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君のさよなら

はい、今回は歌詞などを作ってみました(^-^) 出来が悪いですが・・・

俺は知らない場所にいた。


周りを見渡す。


「野原?なんで俺、野原になんているんだ?」


どこを見ても野原が続いているように見える。


それに空は夜空だ。綺麗な夜空に満月が輝いている。


「なんだ、ここ?」


見覚えなんてない場所にいる?まさか誘拐か?・・・俺を誘拐して得する人間なんているわけないか。


しかしそうなると、俺がこんなとこにいる理由は?


とりあえず、つっ立っているのもなんなので、地べたに座ることにした。


と、同時にどこからか声。


俺は座ることをやめ、声がした方に向かう。


その方向に近づくにつれて声が大きくなってくる。


なんて言ってるんだ?


俺は立ち止まり、耳を澄ました。


「あ・・・とうご・ん」


よく聞こえん。


俺は立ち止まっていた足をもう一度動かす。


しかしもう声は聞こえない。


「ったく。俺はこれからどうすればいいんだ」

俺は何をすればいいか分からなくなり、空を眺めた。


・・・綺麗な満月だ。


「満月?」

ふと満月という単語に引っかかる。


「満月、満月。月、月、月、月・・・」

なんでこんなに、月が引っかかる?


俺は月に思い入れなんて・・・あるっちゃあるか。だけど、いま気にすることじゃないしな。人名で月が入るような奴いたっけ?


そういや、お袋の旧姓が望月だったか。だけどそんな事なんも思わないしな。こうなったら数少ない知り合いの名前を考えよう。


嵐、力、海、雪ちゃん、花城、鈴岡、踝、月乃。


月乃?・・・月乃!?


「そうだ、月乃!月乃だ!なんで忘れていた!?俺は月乃を追いかけなくちゃいけないんだ!・・・ってここどこだよ?」

何回目かの疑問を口にする。


くそっ。早く月乃を探さなきゃいけないのに。


するとまた声。さっきと同じ声が聞こえ始めた。


この声は・・・


「月乃かっ!?」

俺は空に向かって、満月に向かって叫んだ。


満月からかは分からんが声がはっきりと聞こえた。


『ありがとう。ごめんね。・・・さよなら』


確かに、聞こえた。月乃の声が。


俺はまた叫ぶ。


「くっ。さよならってなんだよ!?月乃いるならここに来てくれ!」


もう声は聞こえない。


「くそっ!・・・そうだ、電話。携帯に電話をっ!」


俺は携帯をポケットから出す。


ディスプレイに時間と設定してる写メ、俺達が映し出される。


設定してる写メは修学旅行のとき、月乃と二人、清水寺で撮ったやつだ。


俺は満面の笑みで、月乃はフレームから目を逸らし恥ずかしがってる。


だけど、笑っている。


俺達は笑っていたんだ。あの時は。確かに二人で笑えていたんだ。なのに・・・


なんでこんな事に。


涙がでそうになる。・・・が泣いていたって問題は解決しない。涙を堪え、月乃の携帯に電話を・・・かけられなかった。


そうだ、俺は月乃の携帯番号を聞いていない。


「マジかよ・・・」

俺はなんとか声をだす。


どうする?まだなんとかなるはずだ。そうだ、海に電話をかけて教えてもらえば。


俺はもう一度携帯をいじった。


「あ。もう手詰まりだな・・・」

ディスプレイには、「圏外」と映し出されていた。


もう駄目だ。こんな場所で俺一人、どうにもならない。誰も助けてはくれない。こんな薄気味悪い場所で・・・


俺・・・・独りなんだ。


この場所、いや違うか。この世界には俺だけなんだ。俺以外誰も「いない」んだ。


そう、理解してしまった。何故か分からない。だけど、分かってしまった。


体がガクガクと震えだす。


「こわい・・・」


こわいこわいこわいこわいこわいこわい・・・こわいっ。


恐怖が思考を支配する。


『・・・ちゃん』


声が聞こえた。


誰か、いるのか?この孤独の世界に・・・俺だけの世界に。それとも誰かいて欲しいという、俺の願望が幻聴をつくったのか?


耳を澄ます。


「何も聞こえない」


はは、やっぱ幻聴か。もしかしたら、さっきの月乃の声も幻聴だったのかもな。


・・・・・・もう、どうでもいいか。


何もかも遅かったんだ。俺と月乃は出会うべきじゃなかった。そうすれば月乃は・・・


さっき我慢した涙がボロボロと出てくる。


俺と出会わなければ月乃は壊れない。いじめられて辛いだろうけど、それもあと半年我慢をしていれば解放される。そうすれば、月乃は・・・


「過ぎたことを考えたって仕方ないか。それに・・」

もう俺独りだしな。


流していた涙もいつの間にかとまり、恐怖心もなくなった。


何も起こらず、誰とも関われない。独りの世界。


どこのギャルゲーだっての・・・


いや、違うか。ギャルゲーならヒロインが、彼女がいる。俺はいない。はは、滑稽だ。一人でBAD ENDかよ。


俺には彼女どころか幼馴染の女の子、姉、妹だって・・・


「飛鳥・・・」


そうだった、飛鳥がいた。


だけど、もう逢えないんだ。


そう思うと、また涙が出てくる。


「飛鳥。俺がいなくなったら泣くかな」

自分だって泣いてるくせに、そんなことを呟いた。


駄目だ、飛鳥に会いたい。いや、飛鳥を一人にはさせられないんだ。あいつはまだ、弱い。きっと絶望してしまう。俺が傍にいてやらないといけないんだっ。こんな世界にいるわけにはっ・・・いけないんだ!


「飛鳥ぁぁぁぁああああ!!!」

俺は泣きながら、大声で大事な義妹の名前を呼んだ。


『お兄ちゃん』


さっき聞こえた声が聞こえた。そうか、飛鳥の声だったのか。俺の幻聴でもなかったんだな。


『お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!』


「飛鳥!俺を、俺をここから、出してくれ!俺を・・・助けてくれっ!!!」


視界が光に・・・優しい光に包まれた。



「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!!」


声が、聞こえる。俺を呼ぶ声が。


「お兄ちゃん!!!早く目を覚ましてよぉ!私を一人になんてしないって、前言ったじゃないっ!お兄ちゃん!」


そんな事言ったけ?


俺は考えてみる。・・・あぁ、言ったな。お袋達が死んだ時に。病院で飛鳥が目を覚ました時に、言ったな。


「うぅ・・・お兄ちゃぁん」

飛鳥はさっきまでの勢いがなくなり、俺の体にかぶさってきた。


うっ。思い。上半身だけなのになんでこんな重いんだ?って息ができねぇ!肘がっ!肘が喉にっ!


俺はなんとか声をひねり出した。


「肘・・・肘が喉に・・・」


「え?」


え?じゃねぇ。


すっと喉からの圧迫感が無くなった。


「ごほっ!ごほっ!・・・お前、俺を殺す気か?」


「お兄ちゃん!」


飛鳥が俺に抱きつく。


・・・はぁ、これが巨乳ならな。


すると耳元で・・・


「お兄ちゃん。起きてそうそう胸がきになるんだね・・・私の胸はこんなで残念だったね?」


んげ!?俺、口に出してたか!?


殺気立った声で呟かれた。ってここは何処だ?さっきまで違う場所にいたような・・・


「お兄ちゃん?どうしたの?」


キョロキョロしてる俺に気がついたのか、飛鳥がさっきのことを忘れて話しかけてくる。


「いや、ここどこなんだと思って・・・」


「お兄ちゃん、何も覚えてないの?」


「何をだ?」


「お兄ちゃん、家の玄関の前で倒れてたの。もう、本当にビックリしたよ。学園から帰ったら玄関の外に倒れてるんだもん。そこから救急車を呼んで、この月園病院に来たの。ちなみに私が無理を言って個室にしてもらったんだよ。えっへん」

胸をはったってぺったんこな飛鳥が一通り色々話してくれた。どうやら倒れてから2日もたっていて、時刻は19時54分だ。


それに軽音部メンバーも来てくれたらしい。すぐさっき帰ってしまったらしいが。


まぁとりあえず、状況は分かった。


だけど、月乃は?


今すぐ月乃に会いたいけど飛鳥の手前、それは出来ない。まぁ、電話でも・・・って電話番号交換してなかったんだ。・・・あれ?なんで電話番号を交換してないって分かったんだ?思い出したんじゃなく、分かるなんて。


「お兄ちゃん、もう体は?先生は原因不明って言ってたけど、大丈夫?」


「ん?あ、あぁ。なんも問題ない。おそらく寝不足でもたたったんだろう」


「そう、それなら先生も分かるはずだけど・・・もしかして、ヤブ医者だったとか。というか2日も眠ったままってあるのかな?うーん」


うん、コイツが天然でよかった。とういうかこいつ天然だったっけ?まぁ今さっきまで大泣きしていたからうまく頭がまわらないのだろう。


さて、海に電話でもかけて月乃の電話番号を聞こう。


「飛鳥、もう面会時間は終わりだ。そろそろ帰れ」

もう20時なので飛鳥に帰宅命令を出す。体はなんともないしな。


「もうっ!こんな時に帰れるわけがないでしょ!?2日も眠ったままだったんだよ?」


「もう大丈夫だって。それに死にそうになってたわけでもない。病院側が迷惑だ。だから帰ってくれ」


「はぁ、こうなったら私の言うことなんて聞いてもくれないんだから・・・わかった。でも明日一番でくるから!」


それから飛鳥は帰り支度をし、「バイバイ、なんかあったら携帯ね」と言い残し、病室を出た。


「よし」


俺は携帯を・・・あれ?携帯何処だ?・・・・・・あぁ!自分の部屋だ!どうする?・・・そうだ、飛鳥にお願いしよう。まだ病院内に、近くにいるはず!


俺は病室を出てエレベータのとこまで走り、待つ。


しばらく待つとチーンという音と共に扉が開いた。


「海!?」

エレベーターに乗っている人物に俺が驚愕する。


「翔!?」

お互いに名前を言い合う。


「なんでお前。さっき帰ったんじゃないのか?」


「あ、あぁ。まぁな。それより体は大丈夫か?」

海はバツが悪そうな顔をしている。


なんかあったのか?・・・まぁいい。今は月乃の電話番号を。


「おう、全然大丈夫だ。あぁそうだ。月乃の電話番号教えてもらえるか?」


海は月乃の名前を聞いた瞬間顔を俯かせた。


なんかあったのか。


不安が一気に心を支配する。


「海、月乃になんかあったのか?隠さずすべてを話せ。今は隠したとしても、いつかは俺、知ることになる。どうせなら今知りたい」


エレベーターが締まりそうになる。


俺はエレベータに乗り、海の横に立つ。


「海。教えてくれ」


海はずっと黙ったままだ。


チーンと音が鳴る。海が行こうとしていたのはもちろん1階。扉が開く。しかし俺は扉の前に立ち、扉を締めた。


「そんなに、知りたいのか?」

海は観念したのか、俺に疑問をぶつけてきた。


俺は即答する。


「あぁ」


「分かった。全て話す。実は月乃・・・」


そこからはよく覚えていない。いや違うな。覚えてる、けど信じたくない。


ただ、これだけは言える。


俺はギャルゲーに例えると、「BAD END」になったらしい・・・



時刻は23時29分。俺は病院の屋上にいた。


はぁ、こんな事ってギャルゲーの世界で起きるもんだろ。


月乃が記憶喪失。記憶はもう思い出せないらしい。医師がそう言ったらしいので確実だろう。その思い出せない・・・失った記憶の中に吉井と吉井の友達、盈月と三月さんの事、そして・・・俺の事が入っているらしい。記憶がなくなった人達との思い出、何もかもを失った。・・・俺と笑いあった事も全て。


暦は自殺を試みたらしいのだ。


その方法は、睡眠剤を多めに、瓶を二つ空けるほど飲んだ。だけど死ななかった。月乃のお袋さんがすぐに気づき、救急車を呼んだらしい。それがよかったのか、死ななかった。


だけど、後遺症が残った。


睡眠剤を飲んでると、記憶が無くなるなんて話を聞いたことがある。こういった場合はそこまで酷くはならないだろうが、月乃が飲んだ睡眠剤は相当多い。・・・当たり前の結果ってやつか。


それで月乃は今、この病院にいる。ここらへんで一番大きい病院はここしかないから当たり前だが、あまりにも酷すぎる。


だけどこれで月乃と一からやり直せる。


・・・なんて事が出来るか。事の発端は俺だ。そんな俺が月乃の隣にいるわけにはいかない。それに転校するらしい月乃と会うこともない。今、会ったってただのナンパだ。


俺達は会わない方が良かった。


まぁ、月乃的にはよかったのだろう。後遺症が記憶喪失。それも無くなった方がいい記憶だ。これで転校すればいじめられない。


そうだ、何もかもうまくいくじゃないか!月乃はこれから幸せな人生を歩んでいくんだからな。それは俺も望んでいた事じゃないか!


はは!これはいい!ハッピーだ!


・・・・・・あれ?おかしいな。こんなに良い事なんてないのに。月乃は幸せになるのに・・・なんで。なんで・・・


こんなに涙がでてくるんだよ?


こんなに、こんなにっ!俺は月乃に言ったじゃないかっ!幸せになれと。なのに、なのになんでっ!?


「涙が止まんねぇんだよっ!!!」


涙がっ・・・


「ぁぁぁぁぁ・・・あああああああああああああああああああああ!」

俺はやり場のない哀しみを雄叫びにかえた。


もう戻らない月乃との日常。失われた日常。


何もかも思い出してしまう。


月乃の困った顔。悲しんでいる顔。泣いている顔。喜んでる顔。恥ずかしがってる顔。そして、笑った顔。


「月乃・・・月乃。月乃ぉ!」

ひたすら月乃の名前を言う。


もう戻らないのに、月乃のコトバを思い出してしまう。


『違います、一人が好きなだけです・・・』


『恥ずかしいよ桐生君。二人で写真撮るなんて』


『おはよう、桐生君』


『本当に似すぎだよ』


『すごく、お兄ちゃんに似ていたよ。桐生君。すごく温かくて、優しくて・・・本当に似すぎだよ』


『あと桐生君。私、桐生君に出会えてよかった。こんな事なっちゃったけど、よかった。だけど、これ以上迷惑かけられないから・・・』


『桐生君のそばにいたら、いつかまた間違えるから。だから・・・・・・・・・・さっ、んく、さよなら・・・』


思い出してしまう。思い・・・出してっ。


「月乃・・・」

大粒の涙が流れ続ける。


俺達は出会わなかったら良かったんだ。そうすればこんな哀しみは・・・


後悔ばかりが残る。


失ったものが大きすぎる。


涙は・・・とまりそうになかった。



「お兄ちゃん・・・」

飛鳥が心配そうに俺を呼んだ。


「あの日」から2日、ずっと塞ぎ込んだままの俺に何も聞かず、お兄ちゃんと言ってくれる。


もしかしたら、海あたりに今回の事を聞いたんだろう。だから何も言わずそっとしといてくれるのかもしれない。


それは俺にはありがたいことだった。一人でいるのは嫌だ。かといって誰かと話す気分でもない。だから、何も言わず傍に居てくれる飛鳥は俺の心の支えとなっていた。


いきなり病室の扉が開く。


「おっす桐生。いつまで入院なんだ?」


「大丈夫か?翔・・・」

今原は元気よく、海は元気なさげに話しかけてきた。


俺はその事を無視し、飛鳥に1回出てくように頼んだ。月乃関連の話だと思ったからだ。


飛鳥は「うん」と俺に言い、今原と海に「よろしくお願いします」と言って病室を去っていった。


「なんか用か」

俺は二人に言う。


すると今原はいきなり・・・


「お前さ、いつまでそうしてんのさ」

俺の前まで歩いてき、立ったまま言ってきた。


俺はその言葉を無視する。


「皆心配してるよ。そんな子供みたいにいじけてないで、前を見なよ。人生生きてりゃこんな事もある。うん、こんな事で悩んでんじゃねぇよ」

今原は淡々と言った。


こんな・・・事だと?


俺はベッドから出て今原の胸ぐらを掴んだ。


「お前、もういっぺん言ってみろっ。こんな事だとっ!?お前にはそうかもしれんが俺にはっ」


「あぁ。言ってやるさ。こんな事で悩んでんじゃねぇよ」


バキッ。


俺は思い切り今原の顔面を殴った。


そこから今原に馬乗りになろうとする。


しかし、そこで海が後ろから俺を抱き寄せた。


「やめろ翔!洋平は洋平なりに!」


「離せ、海!こいつは絶対にっ」


俺は、なお今原に殴りかかろうとする。


その瞬間・・・


「僕のことを殴って鬱憤が晴れたかい?桐生」


え?


「いてて。まぁこうやって怒ったりすると気が晴れると聞いたからね」

今原はそう言いながら立ち上がった。


俺のことを抑えていた海もいつのまにか今原のとこに行っていた。


そうか、こいつは・・・


「悪いな、今原。殴っちまって。それから・・・ありがとう」


「いえいえ、どういたしましてだ」


俺はドスっとベットに座った。


座ったと同時に今原が話しかけてくる。


「桐生、明日の12時頃に暦ちゃんが退院をして、明後日に引っ越すらしい」


この事を二人は俺に伝えにきたのか。


だけど俺にどうしろっていうんだ。今更、はじめまして。なんて言えと?


「だから僕が海に頼んで暦ちゃんにアポをとってもらったんだ。会わせたい友人がいると」


俺はそれを聞いて、胸がいたんだ。


会えるわけがないだろ?今原。それはお節介ってやつだ。


それにしても、よく海が承諾したものだ。俺と月乃を近づけさせないようにしてたというのに。まぁ、最後だから気を配ったのかもな。


「それで俺にどうしろと?」


「それはお前が考えてくれ。お前は会わない方が良かったなんて考えてるかもしれないけど、そんな事はないんだ。こんな形になったけど、それでもあの時の時間はあったと僕は思うんだ」


あの時あった時間か。


二人で歩んだ軌跡。短かったけどそれは確かにあった。


「お前はそれも無かったことにするつもりなのか?暦ちゃんは確かにお前と一緒にいたのに」

今原は真剣に話している。


それに海も話しかけてきた。


「そうだ、翔。お前はあのとき、屋上で月乃を救ったじゃないか。アレが原因でこうなったけど、あの時の言葉は月乃の心には残っている」

海はそう断言した。


「何故、断言できる?」


海は即答した。


「月乃、言っていたよ。誰かに「幸せになろう」って言われたって。学校の屋上で言われたって」

そこで海が涙をツーと流した。


「記憶を失ったはずなのに、微かに覚えていたんだよ。お前の事・・・」


月乃・・・


俺も涙が溢れ出す。


二人の前だが、涙が抑えられない。


月乃、やっぱり俺、お前と逢えて良かったと思うようにするよ。


お前は忘れても俺は忘れない。俺達が歩んだ軌跡を忘れない。


俺は涙を拭き、二人に言った。


「お前ら、気づかせてくれてありがとうな。俺は明日、月乃に会う。そして俺がつくった曲を弾き語りで披露する。・・・・俺、軽音部だからな」


二人は満面の笑みで承諾してくれた。



「よしこのコードで・・・終わりだ」


これで曲は完成だ。といっても練習なんか少ししか出来ないので、コードは初心者でも簡単に弾けるコードだ。


今原と海、飛鳥も全面的に協力をしてくれた。もう時間が時間だったのでさっき帰したけど。


明日の10時に俺の病室まで月乃が来てくれる手配を海がしてくれた。その時に飛鳥には遠慮してもらう予定だ。なんせ学校をそう何日も休ませるわけにはいかない。「えー!私もいる!」なんて言ってたが無理やり納得させた。よくもあんなペラペラと言葉が出てきたものだ。


ブーブーブー


携帯のバイブレーションがいきなり鳴り響く。


ディスプレイには、「今原洋平」となっていた。



「もしもし、桐生?僕だ、今原だ」

僕は少し緊張している。


『なんだ?今原』

桐生の声はいつもの桐生の声だった。暦ちゃんの事を完璧に乗り越えたのかな。


まぁ、僕はそんなことを確認するために電話したわけじゃない。


「曲はもう出来たかい?」

あぁ!こんな事も聞く予定でもないのに・・・


緊張してうまくいかないものだね。


桐生は「おう、完璧だ」と言った。


ふーん、あの桐生が曲作りね。どんなのか楽しみだ。


「そうか。なぁ、桐生。一つ聞いていいか?」


『ん?なんだ?改まって』


「お前、暦ちゃんの事、好きだったろ?」


僕は一番聞きたかったことを聞いた。


病院ではあの二人がいたしね。しかも妹の前で好きかどうかなんていくら僕でも聞けない。


すると桐生は・・・



今原との電話を終え、歌詞に目を向ける。最終チェックをするためだ。


歌詞を心のなかで読む。


君との過ごした日々は短いけど 僕らは分かり合えてた


分かり合えていると信じていた


僕の心が届いていると信じていた


だけど、それは嘘でした


君と僕は分かり合えてなんてなかったんだ


僕の頬に涙が伝う



僕は独りで泣いています 君を想いながら泣いています


狭い部屋の中であれからいつも泣いています


君が目を覚ました時に僕は君の心に残っているかな


あの時君が言ったさよならが


声にならない君のさよならが 僕の心から消えない



君との過ごした日々は短いけど 僕は幸せだった


分かり合えていなくても幸せだったんだ


君の隣にいるだけで幸せだったんだ


だけど気づくのが遅かった


何もかも遅かったんだ 何もかも


君の頬に涙が伝う




あぁ 忘れようとしても忘れられない君の事


僕の心に残っている君との過ごした軌跡を


あぁ 君が忘れても僕はずっと覚えているよ 


重いなんて思わないで


君が好きだから


君を愛したから



君と過ごした日々はかけがえのない日々だった


僕はこれからずっと想っているよ


君のさよならもすべて想うよ


だけど哀しいとも思う


いつか君の隣に誰かがいると思うと


僕の頬に涙が伝う


「うーん。微妙だな。まぁこれ以上よくなんて出来ないし。このままでいいか」

俺は布団をかけ、眠りについた。



コンコン


俺の病室がノックされる。


とうとうこの時がきた。


「し、失礼します」

オズオズとした様子で月乃が入ってくる。


「翔、連れてきたぞ」

海が月乃の後ろから声をかけてきた。


俺は「おう」と言い、月乃に話しかける。


「はじめまして。桐生翔です」


胸がズキリと痛む。


泣いちゃ駄目だ。いきなり泣いたりしたら変な奴だって思われる。


月乃の姿は何も変わってなんていなかった。ただ、俺との思い出を忘れてるだけだ。今すぐ、抱きしめてやりたい。


そんな欲求を抑える。


「は、はじめまして。暦月乃です」


お前の名前なんて知ってるさ。こんな事を言いたくなってしまう。


駄目だな、俺。ちゃんと演技しないと。


「わざわざすみませんね。自分、軽音部に入っていて初めて曲をつくったんですよ。それを知り合いではない誰かに聞いてもらいたくて」


心にもない嘘をつく。


「はい、こちらこそ呼んで頂いてありがとうございます。曲、楽しみです」

ニコリと月乃が微笑む。


また胸が痛む。


月乃の笑顔。この前までは俺に向けていてくれた笑顔。これからは、他の誰かに向ける笑顔・・・


「まぁ、座ってください」

痛む胸を押し殺し、俺は椅子を差し出した。


月乃は「ありがとうございます」と言い椅子に座った。


「それじゃ桐生、曲を頼むよ」

今原がそう急かしてくる。


ちらりと時計を見るとそんなに時間は残っていない。


始めるか。


俺はギターを取った。


「それじゃ歌います。曲名は、君のさよなら」


俺は歌う。心を込めて歌う。月乃を想い書いた歌を。


曲をつくってる時にはこんな気持ちになるなんて思いもよらなかった。


・・・離れたくない。


決心が揺らいでしまう。


月乃・・・一緒にいてくれ。


それは叶わない願い。


月乃の為に、俺は自分の気持ちを抑えるしかないんだ。


そう自分の心に言い聞かせ、歌に集中した。


「君を愛したからっ」


異様に力が入ってしまった。このフレーズは特別だからだろうか。


これで、間接的に言うことが出来た。


俺はそんな事を思いながら、歌いきった。


月乃の反応は・・・


俺は月乃に目を向けた。


「・・・すっごく、いい曲でした。桐生君の想いがすごく伝わりました」

真剣に感想を言ってくれた。


良かった。これで思い残すことなんかない。


俺は礼を言い頭を下げた。


「ありがとうございます。俺、この曲を大切にしますよ。なんてったて、つき・・・暦さんに初めて聞かせて曲だから・・・」


「はい、私もこの曲は一生忘れないと思います。それじゃ私はこれで」


「はい。さようなら」


「さようなら。本当に素晴らしい曲でした」

月乃はそう言い、座っていた椅子をたった。


病室の扉の前で月乃が足を止め、もう一度俺の方に礼をし、今度こそ去っていった。


海がその後ろをついていく。


最後のお喋りでもするのだろうか。


「桐生」

今原がいきなり声をかけてくる。


「なんだ?」

俺はギターをいじりながら今原に言葉を返した。


「昨日、電話でははぐらかされたから。もう一度聞いていいか?」


あの事か。


俺の言葉を待たず、今原は続けた。


「お前、暦ちゃんの事好きだったろ?」


昨日の電話の時と同じことを聞いてきた。


そうだな・・・月乃の事か。


俺は数秒間黙り、今原に言った。


「さぁな」

昨日と同じ答えだ。


今原は「ふーん、そうかい」と言い、もう聞いてこなかった。


俺はギターをベットの横に置き、窓から外を眺める。


偶然、海と月乃、月乃の母親らしき人が歩いているのが見えた。


その月乃の後ろに向かって呟く。


「さよなら、月乃」


俺の頬に涙が伝っていった。


















お久しぶりです、キリリョーです(^-^)

いやはや、やっと暦ちゃんの話が完結しました。

今回はちょっと重めの話になってしまいましたね。

自分があまり暗い終わり方が好きではないですが、まぁやってみようと思いましてやってみました(^-^)

やっぱハッピーエンドの方がよかったかなとも思っております。

次回は、どんな話にするかまだ未定です。

恐らくギャグを全面的に出すと思いますが、次回もよろしくお願いしますm(_ _)m

                             キリリョー

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