黄昏から曙
午後の4時から6時の間。
空が赤らむ束の間に、短く構えるお店がひとつ。
ビールとワインとミルクが行き交う、街角に佇む酒場のカケラ。
その店の名は「タソガレ飯店」。
料理を出さずに飯屋を名乗る、ボウトク的なフトドキ者は、黒くてイカしたカイゼル髭をたくわえて、お客が酔うのを眺めてる。
丸い眼鏡の光る先では悩みを抱える人の列。頭を抱え、胸を抱え、お腹を抱えて悩んでいる。
太陽と月が眠る赤。薄い夕闇のベールに隠れて、ひそかな悩みが集まり満ちる。
レジの隣には悩み箱。
悩みを抱えるお客が描く、一葉のメモたちが落ち合う木箱。なれ合い、じゃれ合い、まじわり合わず、枯葉のように積もりゆく。
フラつきユラつきグラつくお客は、ひと息ついて店を去る。
残されたるは悩み箱。
太った小箱をカラリと揺らし、カイゼル髭の店主が笑う。
今日も悩みをドッサリ仕入れた。明日の朝は大忙しだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕闇潰れて夜になる。夜が流れて朝になる。
そして現在午前4時。
空が青ざめる朝の闇。日の出の時間にはまだ早い。
タソガレどきを商う飯屋は、装いを新たに再び開く。
その店の名は「アケボノ探偵」。
お酒のにおいが漂う事務所。古びたソファの中央で、丸い眼鏡のヒゲなし探偵がキセルをくわえて待っている。
彼は確かな辣腕家。彼がただせぬ悩みはおらぬ。
闇から闇へと身を隠し、悩みの根元を探してただす。
追い詰められた悩みを捕まえ、小瓶の中に捕えてしまう。
太陽と月が眠る青。冷たい黎明の光を浴びて、青い顔したお客の列。
悩みを盗まれ不安なお客に、丸い眼鏡の探偵が笑う。
あなたの悩みは捕まえました。さあこの小瓶をごらんなさい。
失くした悩みを手元に抱え、青い顔したお客が躍る。
これで全ては元通り。
一日は今日もまわりゆく。