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第88話 たまには感傷的にもなるさ

 ここはいつものミルファク・ラウンジだ。

 俺達は朝食後のお茶をしてからウエスティアに転移することにした。転移することにしたんだから時間に余裕ができた。慌てなくても魔法学園の入学試験に間に合う。


「そう言えば兄貴達もスリーマンセルにするんだろ?」


 エドは戦闘フォーメーションについて気になるらしい。それも最もな話だ。いざ戦闘になればエドのチームだけでは足りない可能性があるからだ。


「もちろんだよ。前衛はエリシア、後衛はクリスタ、遊撃は俺の三人でスリーマンセルだ」

「え~、私はどうしたらいいの?」

「パメラはいつも俺と一緒にいてくれ。二人で一人だから数に入れなかったんだ」

「それもそうね。パメラはいつもペルシーと一緒」

「訓練は六人でやった方がいいよな?」

「それは絶対だ。ウエスティアで落ち着いたら訓練しよう」


 この世界で生きていく以上、俺達は魔物達との戦いを避けて通ることはできないだろう。だから、俺はこのチームを世界最強のチームにしたい。でも、目的はなんだ? 自分たちの身を守るだけならば今のままでも充分に強い。

 俺は未だに自分の身に起こった非現実的な状況を昇華できないでいる。

 多くのラノベの主人公は異世界に入り込んで何の疑問もなく無双しているのに、俺ときたらどうだ。人の心はそう簡単に変わることはできないんじゃないのか? それとも、いつまでもくよくよしている俺がおかしいのか?


「ペルシー、浮かない顔」パメラが唐突に言った。

「隠し事ができないのです、ペルシーさんは」クリスタまで……。

「二人には隠し事ができないな」

「兄貴、俺達にだって分かるぜ」

「そんなに判りやすかったか?」

「お兄様…」

「まあ、ばれちゃあ仕方ない」

「ペルシーさんの考えていることは大体分かります。その原因は、このミストガルでの生き方、接し方が定まっていないことなのです」

「ペルシーは、こうあるべきだという想いが強過ぎる。それがこの世界と合っていんだと思うわ」

「ははは、見抜かれているな。でも、それが俺だし……」

「間違ってはいないと思う。だからこそこうして仲間ができた」

「パメラちゃんの言うとおりなのです。ただ、時間は必要。焦らないで、ペルシーさん」

「クリスタ……。なんだか惚れちゃいそう」


 クリスタの瞳は吸い込まれそうな蒼だ。このままクリスタを抱きしめたい……。


「惚気けるのは二人だけのときにしてくれよ」

「みんな、ごめんな。俺は柄にもなく、時々感傷的になってしまうんだ」

「問題ない、ペルシー」


 俺達はお茶の時間を終えて、ウエスティアへ転移する準備にかかった。とは言っても、転移はレイチェルに任せるしか無い。

 ミルファクからボスコニア山の頂上付近に出ると、レイチェルはクロノスを呼び出した。


「クロノス、久しぶりだな。元気か?」

「もちろん元気いっぱい」

「それは良かった」


 クロノスは相変わらずちっちゃくて可愛らしい姿をしている。


「レイチェル、頼んだぞ。でも、ギルティックのアジトに転移するのは勘弁してくれよ」

「お兄様、そんなことはしません。信じて下さい」

「冗談だよ、レイチェル。それでは頼む」


 レイチェルはクロノスを抱きしめると、クロノスに指示した。


「クロノスちゃん、ウエスティアの草原に転移!」

「了解」


 きっと、ウエスティアは希望と絶望が混在した都市だ……。何故か分からないが、そんの気がする。

 でも、そんなことどうでもいい。エルザとレイランに逢えるのだから。


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