、何その溜息、やっぱコレじゃ足りないって事!?
「あんたね、冒険者でしょ?」
「う、うん」
「なら御金なんて取られないわよっ」
「......えっ?」
「御金取られるのは身分証が無い人間と、一定以上の品物を持って出入りする人間だけよ」
「...そなの?」
「そうなのよっ! 私達は冒険者ギルドに登録出来ないし、身分証も無いから御金がいるけど...。あんたはそのまま入れるわよ」
--マジか...
よっ、よかったぁ......。
「まぁ、あんたが上位貴族なら問題解決なんだけど......こればっかりは仕方ないわ」
--んんっ?
「上位貴族?」
「ええ、上位貴族なら身分証を発行出来るから、単純に身分を保証してくれるだけで街に出入りできるのよ」
あー...これ、もしかして私の身分ならいけるんじゃ...?
ニア達は私が上位貴族だとは微塵も思ってないみたいだけど、まだいけるかどうかわかんないから、ニア達に言う前に一回門番の人に聞いてみるか。
「あー...ニアちゃん」
「んっ? 何?」
「えっと、ちょっと待っててもらっても良い?」
「う、うん、それは良いけど...」
--よしっ
「じゃっ、すぐすむからちょっと待っててねっ」
--ダダッ
「あっ、ちょっと」
後ろからニアちゃんが呼び止めて来たけど、私は真っ直ぐ門番の方へと走り出した。
だって私が上級貴族だって言ったら逃げ出しそうだし、すぐに聞いてくるから待ってて頂戴な。