時間(とき)の流れるスピードに
宇宙のどこかに時間の流れるスピードを操れる場所があったとしても
私は地球人だからそっちまで行くのは困難
この世界ではいつでも時間の流れるスピードは決まっていて
私は世界の中の小さな小さな粒だろうけれど
やはり世界と同じスピードで動かされている
部屋の片隅で物思いにふけっていても
黄色信号で横断歩道を小走りしたって
そのスピードはいつだって変わらない
でも不思議なのは変わらないはずのスピードが
変わってしまったような錯覚に陥ること
それは暖まり過ぎた春風が桜の開花を早めてしまったり
彼と一緒に過ごす時間があっという間に過ぎてゆくように
つまらない講義が時計の針をキンキンに凍らせてしまったり
被ってしまった仮面が皮膚に食い込みなかなか剥がれないように
実は時間の流れるスピードはいつでも誰にでも平等のふりをして
アレグロやアダージョでテンポを変えていたずらを仕掛けている
それでも必ず誕生日はやってきて歳をとるし
エアコンも寿命がくれば壊れる
私たちは時間の流れるスピードのいたずらに
上手く巻き込まれ錯覚と戯れている
それは楽しかったり忙しかったり静寂だったりもするのだが
もしもとびきり心地よいと感じるスピードに
メトロノームをぴったり合わせることが出来たなら
私はきっと勝利のうたを口ずさんでしまうだろう
だから生き流されてゆくこともそう悪くはないよ