召喚失敗?
「我が名はリズーニア・シェルダン。深淵なる闇に潜みし魔のものよ、我が血と名の呼びかけに応じよ……」
何本もの列柱に支えられた薄暗い広間。その中央に描かれた魔方陣の上に小柄な赤毛の少女が立っていた。
彼女は足元の魔方陣に指先の血を一滴垂らし、目を閉じて召喚詠唱に集中する。そんな彼女を遠巻きに囲んで、彼女と同じくらいの年齢の少年少女たちがひそひそと囁き合っていた。
「リズの奴、今度は何を召喚するかな?」
「魔界バエ、魔界金魚ときたんだから、今度は魔界ブタあたりでも召喚してくれるんじゃない?」
そう笑い合う声を吹き飛ばすように、リズと呼ばれている少女が大声で最後の詠唱を唱えた。
「ここにリズーニア・シェルダンの血と名において命ずる! 出でよ、我と契りを交わせしものよ!」
リズの身体が輝き、ひとまとめに結わえた後ろ髪がふわりと浮き上がる。そして彼女の足元に描かれた魔方陣が眩い閃光を放った。
「おお!?」
閃光の中に見慣れない影が浮かび、生徒たちが声を上げる。それが何ものか見極めようと、数秒の沈黙が落ちる。
そして、誰かが呟いた。
「……手?」
魔方陣には魔物と思しき異形の手と、地面に膝をつき呆然とそれを見るリズの姿があった。