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桜条の血族  作者: 高天原 綾女
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序章

『不幸な出来事は重なる』よく耳にする台詞。生きてれば実感する時があっただろう。例えば独身時代。目覚まし時計の電池が切れ、寝坊、前日の夜に買っておいた食品を食べられないまま家を出る。駅まで行くが、財布を忘れて電車に乗れない。遅刻は決定的になる。その日に限って、かなり上の上司と話す用事があったりする。小さな出来事ではこんな感じかな。

 また、大きな出来事としては、家庭内で次々と病人が出て、入院したと思ったら死に至ったりする。

 そんな年は、運気が良くないだとか、家相がどうだとか、厄払いをしたりする人もいるが、自分は不幸が重なるのは理屈で説明できると考えている。

 一般的に感じられている不幸というのは、本人の準備不足や見通しの甘さ、また不注意などが主な原因だ。自己の能力不足を不運や不幸に転嫁するのは、自身の成長を放棄したも同然だ。

 死人が短期間に出るのも論理的に考えれば至極単純だ。夫婦で歳を重ねれば、同時に高齢になり、何かしらの病になる。片方が倒れれば、片方の負担が増す。そうなれば、弱った所も悪化し、疲弊する。持病があれば尚更だ。死者を送るにしても、肉体的、精神的に多くの労を割かれる。年齢に大差がなければ、どうしても死期を早めることになるだろう。

 私はコーヒーを二杯入れて、夫の元へ運んだ。

「あなた。コーヒー飲む?」

 パソコンに向かう茂樹が、チラッとこっちを見た。

「ああ、頼む」

 夫の茂樹は、画面に視線を固定して答えた。

 自分は平凡な人生を歩んでいると思っている。認識としては、今でも変わっていない。二十四歳の時、夫と出会い、二十六の時に茂樹と結婚。共に暮らして早三年目になる。子は無いが、生活は落ち着いていて、小さな幸せの積み重ねが大きな幸福感を与えてくれる。

深めのカップを夫に渡すと、机の上に静かに置いた。

「ありがとう」

「甘い物いる?」

「いや、充分だ。ありがとう」

 結婚すると何気ない会話が楽しい。

 私は、結婚するまで味気ない生活を送っていた。生活水準には変化はないが、これまでになかった潤いが加わった感じだろうか。

「仕事、まだ終わらないの?」

 マウスやキーボードを触っている夫に聞いた。

「いや、書き留めておきたいことがあってな。これは日記のようなものかな」

 その答えを聞き終えると、キッチンにヒドイ脂汚れのフライパンを浸け置きにしっぱなしだったことを思い出した。

 私は、急ぎ台所へ向かい、それを束子で力を込めて洗う。

 夫は夜になると、日記の様なものを書いている。それを見た事は無いが、忙しい時はメモ書きにしているくらいだから、一日を終える儀式のようなものなのかもしれない。

「望~。ちょっといいかな?」

「ナニ?」

 私は綺麗になったフライパンを水切り棚に置くと、夫の元へ向かった。

「どうしたの?」

「桜条家でゴタゴタがあったじゃないか、断片的には知っているんだが、ちゃんと聞いておこうと思ってね。教えてくれるかな?」

 桜条家のゴタゴタとは遺産相続のことである。

 巨額の相続問題に関われたのは珍しかったが、どこまでも現実味の無い体験だった。

この体験で、どう転んでも私には一円も入ってこないのだが、社会勉強にはなったと思っている。

この件は、興味深く、小さな謎が残ったのだ。桜条家の遺産金の現金三千万円が消えたらしい。大金が消えた事により、金銭以上に血族同士の関係が悪化してしまい、今では本家と分家がいがみ合っている。

結局、今も大金は消えたままで、不動産や保険などの分配で終了したらしい。

「いいけど。どうしたの?」

「ちょっと気になる事があってね………」

 茂樹が頭髪を掻き回す様な仕草をして言った。

「どうかな?嫌ななら別にいいけど………」

 頼む様な口調で言うので、私は答えた。

「主観が入っているけど、それでもよければ」

 私は、夫の横に椅子を移動させて腰掛けた。

「どこから話せば良いのかしら?」

「お祖父さんの葬儀から頼むよ」

「わかったわ」

 私は、祖父の葬儀を思い出していた。豪華な葬儀で、多くの人が集まっていた。名家の葬儀という感じが漂っていて、祭壇を飾る花の量に驚かされた。

 私は通夜の日の事から喋り始めた。


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