第2話:魔法のミルクと雑草掃除
ミニ牛——ひとまず『なっちゃん』と名付けた——を抱きかかえ、私は草原を歩き始めた。
幸いなことに、少し歩くと小さな川と、放置されたようなボロい小屋を見つけた。
「ここを拠点にしろってことかな」
小屋の周りには膝丈ほどの草が茂っている。
すると、私の腕の中からなっちゃんが飛び降りた。
「モニュ!」
なっちゃんは勢いよく草むらに突っ込むと、小さな口をモグモグさせて草を食べ始めた。
その食べっぷりが凄まじい。
まるでルンバが部屋を掃除するように、なっちゃんが通った跡は綺麗に「芝刈り」されたような状態になっていく。
「お、おお……。除草能力まであるのか、君は」
感心していると、再び頭の中に声が響く。
『搾乳が可能です。専用の容器を用意してください』
「えっ、もう!? まだ何もあげてないのに」
小屋の中を探ると、棚に木製の小さなバケツが置いてあった。
なっちゃんを呼ぶと、彼女は満足そうに「モニュ」と返事をして近寄ってくる。
私は緊張した。牛の乳搾りなんて、修学旅行の体験学習以来だ。
「よし、なっちゃん。ちょっと失礼するよ……」
そっと指を添える。
なっちゃんは大人しく、むしろ「早くして」と言わんばかりに尻尾を振っている。
一搾りしてみると——。
ピュッ。
バケツの中に、真っ白な液体が溜まった。
その瞬間、あたりに甘い、バニラのような香りが漂った。
「これ、本当にミルクか?」
一口、指ですくって舐めてみる。
驚愕した。
濃厚なのに後味はスッキリしていて、まるで高級ホテルの特製スイーツのような味がする。
そして、飲んだ瞬間に体がポカポカと温まり、長年の悩みだった肩こりがスッと消えていくのがわかった。
『聖乳を採取しました。疲労回復・魔力微増の効果があります』
「……これ、売ったら大儲けできるんじゃないか?」
下卑た考えが頭をよぎったが、足元で「次は撫でて」と要求してくるなっちゃんの瞳を見たら、そんな気は失せた。
この贅沢は、私となっちゃんだけの秘密にすべきだろう。
私は、新興住宅地の庭では叶わなかった「牛との暮らし」を噛みしめる。
たとえここが異世界でも、目の前にいるのは私が夢見た、最高の相棒だった。
「よし、なっちゃん。次は小屋の掃除をしよう。君の寝床を最高にふかふかにしてあげるからね」
「モニューン!」
こうして、一人と一匹の、世界一小さな酪農生活が本格的に始まった。
これからどんな不思議なことが起きるのか、今の私はまだ知らない。
ただ、明日もこのミルクが飲める。それだけで、私の異世界転生は「大成功」と言える気がした。




