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第62話 姫騎士(3)黄金竜 対 フェニックス

 ソフィア騎士隊は四頭の赤竜に囲まれていた。

 その中の一頭は赤竜というよりも龍神族のように黄金色に輝いている。


「やつらは我々から二十メートルほど距離をとっています」


 獣人ミリアムの言う通り、ソフィア騎士隊のから距離をとり、等間隔で囲んでいる。


「おそらく、ブレスで同士討ちしないようにしているのだろう」

「どうしますか?」


 ソフィア達は覚悟を決めていた。

 赤竜が一頭だけだとしても勝負は五分五分である。それが四頭もいるのだ。

 しかも何の冗談か、そのうちの一頭は他の三頭と一線を画している黄金竜なのだ。


「黄金竜からは離れたほうが良さそうですね」

「そうだな、反対側の赤竜を突破しよう」

「御意に」


 ソフィア達が黄金竜から距離を取りたかったのは、黄金色だからというわけではない。

 何らかの圧力を感じるのだ。


「それにしても不気味だな。我々を監視しているようだ」


 とても下等生物とは思えなかった。いつもならば猛獣のように襲ってくるはずである。

 ひょっとしたら話が通じるのではないか? そんな希望的な観測がソフィアの思考を鈍らせる。


「楔陣形をとれ! 我の合図で黄金竜の反対側の竜に突撃する!」


 ソフィアはどんな時でも冷静沈着さを弁えているが、今こそそれを実践しなければならない。

 ――私が狼狽えてはいけない……恐怖は伝染するのだ。


「魔道士班は合図と同時にブレスに備えて魔法防御壁を作れ!」


 とても作戦と言えるようなものではなかった。

 しかし、このままでは何もしないで全滅してしまう。やるしかないのだ――


 ソフィアには一つだけ勝算があった。

 それは彼女を最強と言わしめた彼女だけが使える魔法――召喚魔法があるからだ。

 そのタイミングは今ではない。

 赤竜達を一箇所に集めて殲滅しなければ、ソフィア達が全滅してしまうだろう。


「みんな! 準備はいいか!」


 「おう!」という掛け声が上がった。

 ソフィア騎士隊の構成は騎士隊が十五人、魔道士班が五人で構成されている。

 全員がソフィアを尊敬し、ここまで付いて来てくれた。

 ソフィアはその信頼に応えなければならない。


 赤竜達は動かない。それは隙きを突くことができないということ。

 味方である第一、第二騎士隊が応援に駆けつける気配はない。


 運が尽きたか――


「全員! 突撃!」


 ソフィアが先陣を切り、全員がその後に続いた。

 目指すは黄金竜と反対側の赤竜だ。

 その赤竜がついに動き出し、はブレスを吐こうとしている。


「魔道士班! 魔法障壁を急げ!」


 魔道士班の訓練は行き届いている。一切の乱れもなく、見事に魔法障壁を展開した。

 その直後、赤竜のブレスが魔法障壁を直撃した。

 魔法障壁は難なく赤竜のブレスを弾き返した。


 ――大丈夫だ。勝機はまだある。


 ソフィアを先頭にその赤竜に突撃。馬に鞭を打ち加速する。

 スピードに乗った騎士達の刃が次々と赤竜を襲う。


 その赤竜は足をずたずたにされて、堪らず飛び立とうとしたが、魔道士班の魔法攻撃が翼を切り裂く。


 ソフィア騎士隊の一糸乱れぬ攻撃に、赤竜は敗北した。

 しかし、トドメを射す余裕はない。


 ソフィアは左に旋回しながら、残りの三頭がなるべく一直線上に見える位置にをとった。


 一番遠い赤竜が飛び立ち、ソフィア達の背後に回り込もうとする。

 騎士隊の弓矢と魔道士班の一斉攻撃が火を吹いた。


「ミリアム! その一頭はお前たちに任せたぞ!」

「了解です!」


 ソフィアは残りの赤竜と黄金竜に向き直り、召喚魔法を唱えた。


「炎の山に棲みし精霊よ! 神に仕えし不死の鳥よ! 我が命じる。顕現せよ!」


 ソフィアと竜達の間に、美しく輝くフェニックスが降臨した。

 フェニックスはソフィアを振り返り、優しく頷いた。おそらく微笑んでいるのだろう。


「開放せよ! 聖なる火炎!」


 フェニックスの頭から青白い灼熱の炎が渦を巻きながら二頭の竜を襲う。


 しかし、聖なる火炎の餌食になったのは一頭の赤竜だけだった。


「黄金竜はどこだ!」


 その時、ソフィアの背後から悲鳴が聞こえた。

 ミリアム達が赤竜と戦っている横から、黄金竜が強襲し、ブレスを吐いた。


 魔法防壁の横からブレスを吐かれたので、魔道士班全員と、騎士隊のほとんどが一瞬で炎に包まれた。


「ミリアム! エリシア! どこにいる!」

「「私たちは無事です!」」

「残った者全員を私の背後に誘導してくれ!」

「「はい! すぐに!」」


 しかし、生き残りは二人の獣人を含めて五名しかいなかった。

 黄金竜のブレスで十名が一瞬で命を落としたのだ。なんという火力だ。

 さすがに馬も怯えている。役に立たないかもしれない――


 残りは赤竜一頭と黄金竜一頭だが、ミリアム達の攻撃で赤竜の方は既に戦闘が不可能なほどボロボロの状態である。実質的には黄金竜が一頭だ。


 勝てるかもしれない。 ミリアム達は一瞬だけ希望を見た。


 ――そうか、黄金竜は赤竜を盾にしたのか。


 ソフィアは気づいた。

 黄金竜は躊躇なく赤竜を見殺しにするだろう。

 彼女が安易にフェニックスで攻撃すれば、黄金竜は赤竜を盾にして背後に回り込むだろう。

 あれだけの巨体で、一瞬で移動するとは、何という恐ろしいスピードだ。


 ソフィアは召喚したままにしていたフェニックスに指示を出した。

 狙うのは黄金竜だと――


「ミリアム! 全員撤退させろ!」

「御意!」


 黄金竜もソフィアの考えを理解したのか、ブレスを吐こうとしている。

 ――まずい、こちらには魔道士が居ない。


「開放せよ聖なる火炎!」


 フェニックスの攻撃は一瞬遅れた。


 聖なる火炎と炎のブレスの衝突。

 凄まじい熱量が大地を焼き、風邪を呼び、炎の竜巻を産んだ。


「ソフィア様!」


 ミリアムとエリシアは退避しないでソフィアの前に立った。

 ゆっくりと、炎の竜巻がソフィア達を近づいてくる。


「馬鹿者! 何故逃げないんだ!」

「「ソフィア様をお守りします」」


 逃げた三名の騎士たちは馬がいても逃げ切れないだろう……。

 相手は竜なのだから――


 そして、無情にも炎の竜巻がソフィア、ミリアム、エリシアの三人を飲み込んだ。


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