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第8話:夕暮れの草原と、忍び寄る「黄金」の噂

ガルドさんの助言のおかげで、小屋の周りには立派な「放牧エリア」が完成した。

ただのボロ小屋だった場所が、今では木の香りが漂う小綺麗な「牧場」の風情を醸し出している。


なっちゃんは、ガルドさんが連れてきたミニ・ロバのパコとすっかり意気投合したようだ。

自分より少しだけ背の高いパコの周りを、短い脚で一生懸命に追いかけている。

パコが「ブフッ」と面倒くさそうに鼻を鳴らしながらも、なっちゃんの歩調に合わせてゆっくり歩いてあげる様子は、まるで年の離れた兄貴分のようで微笑ましい。


一方、スカイ・フォックスのルルは、ガルドさんが即興で作ってくれた「監視用の止まり木」に飛び乗り、ふさふさの尻尾を誇らしげに立てていた。

そこから草原の彼方をじっと見つめる姿は、この小さな王国の立派な衛兵に見える。


「……ふぅ。これで夜も少しは安心して眠れるかな」


私は腰に手を当て、完成した柵を眺めて満足感に浸っていた。

すると、パイプをふかしていたガルドさんが、煙をくゆらせながら少しだけ真面目な顔でこちらを向いた。


「なつ。あんた、覚悟しておきな。この平和も、そう長くは独り占めできんかもしれんぞ」


「えっ、何か不穏なことでも?」


私が身構えると、ガルドさんはニヤリと笑った。


「悪い意味じゃないが、騒がしくなるってことだ。マリアの店で出したあのプリン……食べた奴らが『魂が洗われる味だ』『聖女の慈悲が形になった食べ物だ』なんて、尾ひれをつけて言いふらしておる。あんたのミルクの噂は、もう隣の街……いや、王都の商人の耳に届くのも時間の問題だろうよ」


「聖女の慈悲……。ただのプリンなのに、話が大きくなりすぎですよ」


私は苦笑いしたが、ガルドさんの目は笑っていなかった。


「それにだ。ここ数日、北の山から『黄金の毛玉』が降りてきたって噂が猟師たちの間で流れておる。光り輝く毛並みを持ち、風のように速く、そして……とびきりの『甘い香り』に目がなという、伝説の珍獣だ」


「黄金の毛玉……。またミニ動物ですか?」


「おそらく、スカイ・フォックスのルルがここに居着いたのも、偶然じゃない。ミニ動物ってのはな、強力な魔力や、極上の安らぎがある場所に引き寄せられる性質がある。あんたの打つ杭の音や、なっちゃんの立てるミルクの香りが、見えない磁石のように彼らを呼んでおるのかもな」


ガルドさんは、パコの背負ったカゴに空になったカップを戻すと、ゆっくりと杖を突いて歩き出した。


「ま、あんたなら大丈夫だろう。あの『白い悪魔的な可愛さ』のあるじなんだからな。何か困ったら、いつでも森の奥まで来な。薬草を煎じて待っておるわい」


パコが名残惜しそうになっちゃんの鼻先を一度舐め、二人は夕闇に染まり始めた草原の向こうへと消えていった。


私は、柵の入り口を閉め、なっちゃんを抱き上げた。

なっちゃんは私の腕の中で、満足そうに「モニュ~」と喉を鳴らしている。

肩には、ルルがいつの間にか飛び乗っていた。


「黄金の毛玉、か。なっちゃん、新しい友達が来るかもしれないね」


「モニュ!」

「キュイ!」


新しくなった「我が家」の窓からは、魔法ランタンの温かい光が漏れている。

夕焼けが紫色の夜へと溶けていく中、私の小さな酪農王国には、今日も穏やかで、それでいて少しだけワクワクするような時間が流れていた。

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