第7話:小屋の劇的ビフォーアフターと頑固爺さん
翌朝、私は窓から差し込む太陽の光と、顔面への「ザリザリ」という感触で目を覚ました。
なっちゃんが朝の挨拶代わりに、私の頬を力いっぱい舐めていたのだ。
「わかった、わかったから……。おはよう、なっちゃん」
筋肉痛の体を起こし、私は昨日買ってきた大工道具セットを取り出した。
今日の目標は「外構」だ。なっちゃんが夜間に外を徘徊する野獣や、あるいは好奇心旺盛な野良犬に襲われないよう、小屋の周りにしっかりとした柵を作る必要がある。
不思議なことに、トンカチを握ると「家庭菜園(酪農)」スキルが右手に熱を帯びさせた。杭を打つべき深さや、板を渡す絶妙な間隔が、設計図なしに頭の中に浮かんでくるのだ。
トントン、カンカン、と草原に心地よいリズムが響き渡る。
作業に没頭していると、背後から「ほう、筋がいいな。だが、角の組み方が甘いぞ」という低くしゃがれた声が響いた。
顔を上げると、そこには使い古された革の帽子を被り、立派な杖を突いた小柄な老人が立っていた。
彼の背後には、なっちゃんよりも一回り大きいだけの、青い毛並みをした「ミニ・ロバ」のパコが、小さなカゴを二つ背負って大人しく控えている。
「あんたが、マリアのところで『脳を溶かすプリンの主』と噂になってる新入りかい?」
「脳を溶かす……。人聞きが悪いですが、なつです。小屋を少しマシにしようと思いまして」
老人はガルドと名乗り、この先の森で偏屈な薬草師をしているという。
「ほれ、パコ。挨拶しな」
ミニ・ロバのパコが「ブフッ」と鼻を鳴らし、なっちゃんに歩み寄る。なっちゃんは最初こそ警戒して私の後ろに隠れたが、パコが穏やかに頭を下げると、恐る恐る鼻先を近づけ、「モニュ?」と挨拶を返した。
ガルドさんは、私の作った柵を杖でコツコツと叩きながら、手厳しくも的確なアドバイスをくれた。
「いいか。この辺りには『スカイ・ラビット』という、跳躍力だけは一人前の兎が出る。この高さじゃ、連中の踏み台にされるだけだ。杭の先端を少し削り、ルルが羽を休められるような横木も渡しておけ。そうすれば、ルルが上から見張りをしてくれるはずだ」
思いがけない師匠の登場により、作業は一気に加速した。
ガルドさんは魔法で木材の耐久性を高める「硬化の呪い(まじない)」や、害獣が嫌う薬草を周囲に植える方法まで伝授してくれた。
お礼に、なっちゃんの搾りたてミルクをカップに注いで差し出すと、ガルドさんは一気に飲み干した。
「…………ふぅ。……なんだこりゃ。あたしゃ、今まで何を飲んで生きてきたんだ? 寿命が三日伸びたというより、若返って走り出したくなる気分だわい」
こうして、ガルドさんという少し気難しくも頼りになる隣人と、パコという新しい友達ができた。
私の「牧場」は、少しずつ、でも着実に形を成し始めていた。




