第3話:はじめてのおつかい、はじめての街
異世界生活三日目。
私は、なっちゃんの「聖乳」を数本の小瓶に詰め、腰のポーチに差し込んだ。
「よし、なっちゃん。今日はあっちに見える街まで行ってみようか。このミルクがどれくらいの価値になるのか知りたいし、何より……お米かパンが食べたい」
三日間、ミルクと野いちごだけで過ごした私の胃袋は、炭水化物を猛烈に要求していた。
なっちゃんは「モニュ!」と元気よく返事をすると、私の足元を八の字に歩き回った。どうやら散歩だと思っているらしい。
私はなっちゃんを抱き上げ、麻のチュニックの胸元にそっと入れた。
ちょうどカンガルーの親になった気分だ。なっちゃんはひょこっと顔だけを出して、キラキラした瞳で外の世界を眺めている。
一時間ほど歩くと、石造りの立派な門が見えてきた。
門番の兵士さんは、近づいてくる私を不審そうに眺めていたが、胸元から出ている「白黒の何か」に気づいた瞬間、表情が劇的に緩んだ。
「お、おい……。なんだ、その可愛らしい生き物は」
「あ、これ、うちのなっちゃんです。ミニ・ホルスタインと言いまして」
「ミニ……ホル……? よくわからんが、とにかく可愛いな。おい、ちょっと触らせてくれ。いや、職務中だったな。くっ、不覚……」
兵士さんは苦悶の表情を浮かべながらも、震える手で入街許可証(という名のただの木札)を渡してくれた。どうやらこの世界でも、なっちゃんの可愛さは無敵のようだ。
街の中は、活気に溢れていた。
中世ヨーロッパを思わせる石畳の道。露店からは香ばしい焼き菓子の匂いが漂ってくる。
「モニュ、モニュ……!」
なっちゃんがお腹を空かせたのか、鼻を鳴らす。
私は近くの広場にあるベンチに腰を下ろした。
「なっちゃん、ちょっと待っててね。まずはこのミルクを買い取ってくれそうな場所を……」
その時だった。
ベンチの下から「ク~……」という、か細い鳴き声が聞こえてきた。
覗き込んでみると、そこには一匹の、これまた小さな生き物が丸まっていた。
体長は二十センチほど。
燃えるようなオレンジ色の毛並みに、ふさふさの尻尾。
姿かたちは完全に「キツネ」なのだが、背中に小さな、天使のような羽が生えていた。
「……羽の生えた、ミニキツネ?」
『個体名:スカイ・フォックス(迷子)を確認しました』
『スキル:【家庭菜園(酪農)】の対象として認識しますか?』
またしても頭の中に無機質な声。
どうやら私のスキルは、可愛いミニ動物を放っておけない仕様らしい。




