Chapter 4:『創造者』と、そして迫る危機
※今回から地の文での主人公の創の表記はそのままで、『大人の創』は途中から創にルビで『そう』と振られている形になっています。ご了承ください。
「さて」
『大人の創』は居住まいを正す。先程までの和やかな雰囲気とは打って変わって、彼から真剣さがひしひしと伝わってくる。
出会って間もない彼らではあるが、『大人の創』が非常に温和な人間である事は創も何となく察してはいたが、この様変わりは彼にとっても予想外であった。創は思わずつばを飲み込む。
「ここからが重要な話だ。これは、君にとってもっとも関係の深い事柄だ。…現実味がない話になるけれど、それは君が本当の自分を知らないからだ」
「…本当の、自分?」
「ああ。各世界に一人ずつ存在する者であり、その世界を文字通り創りあげる者―『創造者』。そのうちの一人。それが君だ」
―なるほど。これは確かに現実味がない。…よくよく考えなくても此処に至るまでの過程の時点で、既に現実だとか常識だとかに囚われて無さすぎるのだが。というか、こんな突拍子もない事を、よくもまぁ臆する事なく話せるものだ。普通、頭がおかしいだとか、そう言われるような内容の話を、だ。
「…あえて言わせてもらいますけど、何かの間違いじゃ」
「ないんだな、これが」
今までの話とは違い、明らかに信じ難いそれを否定しようと発した言葉を、『大人の創』にあっさり切られてしまう。
「かくいう僕も、その創造者の一人。そして、この世界における君が『僕』と同一の存在である限り、君は間違いなく創造者だ」
「…ええと、つまり何か?貴方が僕に似てるのは単なる偶然とかじゃなくて、正真正銘神薙創本人だから、と?」
「うーん、僕が神薙創であるかと訊かれたら、正確に言えばその答えはNOなんだけど…あ、そっか。自己紹介をしていなかったじゃないか。いけないいけない。すまないね、ちょっと物忘れが激しくてさ」
あはは、と頭をポリポリと掻きつつ、『大人の創』は創に対し謝罪する。
言われてみればそうだ。『大人の創』というのもつまるところ彼の中での仮の呼び名であり、彼本人の名前は一切聞いていなかったのだ。そしてまた、自分も同じように名乗っていない。馴れ馴れしく話していたせいで失念していた。
「じゃあ改めて、自己紹介だ。僕は神薙創。神に薙ぐと書いて神薙で、創造の創で創…まぁつまり、君の名前と同じ漢字。そして出身は第三世界『繋がりの世界』の創造者。ちなみに年齢は二十五だ」
…文字で起こしてみて、これほど『厨二病』という言葉が似合いそうな自己紹介はない。だが、創には何故か妙にそれが納得できてしまう。理屈などではなく、単なる感覚でだが。
それに彼の名乗った名前。読み方は異なるが、名前自体は自分のそれと同じだ。
そこで、自分も名乗ろうとする。
「ぼ、僕の名前は―」
「神薙創、だろ?」
だが、彼―創は既に知っていた。…元より彼の事を知っていたような口振りではあったが。
「不思議かい?まぁ、別の世界の情報は大体知識として持っててね。そこに、君の事もあっただけさ。…ま、流石に内面についてだとか、そういう事は知らないけれど」
それを聞いて創はやや身震いさせ、その様子を見た創は苦笑交じりに、自分がプライバシーの侵害をしていないと主張する。
「…まぁ、それならいいんだけど。それにしても、第三世界って言ってたよね。ならこの世界ってその、いくつ目の世界になるの?」
「ここは第四世界。そうだな、確か…『現実の世界』って呼ばれてるんだったかな。とはいえ、誰にとっての現実なのかは、僕にもさっぱりだけど」
「現実の世界…」
確かつい先程、創が自己紹介で言っていた出身世界である第三世界とやらにも、それっぽい名前が付いていたのを思い出す。彼の世界は『繋がりの世界』だと、そう言っていた。
「…繋がりとか現実ってついてるのって、どういう意味?全ての世界にそういうのが付いてるわけ?」
「うん。さっき絵に描いて話た通り、核世界以外に二十個の主要な小宇宙があって、それら全てが異なる特性を持っているんだ。僕のいた世界は『繋がり』、君の世界は『現実的』、といった具合にね。それらの小宇宙から、同じ特性を持った小宇宙ができていく。この辺りは所謂平行世界ってやつにあたるんだ」
「…ますますコミックの世界みたいだ」
「ああ、ちなみにコミックの世界もあるよ」
「マジで!?」
その答えに、創はテーブル越しに身を乗り出してしまう。コミック好きな彼としては、興味を惹かれざるを得ない話題だ。
だが、彼の興奮した姿に思わず驚いた創の反応を見、すぐに頬を赤らめ、恥ずかしそうに引っ込む。
一瞬驚いていた創だったが、ここにきて何度目かの苦笑を浮かべつつ、「といっても、君の想像しているのとは違うかもしれないけど」と、一言注釈を付け加える。
「あっ、そっ、そうだ!それで、その話がこれからの話とどう関係があるの?」
慌てて誤魔化すように話題転換を求める創だったが、その頬の紅潮はいまだ収まらず。
だが、そんな彼をよそに創はと言えば、その表情をやや暗くしていた。
(不機嫌になった、っていうより、なんか悲しそうな…もしかして、地雷だったり?)
創は居住まいを正すと、真剣に話を聞く姿勢をとる。一体、ここに来るまでに創に何があったのか。非常に興味深くはあるが、それを訊くのはきっと良くない事なのだろう。だから、ここは静聴に徹することにした。
そして、その直後に創が話した内容は、彼にとてつもない衝撃を与える事になった。
「…今から何時間か前。僕のいた世界は滅ぼされた。そして他の世界にも、滅びの危機が迫ってる」
―自分のいた世界が滅ぼされ、更に滅びの危機が迫っている、だと?
「えっ、ちょ、待った…滅んだ?貴方のいた世界が?」
彼と話をすると奇想天外にも程があるような話が次々と飛び出してくるが、本題も本題で、今まで以上に信じ固くなってしまうような話だ。だが、信じざるを得ない。信じないわけにはいかない、とも言う。
何故だ?何故自分はそれを聞いて、現実の話だと受け入れられる?
「そう。僕達のいる大宇宙の外からやってきた、『破壊者』と呼ばれる奴らにね。この調子だと僕のいた世界だけじゃない。ここを含めた、他の十九個の小宇宙だけでもない。この大宇宙の源である核世界だって危ないんだ。小宇宙は滅ぼされても、時間をかければ核世界の力で再生できる。けれど、もし核世界が滅ぼされれば…」
「…そのまま世界、もとい宇宙滅亡?」
なんとも受け入れがたい事実。常識という意味合いではない。そう、例えで言うなら致死確実の病魔に侵され、余命を宣告された時のような。
「ああ、だから僕の世界にもっとも近いここに来たんだ。君に、創造者としての君を覚醒してもらう為に。そして…」
或いはこれは―死刑宣告、なのかもしれない。
「奴ら―破壊者共を倒す為に、力を貸してほしい」
『現実的に考えてあり得ない』空想に夢を馳せてはいたが、まさか自分が中心となって、しかもその空想の中で絞首台に登る羽目になるとは、夢にも思わなかった。