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第17話:黄金の鱗粉と永久不変の楽園

先代国王エドワード様によって「王立・特別自然保護区」という最強の看板を掲げられた我が家だが、その興奮が冷めやらぬ翌朝、ガルドさんがいつになく真剣な表情でパコを引き連れてやってきた。


その背中のカゴには、見たこともないような複雑な模様が刻まれた「魔力伝導石」が山積みにされている。


「なつ、そしてエルゼのお嬢ちゃん。王室の保護区になったからには、中身もそれに見合う『国宝級』にしなきゃならんだろう? わしは決めたぞ。ここに、世界で唯一の『魔力循環型・永久楽園』を建設する!」


「……永久楽園、ですか?」


私が聞き返すと、ガルドさんはガバッと広げた設計図(という名の殴り書きの羊皮紙)を地面に広げた。


「いいか、今のこの牧場は、なっちゃんの魔力とハムの粉、ピンちゃんの冷気がそれぞれバラバラに作用しておる。それをこの魔力伝導石で繋ぎ、巨大な『結界回路』を組むんじゃ。そうすれば、冬は暖かく、夏は涼しく、草は食べても一瞬で再生し、水は常に清らかな魔力水として湧き出る……文字通りのエデンになるわけよ!」


「……ガルド様。その構想、予算と資材を考えれば王宮の庭園改造に匹敵しますわよ」


エルゼ様が鋭く指摘するが、ガルドさんはニヤリと笑った。


「材料なら目の前にある。ハムの『黄金の鱗粉』が魔力の触媒になり、なっちゃんの『聖獣ミルク』が動力源になる。わしらはただ、それを繋ぐ土木作業をするだけだ。……さあ、なっちゃん! 協力してくれるな?」


「モニュ!」


なっちゃんは、何が始まるのか分かっていないようだが、ガルドさんの勢いに押されて元気よく返事をした。


こうして、前代未聞の「牧場大改造計画」が幕を開けた。


まず着手したのは、牧場の四隅に魔力伝導石を埋め込む作業だ。

パコが重い石を運び、ガルドさんが古の呪文を唱えながら地脈に固定していく。その作業の間、なっちゃんは興味津々でガルドさんの周りをチョコマカと動き回り、時折、埋められたばかりの石を「ザリザリ」と舐めていた。


「おい、なっちゃん! それは飴玉じゃないぞ! ……だが待てよ、なっちゃんの唾液に含まれる魔力が石に馴染んで……おお、伝導率が跳ね上がったぞ! さすがは聖獣候補じゃな!」


「モニュ~ン」


褒められた(?)なっちゃんは、得意げに尻尾をプロペラのように回している。

次に登場したのは、黄金のハムさんだ。ガルドさんが合図を送ると、ハムさんはなっちゃんの背中からダイブし、埋められた石と石の間を全速力で駆け抜けた。


「キュ、キュキュキュ!」


ハムさんが走った跡には、キラキラと輝く黄金のラインが地面に刻まれていく。それが鱗粉による魔力の回路だ。

さらに仕上げとして、アイス・ピンがそのラインの上を「パキパキ」と凍らせながら歩いていく。


「ピンちゃん、そこよ! そのラインに沿って冷気の安定化をお願い!」


エルゼ様が、まるで現場監督のような鋭い指示を飛ばす。

冷気が回路に定着することで、夏でも地熱が上がらず、常にひんやりとした理想的な地表温度が保たれるのだ。


「よし……最後はなっちゃん、お前の番だ。ミルクをこの中央の『親石』に一口注いでくれ」


ガルドさんに促され、私が絞ったばかりの温かいミルクを、牧場の中心に据えられた透明な石に垂らした。

その瞬間——。


ゴォォォ……という低い地鳴りと共に、牧場全体が淡いエメラルドグリーンの光に包まれた。

足元の芝生が、見る間に瑞々しさを増し、色とりどりの小さな花が一斉に開花していく。空高くからは、ルルがその光景を祝福するように美しい声で鳴き声を響かせた。


「……完成だ。これぞ『永久不変のなっちゃん・パラダイス』じゃ!」


ガルドさんは満足げに鼻をこすった。

試しに私が芝生を一掴み抜いてみると、その瞬間に土の下から新しい芽が「ポンッ」と音を立てて生えてきた。


「凄いです……。これなら、なっちゃんがどれだけ食べても、草がなくなる心配はありませんね」


「それだけではありませんわ、なつさん。この結界内では、なっちゃん様たちのストレスが完全にゼロになるよう、空気中の魔力濃度が調整されていますの。……ああ、見てください! あの幸せそうな姿を!」


エルゼ様の指差す先では、なっちゃんが新緑の草の上でゴロゴロと転がり、その横でアイス・ピンとハムさんが一緒に昼寝を始めていた。

あまりの心地よさに、なっちゃんは半開きになった口から「モニュ……」と幸せそうな寝息を漏らしている。


「……ふふ。これこそが、私の求めていた光景かもしれません」


私は、完成した「楽園」を眺めながら、胸が熱くなるのを感じた。

前世で夢見ていた「ポメラニアンサイズの子牛との生活」。それは今、最高の仲間たちの手によって、どんな王宮よりも贅沢で、どんな魔法よりも温かい、ハード面でも完璧な「聖域」へと昇華したのだ。


「……よし、エルゼ様。せっかくの楽園ですから、今日はみんなでパーティーにしましょう」


「賛成ですわ! では、私は最高級のティーセットと、なっちゃん様のミルクを使った特製のババロアを用意いたしますわね!」


ガルドさんはパコと一緒に草の上に寝転がり、ルルは花々に囲まれて羽を休めている。

黄金の鱗粉が舞い、清らかな冷気が漂う、永遠の牧場。

私たちのスローライフは、ついに一つの「究極」に到達した。


だが、この楽園の完成は、さらなる「癒やし」を求める人々を呼び寄せる呼び水となることを、まだ私たちは知る由もなかった。

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