第5話:究極のプリンと「珍獣様」の接待
マリアさんの食堂『陽だまりの亭』は、お昼時を過ぎて少し落ち着いた時間帯だった。石造りの壁には長い年月を経て染み付いた美味しそうなスープの香りが漂い、使い込まれた木のテーブルが午後の柔らかな光を反射している。
案内された厨房の片隅で、なっちゃんはマリアさんが用意してくれた「最高級の乾燥ハーブ」をモグモグと食べていた。その姿は、まるでお洒落なカフェで優雅にアフタヌーンティーを楽しむ貴婦人のよう……と言いたいところだが、実際は短い尻尾をプロペラのように振り回しながら夢中で食いついている。横では、ミニキツネのルルも一緒になってハーブの種を突っついていた。
「さあ、あんた。早速そのミルクを使って、試作してみようじゃないか。あたしの直感が、これはとんでもない代物だって囁いてるんだよ」
マリアさんが力強く腕まくりをする。
私は小瓶からなっちゃんのミルクを慎重にボウルに注いだ。その瞬間、厨房中の空気が一変した。濃厚なバニラのような、それでいて高原の早朝に咲く花々を凝縮したような、清々しくも甘美な香りが一気に広がったのだ。
「お、おいおい……火にかける前からこの香りかい? 冗談だろう? まるで森の精霊の溜息じゃないか」
マリアさんの驚きをよそに、調理が始まる。マリアさんの熟練の手際と、私の(前世で趣味だった)お菓子作りの知識が融合していく。厳選された地卵の黄身を丁寧に混ぜ、なっちゃんのミルクと合わせ、漉し網を通して滑らかにする。火加減は細心の注意を払い、湯煎でじっくりと蒸し上げた。
待つこと数十分。冷やし固められたそれは、琥珀色のカラメルを纏い、宝石のようにツヤツヤとした光沢を放つプリンへと変貌していた。
「……いただきます」
マリアさんが震える手でスプーンを入れ、一口。
その瞬間、彼女の目が見開かれ、次の瞬間にはトロンととろけた。
「…………天国だわ。あたし、死んで天国の門を潜ったのかい?」
「マリアさん、しっかりしてください。まだ試作段階ですから」
「何言ってるんだい! この口溶け……濃厚なコクがあるのに、後味は春のそよ風みたいにスッキリしてる。それに食べてごらんよ、体の芯から力が湧いてくるのがわかるだろう? あんた、これ一杯で金貨一枚取れるよ。冗談抜きでね!」
流石に金貨一枚は言い過ぎだろうと苦笑したが、マリアさんはその場でミルクの全量買い取りと、週に二回の定期納品を約束してくれた。しかも、買取価格は市場の特級ミルクの五倍という破格の条件だ。
私のポーチには、ずっしりと重い銀貨の袋が収まった。
「モニュ~ン」
なっちゃんは、マリアさんに顎の下を撫で回されて、完全に「接待モード」に入っている。細められた瞳には「もっと撫でなさい」という王者の風格すら漂っていた。どうやら自分を高く売る術を本能で知っているらしい。




