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「そうです、俺がやりました」  作者: ひよこ満載
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人の不幸は蜜の味―3―

 カメラを仕込んだ翌日、豆男にはキーホルダーを取り返すという仕事があった。その日は体育の授業があったので着替えのところを狙った。着替えの際、男子は彼らの教室、女子は更衣室で着替えることになっている。着替えたもの者から各自グラウンドに繰り出していくので、豆男は最後まで教室に残って誰もいなくなったところでキーホルダーをすり替えることにした。

 豆男は小太郎に最後まで残ってもらい、万が一誰かが戻ってこないか廊下を見張らせながらそれを取り替えた。

 問題は上手く撮れたかどうかだ。撮れていなかったらもう一度。すり替え作業をさせられる豆男は肝を冷やすことはもうしたくないという思いで小太郎にキーホルダーを渡した。



 その日の放課後二人は再度小太郎の家にて作戦を進めていた。小太郎は早速映像が撮れたかどうか確認するために物置の奥の方からパソコンと得体のしれない機材を出して、それらをいじり始めた。豆男が唖然としていると三分も経たないうちに準備が出来たようで、「さあ、豆男さん、始めますよ」といって彼をパソコンの前に来るよう促した。

 映像は小太郎の顔面のアップから始まった。「うげっ」という言葉と共に彼はそのシーンをすぐに飛ばしていく。何度かマウスをカチカチして映像を飛ばしていくうちに今度は豆男の顔面が映った。小太郎がいじましくそこで画面を停止させるので豆男は頭を叩いた。

「これ、よく撮れてるな」

 豆男は感心した。

「でしょう。この型のカメラとしては最高級ですからね」

「ほかにもっと使い道があっただろ」

「何を言いますやら。これ以上の使い道がありますものか」

 小太郎は心底楽しそうである。

 しばらくしてお目当ての伊東の家が映った。画面がぐらぐら揺れて酔いそうだったが二人は真剣にカメラの行方を見守った。

 伊東は玄関をまたいでリビングと思しき部屋のドアを開けるとすぐに閉めた。どうやら家族の誰かに自分の帰宅を告げたようだ。そのまま彼は短い廊下を進んで階段を上った。二階についてすぐのドアを伊東は開けた。どうやらそこが彼の部屋らしい。カメラは少しの間激しく揺れたあと安定した。伊東はカバンを部屋のどこかに置いたのだ。

「これはすごいですねえ」

 小太郎が感嘆の声をあげた。

 カバンは机の上かどこか高い位置に置かれたようでカメラは彼の部屋の七割程を映し出していた。そしてそこに映っていたのは、女の子がプリントされた抱き枕を抱えてベッドに座っている伊東と部屋いっぱいの彼のお気に入りの玩具たちだった。

「成功ですよ豆男さん!」

「おお、そうだな」

 豆男は驚いていた。伊東が極度のオタクだということをまだ少しばかり疑っていたからだ。彼は画面に映るものをしげしげと見て、「気持ち悪い奴め」と言い放った。

「他に何か面白いものは映らないですかねえ」

 そう言いながら小太郎は少しずつ映像をジャンプさせていく。

 伊東は抱き枕を抱えたまま眠ってしまったようで画面に動きはなかった。外の明かりがなくなった頃に彼は起きて部屋を出て行った。

 再び画面に映った伊東は髪の毛が濡れた状態だった。お風呂に入ってきたらしい。彼はパジャマ姿でベットに転がり込んだ。

「よく寝転がる人ですね。勉強はしないのでしょうか」

「それに関しちゃ俺もお前も同じだろ」

「そうですね」

「あ、起きたぞ」

 起き上がった伊東はベッドの横のタンスを開けた、そしてそこから衣類をいくつか出して着替えをはじめた。

「おお、伊東くんの半裸……」

 小太郎は手で目を覆い隠す素振りをした。

「やめろ気持ちわるいな」

「しかし豆男さん。これ、女子に高く売りつけれないものですかね」

「需要はあるだろうな。でも、もしそんなことしたら、どうやって撮ったのか訊かれておしまいだけどな」

「いい商売だと思ったんですけどね」

「っておい、これ……」

 豆男は画面に映ったものを見て唖然とした。

「うほ! 豆男さん、これは傑作だ!」

 小太郎は歓声をあげた。

 そこに映っていたのは何かのアニメのキャラクターの衣装を身にまとった伊東だった。フリフリのスカートに天使を思わせる羽がついたメイド服、長いピンク色の髪の毛、まさしくコスプレだった。

「こいつ、こんなことまでしてんのか。極みだな」

「これはアニメ、フラワーガールズの主人公カーネーションピンクのコスプレですね」

「なんだそのアニメは」

「知らないんですか? オタクたちの間では人気のアニメです。世界中の花を枯らそうとする悪の組織カナバニンに立ち向かう美少女戦士達の日常と非日常における精神の葛藤を描いた勧善懲悪ものです。このカーネーションピンクはダントツの人気ですからこの衣装も相当弾んだでしょう」

「こいつ、こんなことに金使ってんのか」

「クラスきっての才色兼備の色男が聞いて呆れますねえ。豆男さん、これはいいのが手に入りましたな」

 そう言って小太郎は豆男の脇腹を肘で小突いた。

「惨状が目に浮かぶぜえ」

 豆男もノリノリで思い切り悪い顔で画面の中の伊東を睨みつけた。

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