出会ったのは少女と妖精達
いきなり背中を押され穴に落ちてしまった僕、天之川悠太。
穴はとても深いらしく全く底につこうとしなかった。
「こ、このままじゃ死ぬ!」
だが助かろうと何かにつかもうとしても何もつかめずに手は空を切りただただ落ちていくだけだった。
このまま落ちて死ぬのかと思っていたら急にあたりが明るくなった。どうやら落ちる方向に出口があるらしい。
「出口! た、助かった!! ……って、え?」
そうだ、よく考えたら不自然だ。なぜ洞窟の中にある落とし穴の底が明るいのか?まさか落とし穴のさきが外へ通じているとでもいうのだろうか。
とか考えているうちにその光がどんどん強くなりついに外に体が放り出された。外の明るさに目がくらむ。そのうち目が慣れていったがふとあることに気がついた。
もう外にでているのにまだ落ちているのだ――――
「あれ?」
そう、外は外なのだが、何故かはるか上空。
「なんでえええええええ!?」
と叫びつつ、悠太は空からどんどん落ちていく。このままだと確実にGAME OVER だ。
「もうだめだー!! …………って、ん?」
とよく下を見る。そこは青く澄んだ湖のようなのがあった。
「やった! 助かった!」
そしてそのまま湖に勢い良く落ちた。
落ちた衝撃でかなり深く沈んでいた。ふと水面を見るとそこから空が見える。この湖は相当綺麗なようで、ものすごく水が透き通っている。
(僕、あんなところから落ちたのか)
そんなことを考えながらそのまま沈んでいたが、息ができなくなり慌てて水面に顔を出す。
「ぶは!! ……くぅぅ、めちゃくちゃ体がいてぇ……」
どうやら湖に落ちた衝撃がでかかったようだ。だが、この湖で溺れ死ぬ、なんて間抜けなことはしない。見ると岸が近かったのでそのまま岸まで泳いでいく。そしてやっとのことで岸にたどり着いてホッとしていると……
「だれ!? う、動かないで!!」
「ん?」
いきなり女の声。声がする方を見るとそこには
「み、見たわね……!」
少女がいた。年は悠太と同じくらいかちょっと下と幼い感じの可愛い顔だ。金髪で首ぐらいの長さ、綺麗な白い肌をしている。だが、その美しい肌には似合わない奇妙な刺青が左腕に施されていた。とそこで悠太は気づいた。今その女の子は大事なところは隠してあるが丸裸なのだ。彼女は羞恥心からなのか顔を真っ赤にしていた。
「悪いけどあなたを生かしておく訳には…………?」
とそこで彼女は悠太の様子がなんだかおかしいことに気づいた。彼女以上に顔を真っ赤にしている。
「ちょ、ちょっと君?」
「………………………………っぶ」
そしてそのまま彼は顔を真っ赤にしたまま――――気絶してひっくり返り湖にまた沈んでいった。悠太はものすごく初心なのである。
「って嘘でしょ!?」
驚いた彼女は物騒なことを行っていたにもかかわらず悠太を助けるために湖に潜っていった。
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「………………あの~」
「…………何?」
数十分後、悠太は少女に助けられた。濡れた服のままでちょっと寒い。
「くしゅ!」
「ちょっと汚いでしょ!!」
「ご、ごめん。ただ……」
「ただ……何よ?」
「なんで僕縛られてるの?」
そう、僕は今縄でぐるぐるに縛られちゃっていた。目を覚ましたときには既に縛られていたあとだった。なんで縛られているのか身に覚えが全くなかった。
「だってあなたを生かしておくわけにはいかないからね」
「へ!? な、なんでなのさ!?」
「だって……あなた、見たでしょ?」
「う」
ああそうか、と納得してしまう悠太。思いだせば彼女の綺麗な白い肌、ちょっと小ぶりの胸、ちっちゃなお尻……。いかんいかんいかん!!
「ねぇ。変なこと考えてるでしょ?」
「は!? ごめんなさい!」
「……考えてたのね……」
「はぅ!!」
顔を真っ赤にしてひたすら謝る悠太を見て、ため息をつく少女。だが悠太が悪いとはいえ裸を見ただけで殺されてはたまらない。悠太は少女に必死になって訴える。
「で、でもそんなんで殺すなんて!」
「そんなんで、ですって?」
「っ!?」
いきなり雰囲気が変わった少女に驚く悠太。少女の目を見れば明らかに怒っている。なんだかよくわからないがオーラが見えるような気がした。これが殺気というものなのだろうか。
悠太は彼女をとても恐ろしく感じた。呼吸も荒くなってしまっている。下手したら間違いなく殺される。そう感じるほどだった。
「あなたはね……私にとって見ちゃいけないものを見たの……」
「…………………………」
「ほら、これ…………」
「あ、それって…………」
少女は自分の腕に描かれた刺青を悠太に見せる。その刺青は蛇が口に髑髏をくわえて剣に絡みついてるものだった。少女はその刺青を見せながら言う。
「この刺青の意味……わかるでしょう? 私が一体なんなのかもね」
「…………えと、ごめん。わかんない」
「でしょう? わかんないでしょう? だから…………って、え?」
「いや…………意味はわかんないだけど」
「…………嘘?」
「いや……本当」
彼女はそのまま唖然としていたが、キッと真面目な表情に変えたかとおもうと、少女は悠太の頭に手をのせ、目をつぶった。なにやらブツブツとつぶやいているようだが何を言っているかまでは聞き取ることができなかった。
「え、ちょっと」
「いいから黙って!!」
「っ!?」
いきなり怒鳴られて驚いて口をふさぐ悠太。少女は目をつぶったまま何かに精神を集中しだした。彼女の手が不思議と暖かく感じるような気もする
ずっとそのままの状態でいるのかと思っていたが数分もたつと驚いた表情になった。
「…………嘘、でしょ?」
「ごめん? 何が?」
「いや……いいわ」
「?」
少女はなんだか気が抜けたような、それでいてまだ信じられないというような顔をしていた。そして悠太のそばに行くと縛っていた縄を解いた。
「え?」
「……君、嘘ついてないみたいだし……許すわ」
「ええっと……こちらこそ……すいませんでした」
「ああ……いいわよ。別に」
「あと……ありがとう」
「え?」
「助けてくれてありがとう」
そう言いながら悠太は手を差し出す。少女は何を言われたかわかってないのかポカンとしている。
「僕、天之川悠太。よろしく」
その差し出された手を少女はただ見ていたかと思うとニコっと笑って握ってくれた。
「私はエリィ。……まぁ、よろしく」
「うん。よろしく! ……ところでさ」
「何?」
「ここどこ? こんな場所町にあったっけ?」
「…………あぁ、そう。そうよね」
「?」
何がそうなのかと疑問に思うがエリィの説明を黙って聞くことにした。
「ここは、スノウホワイト領、カルブカの町の近くにあるカルブカの森。でその中にある特に名前のない湖よ」
「……へ? □〇△町じゃ……」
「どこよ? そんな町聞いたこともないわよ?」
「………………わぁ…………」
「ちょ、大丈夫? ところであなたなんであの湖にいたの?」
「あ、えっと……落ちてきた」
「落ちてきた? どこから?」
「あそこ」
そう言って悠太は空を指さす。指を指した方を見てエリィは悠太を変な目で見た。多分僕の頭は正気かと言っている目だ。そんな目で見られるとこっちも辛い。というか僕も自分が正気なのかを疑いたくなる。
「……空、ね」
「……うん。空。さっきまで洞窟の中だったんだけど」
「なんでそんなところから空にいるのよ」
「わかんない。洞窟の中の穴に落ちたと思ったらいつの間にか空にいた。……僕は夢を見てるのかな?」
「待ちなさい。私のことも夢だというの?」
「これは夢だ。夢だ夢。きっとそうだ。ゆめ、ゆめ、ゆめ」
「……ちょっとしっかりしなさい!」
バチンといい音が湖に響く。エリィが悠太の頬をひっぱたいた音だ。かなりの威力があったのか悠太の頬が真っ赤に腫れてしまっている。
「めっちゃ痛いんだけど!」
「あんたがばかなこといってるからでしょ!?」
「いや、ほんとになんでこんなことになったんだろね?」
「なんで他人事なのよ!? あなたのことでしょ!?」
「う~ん……なんでだろ?」
「……はぁ……」
ため息までつかれてしまった。エリィは結構な苦労性に違いない。その上見ず知らずの僕にここまでしてくれる彼女は世話焼きなのかもしれない、なんてことを考えてしまう僕はやっぱり実感がないのかもしれない。本当に夢なんじゃないか。
「まぁ、いつまでもここにいるわけにもいかないし、町に向いましょう」
「え? □〇△町?」
「違うわよ! カルブカ! そんなに遠くじゃないからさっさと行くわよ。ほらさっさと服着て」
「あ、ちょっとまって!」
すっかり忘れていたがそういえばパンツのままだった。ていうか女の子の前でパンツいっちょってただの変態じゃないか……と恥ずかしく感じる悠太。そういやさっきの服は湖に落ちたからびしょびしょになっていたはず。なのにもう乾いちゃってる。乾燥機とか使ったんだろうか。ちょっとエリィに聞いてみよう。
「この服、もう乾いてるけど何で?」
「ん? あぁ、私が魔法でささっとね」
「あ、そうなんだ。へぇ……へ? 魔法?」
「そうよ。だって私魔法使いだし」
「…………あ、そうなんだ~、へぇ~」
「ちょっと、何私を変な目で見てるのよ? 何私が痛い子みたいな感じなのよ?」
「いや、だって、ねぇ?」
「あんただって、異世界から来たとか訳わかんないわよ!」
「え?」
「……あ」
しまった、と顔に堂々とでてしまっているエリィ。だけどそれを聞いた悠太はああやっぱりという顔をしている。
「ま、そんな感じはしてたんだけどね」
「お、驚かないのね……」
「ほんと、なんでだろうね」
「だから私に聞かないでよ……」
しかし、悠太は思う。何故僕はこんなに落ち着いているのだろうか。いやそれよりも安心してしまう自分がいる。こんな右も左もわからないところに飛ばされたらあわてふためいてしまうのが普通だ。だけど僕にそんな気持ちはまったく起きない。なんだかここに来ることを望んでいたかのようで。
(もしかしたら……あの声のせいかな?)
洞窟の中で聞いた不思議な声。きっとあの声が僕をここに連れてきた張本人に違いない。しかしなんで僕を異世界に連れていくだなんてめんどくさいことをしたのだろうか。
(そういや願いがどうのとか言ってたな……)
僕の願いを叶える為にこの世界に連れてきたってことなのか。しかし、僕の願いって一体何だっていうのだろうか。この世界で僕に何をさせたいのか。どうすれば元の世界に帰れるのか。今の僕にはわからないことが多過ぎた。
「もう! 早く行くわよ!」
「あ、ごめん。すぐ行くよ」
(考えたって始まらない……よな)
エリィに呼ばれて、僕は考え事を一旦やめて近くの町に向かうことにした。
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エリィの道案内をされながらカルブカの森を歩く悠太。今歩いている道は人が通ることができるようにある程度整備がされていた。あの湖に名前がないとはいえ、ここに人が来ることがあるということなのだろう。道の隣は完全に森なのでいろいろな音が聞こえる。虫がなく音や鳥の声、何かの動物の鳴き声も聞こえる。人の話し声のようなもの聞こえるような気もするのだががこれは多分気のせいなのだろう。
ちゃんとした道があるとはいえこんな森の中をたった二人で歩くのはなんだか心細い。野生動物が出てきたら打つ手なしだ。そんなことを考えながら悠太はエリィに聞いた。
「ねぇ、エリィ。この森って危険なのっていないの?」
「そうね。危ない生き物が出たって話は聞かないわね」
「そっか~。よかった~」
「ま、妖精はいることにはいるけど。そうそう出てこないわ」
「ふ~ん。妖精ね~」
「あら、動じないのね」
「まぁ、慣れました」
「順応早いのね、あなた」
「まぁね。……ん?」
「あら?」
エリィとの会話中、ふと日が当たらなくなったことに気がついたため前を見ると巨大な毛むくじゃらの何かがいた。道の真ん中でドンと立ち止まっている。コイツが日の光を遮ってしまったのだろう。
僕はコイツがなんなのか分かった。だけどそうであって欲しくないとおそるおそるソイツの顔を見るために上を見上げた。
巨大な後ろ足。大きな前足。鋭い爪。口から見える牙。毛の色はなぜか水色なのだが間違いない。こいつはクマだ。
大きさは悠太の二倍はあるこの大グマはずっと僕達二人を見下ろして突っ立っている。今は何もしてこないがこのまま僕達をおとなしく見逃してくれる保証はない。僕はパニックに陥っていた。
(どうする!? 死んだふりか!? いや待て! こういう時は確か……)
僕は前に確か何かの本で読んだクマに対する最もよいという対処法を咄嗟に実行した。
「はじめまして。僕の名前は天之川 悠太です。夢は作家になることです。趣味は……」
「……なにしてるの?」
「え、いや。クマにあったら話しかけろって本に書いてたから」
「…………っぷ」
いきなり緊張しながらクマに話しかけた悠太に唖然としていたエリィだったが、悠太の行動を理解すると吹き出して大笑いした。かなりツボだったらしくお腹を抑えて涙まで流している。悠太は助かりたい一心でクマに話しかけているのにいきなり笑われてしまいちょっとムッとしたが目の前のクマを刺激したくないから小声でエリィに訴える。
「なんで笑うのさ!? クマに襲われたらおしまいなんだよ!?」
「あはははは! ……もう、笑わせないでよ! ……ぷっははは」
「おい! クマが見てる! エリィの方見てる!」
「ふふっ大丈夫。安心して」
「なんでだよ!?」
「この子はカルブカベアっていってね…………」
そう言うとエリィはクマと悠太からちょっと離れて深呼吸を行う。ちょっと恥ずかしそうに顔が少し赤くなっているような気がする。
悠太はエリィが一体何をする気なのかわからなかった為エリィの方をただ見守っていた。クマはエリィが今からすることに期待するかのごとく見ていた。
するとエリィは決心したのかある行動にでた。なんとエリィは歌を歌いながら踊りだしたのだ。
まさかの行動に悠太は心底びっくりした。まさか歌いだして踊るとは思ってもいなかった。
「ちょ、エリィ!? 何で踊りだすのさ!?」
「このクマはね、歌と踊りが好きなの。ほら」
踊りながらクマの方を指さすエリィ。それにつられてクマの方を見ると、クマは上機嫌になって同じように歌にあわせて鳴き声を出していた。どうやら歌っているつもりらしい。さらに体を動かし出して踊ろうとしているようだ。さすがの悠太もこの状況にアングリと口をあけた。
「……すっげ。やっぱファンタジーなんだなここって」
「ほら、あんたもボッとしてないで踊りなさいよ」
「え? 僕もするの?」
「そうよ。私だけさせる気? 私だって恥ずかしいんだから」
そう言って歌いながら踊るエリィ。その歌は西洋のこども向けの民謡に似ている気がする。踊りといってもただクルクルと回っているようにしか見えないのは悠太のいた世界の踊りと結構違うからだろうか。だけどそんなふうに踊るエリィがなんだか可愛らしくみえた。
最初踊るのが恥ずかしかった為ただ見ていたのだが、エリィの誘いに意を決し悠太も見よう見まねで踊ってみた。だけどやはり動きがぎこちないためエリィにまた笑われてしまった。
「ふふ、悠太踊り下手なのね」
「初めてだからね」
「ガウガウ」
「クマにまで笑われちゃったよ……」
「こうよ、こう」
「え、ちょっと」
そこでエリィが笑いながら悠太の手を取って踊りだした。いきなり手をつかまれたのでびっくりの悠太。それにお構いなしでエリィは楽しそうに踊っている。
(まさか、女の子に手をつながれて一緒に踊るとは……)
平静を装いながら内心ドキドキの悠太。そんな悠太を見てニコニコのエリィ。
(悠太恥ずがしがってる……。ふふっ)
どうやら悠太が恥ずかしがるのを知っていてやったようだ。結構なS気質のようで。
そんな二人と一緒に踊るクマ。今はクマだけではなくシカやウサギ、鳥も集まってきて一緒に歌い踊っている。よく見ると蝶のような羽で人の姿をした小さな生き物のもいる。
「なにあの生き物?」
「あら、妖精も一緒になるなんて……珍しいわね」
「あれが妖精!? うお、すげ!」
「私も初めて見た……。人前には出てこないのに……」
「そうなの?」
「えぇ……」
そんな二人にお構いなしに妖精たちはクルクルと回って踊っている。結構な数の妖精達がここに集まっているようだった。動物たちと踊るその様子はまさに幻想的だった。
「ほ、ほら。私達も」
「え!? まだ踊るの!?」
「そうよ! ここまで来た最後までやってくの!」
「うへ~」
そしてまだまだ続くこのダンスパーティに二人もまた参加するのだった。
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「や、やっと終わったわね……」
動物と妖精たちが満足して帰るまで一時間はかかった。その間二人はずっと踊り続けていたためもうへとへとだった。
「あ~、せっかく水浴びしたのに……汗かいちゃった」
まさかこんなに長くなるとはエリィは予想していなかった。普通カルブカベアは三分も歌って踊っていたら満足して帰っていくのだ。だけど今回は妖精まで出てきた為カルブカベアも楽しくなって踊り続けたのだろう
(まさか妖精まで出てくるなんて……)
妖精。この世界によって生み出された自然の力そのものである精霊により生み出された。妖精の力自体はたいして強いとはいえないがそれでもなんの力もない普通の人間では勝つことはできない。それに彼ら妖精には親とも言うべき存在、精霊の使いなのだ。精霊はこの世界の人間が到底及ばぬ力を持っているという。人も魔法を使うことができるが精霊の力には遠く及ばないのだ。その精霊の力を宿したモノはものすごい価値があり王様も所持できるものではないそうだ。また持ち主を選ぶといい、精霊の加護を受けたモノを操る人は聞いたことがない。エルフならばもしかしたらできるかもしれないが。
「ま、そんなことよりもさっさとこの森を抜けましょ。悠太」
しかし、悠太の返事が帰ってくることはなかった。
「あら? 悠太?」
エリィが悠太からの返事がないことに辺に思いふと当たりを見る。だけどそこに悠太の姿はなかった。
「うそ!? どこ行ったのよ!?」
驚いて悠太を探すエリィ。その時森の中に何かを引きずった跡があった。もしかしたら悠太は何者かに連れされたのかもしれない。
エリィは決めた。悠太を探しに行く事に。ちょっと前にあった関係ない男なのになんでこうも気になるのかわからないけども、そんなことを考えてる暇はなかった。
「もう! 迷惑ばっかりかけて! 待ってなさいよ!」
そう言ってエリィは森の中に入っていった。
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「……で、なんで僕はここにいるのでしょうか?」
森の中、悠太はグルグルに縛られて森の中にある広場のようなところにぽつんと座っていた。なぜかここだけ木が生えておらず、かわりに花が咲いていた。縛られ方はエリィのときよりひどくツルによってグルグルにされていた。
「ごめんなさい! でもどうしてもあなたを連れてきて欲しいって母様が……」
「そうそう! そのためにわざわざ連れてきたんだよ!」
「ていうかあれ連れてきてないよね。完全に誘拐だよこれ」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「あ! ビィをいじめるな~!」
「え、これいじめになるの? いじめられてるのって僕の方じゃ……」
「つべこべ言うな! ニンゲン!」
「ひど!」
そこに現れたのは三匹の妖精。おどおどしてすぐ謝るのがビィ、強気な元気っ子がエィ、さっきからずっと黙っているのがシィという名前らしい。全員この森に咲く花の妖精と言っていた。
実は踊り疲れてバタンと倒れていた悠太をぐるぐるに縛って連れてきたのは妖精達だった。なんでも彼らの母親が悠太に用があるということらしい。そのためにこの森にいた悠太を呼ぶために現れたのだが、悠太を見つけたのがちょうど踊り始めた時だった。妖精達はついつい楽しくなってしまいつられて踊ってしまったのだった。
「すること忘れて踊っちゃうって……」
「うるさいな! 楽しければいいんだよ!」
「それ、どうかと思うよ」
「もう! 面倒な奴!」
「ごめんなさい!」
「………………」
最初いきなり縛られて連れてこられたときは結構怖かったのだ。このまま僕は恐ろしい化け物のエサになってしまうんだ、ここで僕の人生終わりか、なんて悲観していたが、妖精達の会話を聞いているうちにそんな思いはどこかにすっ飛んでしまった。なんというか微笑ましくて可愛らしいのだ。
「てか引きずって連れてくることなかったんじゃない?」
「お前が疲れて動けないって言ってたからわざわざ引っ張ってやったんだぞ!」
「いや、行ってくれたらちゃんと歩くから」
「なんだよ! 大変だったんだぞ! すごく重かったんだからな!」
「…………痩せろ…………」
「いや僕痩せてるんだけど……。てか初めてしゃべったと思ったら結構ひどいこと言うね君」
「…………バラの妖精だから…………」
「あ、なるほど……ってギャグか!?」
「ご、ごめんなさい!?」
「いや、今のは謝らなくてもいいから」
「ならビィに誤らせるようなこと言うな!」
「あだだだだだだ!」
エィに僕の頬を思いっきり引っ張られて痛がる悠太。それを見て謝るビィとその様子をただ見ていたシィ。
妖精といってもこんなに性格が違うとは思わなかった悠太。こりゃこの子等の母親は大変だなとしみじみ思う悠太であった。
とここで木と木の間から何かが出てきた。それは巨大な木。悠太の世界にあった公園に生えてあるあの大木よりも大きいようだった。ここまで大きい木はこの森にはそうそうないだろう。
その大木がこっちに近づいてきていた。まさか木が動くとは思っていなかった悠太。まさにファンタジーだな、としみじみ思っていた。
「あ! 母様!!」
「え? あれが?」
「そうだ! 変なことするなよ!」
そう言って母親と呼んだ木に向かって飛んでいくエィ。それに続いていくビィとシィ。
どうやって動いていたのかわからないがエィ達の母親と思われる大木は悠太の前で動きを止めた。そしてその木の真ん中に女性の姿が現れた。その体も木で出来ていた。その人は悠太に向かって話しかけてきた。
「はじめまして、選ばれし人。私がこの森の主をしております、大樹精霊のブネといいます」