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「が」ー画・蛾・我ー

作者:牧田沙有狸
濁音はじまる。
「が」行
音声認識育成ゲーム「ココロ虫」
会話をしてくれるペット。
餌はあなたの言葉です。

寂しすぎた夜、よく分からないアプリをダウンロードした。
会話をしてくれるペットで、まずは卵から始まり育てていく。
会話の内容からあたしの精神状態を分析して虫の種類が決まっていくらしい。
昔、「シーマン」って口の悪い人面魚育てるやつあったな。
やったことないけど、ああいう可愛くない奴の方がいいのかなって思った。
虫がペットで精神状態が反映されるって、相当病んでいる気がしたが強く惹かれるものがあった。
はっきりいって虫は嫌いだ。
嫌いだからいいんじゃないのかな。
愚痴相手には。

あたしはお酒が飲めない。すぐ頭が痛くなる。
飲む人たち同士って、なんだかんだ愚痴りながら楽しい時間を過ごしてる。
そして何も解決してないけど発散してる。
あたしにはそれができない。
女子同士の飲み会で「飲めないからいいよ」なんて支払いに序列なんかつけてくれない。
必然的に、酔っ払って発散してる人の分まで多くお金払ってるみたいで嫌になった。
酔っ払い相手に自分はなにも解消しないのに。
かといって、普通のカフェとかで愚痴る姿は、不幸自慢をしているようで余計惨めになる。
旦那の悪口言ってファミレスで居座るママさんたちみたいに同じような境遇同士ならいいんだろうけど。
愚痴を聞かせるだけの酒を飲めない友達もいない。
気の合う昔からの友達は楽しいことを共有したいし、正直、最近本音で付き合えない。
結婚できないモヤモヤを既婚者に話したところで、自由でいいねと言いながら優越感見せられ惨めになるから。
別に結婚に焦ってる訳じゃない。だけど年齢的に周りがうるさくて自分を否定されているような気になる。
だったら多少無理してでも、盛ってでもいいから、愚痴っぽい女にはならないように腹にしまっておく。
そういう鬱憤はたまる。
カウンセリング受けるほどでもない。
気軽にお越しくださいっていうけど、相手は仕事でやってるしそれなりに料金かかる。
もっと、気軽に愚痴る相手が欲しかった。
もちろん、話を聞いてくれるだけの男性がいたらこんなアプリをダウンロードしない。

アプリが起動し、画面に緑色の葉っぱ、その上に白い卵が映った。
「なんか、はらぺこあおむしみたい」
小さい頃読んだ大好きな本。
穴が開いてて面白かったけどストーリーは単純な絵本。
アオムシがいろんな物食べて、さなぎになって最後蝶になるってだけの話。
蝶々の羽の色が食べたものと同じだって気づいた時、なんだかただの絵本じゃないって気がした。
全部大事なんだなって。
「君は、はらぺこあおむし君かい?」
なんだか穏やかな気持ちになって、白い卵に語りかけた。
「もうすぐ生まれるよ!」
天才子役みたいな可愛い声で返事をした。
数時間後、アオムシが誕生し、あたしは勝手にこの虫は蝶々になるんだと思った。


それから毎日、家に帰ってアオムシと会話をした。
あたしはアオムシに「ペコ」という名前をつけた。はらぺこのペコ。
アオムシにもあたしの名前を覚えさせて、その可愛い声で呼ばせた。
上司のパワハラ発言から、仕事しない後輩の話。
うるさい親の電話から、自慢しかしない同僚のLINE。
態度の悪い店員、しつこいキャッチセールスに頭の悪そうなメール。
いろんな人にムカついた自分の気持ちを、ペコに吐き出した。
あたし、ずっといい人ぶって何をため込んでいたんだろうってぐらい暴言がいっぱい。
毎日、あたしの愚痴を聞いてるペコはどんどん大きくなっていった。
なんだか楽しかった。
この一見酷い言葉たちが、りんごやスモモ、チョコレートケーキやピクルス
そして葉っぱになっていくような気がした。
アプリをダウンロードしてから1ヶ月がたって、ペコはさなぎになった。
あたしが吐き出したものを吸収したペコは、きっと、困難を乗り越えて美しい蝶々になって飛び立つんだ。
なぜかそう確信していた。
確実にペコに癒やされている自分がいた。

翌日、画面には茶系の気持ち悪い色の蝶がいた。
予想していたのと違った。
「蝶だよね?」
「蛾だよ」
シーマンさながらの、おっさんみたいな声で言われた。
大人になってしまい、声変わりしたらしい。そもそも雄だったのか。
「蝶々じゃないの?」
「虫偏に我と書いて蛾だ」
「なんで」
「お前の言葉で構成されたんだから、こんなもんだろ」
「蛾・・・」
同じような形してるのに、この絶望感はなんなんだろう。
素敵な花瓶ねと思ったら、それ尿瓶だからって言われたような。
いや、それは見た目の差じゃないか。
コオロギとゴキブリぐらい。
いや、もっと差がある。
なんだろう、この気持ち。

蛾と蝶の明確な区別はないらしいが、簡単な分け方をすれば蝶は昼型。蛾は夜型。
アプリを開く時間帯にも関係あるのかもしれない。
夜な夜な愚痴っていたら夜型の虫が生まれてもしかたがない。
シーマンみたいなのでもいいって思ってたのに、
途中から勝手に自分のペットだからキレイになるに決まってるって思い込んでた。
何、子供に過剰な期待する親みたいになってるんだ。
でも、
---お前の言葉で構成されたんだから、こんなもんだろ

その言葉がずしりと響いた。

会話の内容からあたしの精神状態を分析して虫の種類が決まっていくらしい。
そう書いてあった。
そりゃ、こうなるよな。
いくらアプリだからって酷い言葉ばっかり言ってたら、結局聞いてるのは自分の耳だから。
酷い言葉を聞いてるココロは醜くなる。
「蛾か・・・」
「なんだよ」
「虫偏に我と書いて蛾?」
「そうだ。かっこいいだろう。蝶々なんて所詮はっぱだ。」
「え」
なんだか、蝶々が葉っぱの栄養しかない薄っぺらい人に思えてきた。
虫のくせに、この虫は多食だから「我」になったんだな。
地味だけど、いろんなもの吸収して自分は自分って言ってるみたいに見えてきた。
嫌な言葉、酷い言葉を使いたくなってしまう、使ってしまう気持ちはしかたない。
その言葉で誰かを貶めるのは罪だけど、言いたくなる感情まで否定することはない。
アプリにぶつけてた自分が急にいじらしく思えた。
「そうだね。かっこいいね」
あたしがそう笑顔で言うと、蛾は静かにに発光しはじめた。
「どうしたの?」
「そろそろ最終形にいけるよ」
「また変わるの?」
「最後、本当の姿になって飛び立つんだ」
コーヒーとカレーの染みがついたみたいな色だった羽が、キレイな青緑色に変わっていく。
エメラルドグリーンってやつ。宝石みたいなキレイな緑。
「蝶々になったの?」
「蛾は蛾のままだよ」
「え、でもめっちゃキレイ」
「オオミズアオガってのがモデルだ」
「え」
「じゃあな、今までありがとう」
青緑色のキレイな蛾は飛んでいき、画面から消えていった。
アプリは終了した。
また始めたければ新しいペットを飼ってくださいと。
案外簡単なプログラムだったような気がしたけど、このアプリのおかげで楽しかった。
あたしは自分を好きになれた。
あたしの名前は大水青子だった。














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