表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

第4話:フォックス・ミーツ・ミルク

その小さなスカイ・フォックスは、どうやらお腹を空かせているようだった。

弱々しく目を開け、私を……というよりは、私の胸元から漂うミルクの香りをじっと見つめている。


「なっちゃん、あの子に少し分けてあげてもいいかな?」


なっちゃんは「モニュ!」と快諾してくれた。自分より小さい者には優しい、いい子である。


私は小瓶の蓋を開け、手のひらに少しだけミルクを注いだ。

すると、ミニキツネはフラフラと立ち上がり、私の手に近寄ってくると、夢中でミルクを舐め始めた。


「……キュウ、キュウ!」


一口舐めるごとに、ミニキツネの毛並みにツヤが戻っていく。

さらには、背中の小さな羽がパタパタと力強く羽ばたき始めた。

やっぱりこのミルク、回復薬ポーション以上の効能があるんじゃないだろうか。


「キュイッ!」


飲み干したミニキツネは、満足そうに一回転すると、なっちゃんの鼻先に自分の鼻をコツンとぶつけた。

異種族間の挨拶だろうか。

なっちゃんも「モニュ~」と目を細めている。


「おーい、そこのあんた! うちのルルを見つけてくれたのかい!」


広場の向こうから、エプロン姿のふくよかな女性が走ってきた。

彼女はこの街で食堂を営んでいるマリアさんというらしい。


「ああ、よかった! この子はスカイ・フォックスって言ってね、この辺じゃ幸運を運ぶって言われてるんだ。急にいなくなっちゃうから心配したよ」


「いえ、ちょうどなっちゃんのミルクを分けてあげていたところで……」


「ミルク? ……ちょっと待ちな。その香り……ただのミルクじゃないね?」


マリアさんの鼻がヒクヒクと動く。

彼女はなっちゃんをまじまじと見つめ、次に私が持っている小瓶を見つめた。


「あんた、その牛……いや、その『珍獣様』のミルク、もし余ってるならうちに卸さないかい? うちの自慢のプリンにこれを使ったら、きっと街中の貴族が腰を抜かすよ!」


思わぬ形での商談成立だった。

私はマリアさんの食堂へ案内されることになった。

なっちゃんは私の胸元で誇らしげに胸を張り、新しく仲間に加わった(?)ミニキツネのルルは、なぜか私の肩の上に飛び乗って、羽を休めている。


「なんだか、思っていたより賑やかなスローライフになりそうだな……」


私は苦笑いしながら、石畳の道を歩き出した。

四十代、独身、元・平社員。

異世界の街での第一歩は、ミルクの甘い香りと、モフモフたちの温もりに包まれていた。


「モニュ!」

「キュイ!」


二匹の鳴き声が、昼下がりの広場にのんびりと響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ