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第20話:ポメラニアンサイズの永遠

聖獣の覚醒パーティーから数日が経ち、牧場には再び穏やかで、けれど以前よりもずっと賑やかな朝が訪れていた。


「……なつさん、おはようございます。本日の運営スケジュールと、なっちゃん様の栄養管理表を作成いたしましたわ。ご確認ください」


キッチンで朝食の準備をしていた私の元へ、エルゼ様がいつになく晴れやかな表情で現れた。その手には、公爵家の紋章ではなく、可愛い子牛のスタンプが押された書類が握られている。


「エルゼ様、今日も早いですね。……そういえば、王都からのお呼び出しは大丈夫なんですか? カイルお兄様が泣いて探しているってマリアさんが言ってましたけど」


「ああ、あれ(兄)はもう放っておいて結構ですわ。私、昨日付で公爵家を正式に『辞職』いたしましたもの。……いえ、正確には『王宮直属・なっちゃん牧場終身管理官』という、超法規的な役職への外部出向を勝ち取りましたの」


「終身管理官……?」


「ええ。給与は王宮持ち、勤務地はここ、主な業務はなっちゃん様のモフモフの維持と、なつさんの生活サポート。これ以上の天職がこの世にあるかしら? うふふ、これでもう誰にも邪魔されず、一生ここで労働に励めますわ!」


エルゼ様は、優雅にエプロンの紐を結び直した。彼女の背後には、すでに「終身管理人室」と書かれた豪華なプレートが掛かった、ガルドさん特製の離れが完成している。


「ガッハハ! お嬢ちゃん、話が早いな。わしも隣のハーブ園に引っ越し作業を終えたところだ。パコと一緒に、ここの薬草を世界一にするのが楽しみだぞ」


ガルドさんが窓の外から顔を出す。

パコも「ブフッ!」と同意するように鼻息を吹き、アイス・ピンがその足元を器用に凍らせて涼を届けている。


「モニュ~ン!」


そして主役のなっちゃんは、黄金のハムさんを頭に乗せたまま、私の元へトコトコと駆け寄ってきた。

聖獣としての知能を得ても、なっちゃんの行動原理は変わらない。

私の膝に頭を預け、大きな瞳を潤ませて「撫でて」と無言の圧力をかけてくる。


『なつ、おなかすいた。あさごはん、おいしいミルクパンがいいな!』


念話で届く甘えた声に、私は思わず顔が綻ぶ。

「はいはい、なっちゃん。今作るからね」


私は、なっちゃんをひょいと抱き上げた。

ポメラニアンサイズの子牛。

前世の夢、今世の現実。

かつて冷たいコンクリートの部屋で、スマートフォンの画面越しに眺めていた「癒やし」は、今、私の腕の中で温かく動いている。


食後、私たちは草原へと出た。

黄金の鱗粉が舞い、スカイ・ベリーがぷかぷかと空を漂い、ルルが空高くで虹を描く。

そこには、王都の喧騒も、領地のしがらみも、孤独な夜も存在しない。


私は、なっちゃんを抱き抱えたまま、草原の向こうに沈みゆく、燃えるような夕日を眺めた。

隣には、相変わらず記録魔石を回し続けるエルゼ様と、パイプをくゆらすガルドさん。

足元には、楽しそうにじゃれ合うミニ動物たち。


『なつ。なっちゃん、とっても幸せだよ』


「……私もだよ、なっちゃん。みんな、本当にありがとう」


前世で夢見た景色は、きっとここよりもずっと静かなものだったはずだ。

けれど、実際に手に入れたスローライフは、耳が痛くなるほど賑やかで、目が回るほど忙しくて、そして——涙が出るほど、温かかった。


かけがえのない仲間たちと共に、この「ポメラニアンサイズの楽園」はこれからも続いていく。

一日一日を、一歩一歩を。

なっちゃんのひづめが刻む、小さな、けれど確かな幸せの音と共に。


私たちの、終わらない狂想曲スローライフは、ここからまた新しく始まっていくのだ。


(完)

最後まで読んでいただきありがとうございました。明日からは「異世界ダンジョン攻略:三匹の酔侠」が始まります。

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