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第9話:黄金の毛玉と、招かれざる(?)美食家

ガルドさんが去った後の草原は、心地よい静寂に包まれていた。新しく設けた柵の囲いの中で、なっちゃんはパコとの追いかけっこで疲れたのか、私の足元に頭を預けてスースーと寝息を立てている。その背中の斑点模様が、夕闇の中でぼんやりと浮き上がっていた。


「黄金の毛玉、か……。まあ、なっちゃんより可愛い生き物なんてそうそういないだろうしね」


私は独り言を漏らしながら、なっちゃんの柔らかな耳を指先で弄った。

その時だった。


「キュ、キュイッ!」


止まり木の上で居眠りをしていたはずのルルが、突然羽を逆立てて叫んだ。

ルルの視線の先、草原の向こう側から、ゆらゆらと揺れる「光」が近づいてくる。松明の火にしては色が白っぽく、何よりその動きが異常に速い。


「な、なんだ……!?」


私は慌てなくなっちゃんを抱き上げた。なっちゃんは「モニュ?」と寝ぼけ眼で鼻を鳴らす。

光の正体は、あっという間に柵のすぐ目の前までやってきた。


それは、ガルドさんの言っていた「黄金の毛玉」そのものだった。

体長はなっちゃんより一回り小さく、テニスボールを二つ繋げたような丸っこいフォルム。全身が絹糸のような黄金色の長い毛で覆われており、月の光を反射して発光しているように見える。長い耳がピンと立っており、ウサギのようでもあり、モルモットのようでもある不思議な生き物だ。


『個体名:ゴールデン・ハむスター(変異種)を確認しました』

『スキル:【家庭菜園(酪農)】の対象として認識しますか?』


(ハムスター、なの……? でもデカいし光ってるし……)


その「黄金の毛玉」は、柵の隙間からひょいと中に入り込むと、私の鼻先まで一足飛びに跳ね上がってきた。そして、私のポーチに入っていた、マリアさんの食堂から持ち帰った「ミルクの残り」の瓶を、小さな前足でペシペシと叩き始めたのだ。


「キュ……キュキュキュ!」


「えっ、あ、これ? これが欲しいの?」


私が小瓶を取り出すと、黄金の毛玉は目をランランと輝かせた。その瞳はルビーのような赤色で、吸い込まれそうなほど美しい。

蓋を開けて皿に注いでやると、黄金の毛玉は「プキュプキュ」と妙な声を上げながら、猛烈な勢いでミルクを飲み干した。


「モニュゥ?」


なっちゃんが、自分の特等席(私の腕の中)を脅かす新参者を、少し不満そうに見つめている。

すると、ミルクを飲み干して満足した黄金の毛玉は、なっちゃんの不機嫌を察したのか、突然自分の毛を逆立ててブルブルと震え始めた。


するとどうだろう。黄金の長い毛の中から、キラキラと輝く「粉」がパラパラと落ちてきたではないか。


『アイテム:黄金の鱗粉(肥料・極上)を入手しました』


「ええっ!? 何これ、金粉?」


驚いている私をよそに、黄金の毛玉——仮に『ハムさん』と呼ぶことにした——は、満足げに一回転すると、なっちゃんの背中の上にポフッ、と飛び乗った。

なっちゃんは一瞬驚いたものの、ハムさんの毛並みが驚くほど暖かくて心地よかったのか、「……モニュ」と納得したように目を細め、そのまま一緒に丸くなってしまった。


「……なんか、勝手に家族が増えてる気がする」


私は呆然としながらも、その光景を眺めていた。

黄金の毛玉がもたらした「鱗粉」を少し土に混ぜてみると、そこから生えていた雑草が、一瞬で瑞々しい青草へと成長していくのが見えた。


「これは……とんでもない『肥料係』が来ちゃったかもしれないな」


なっちゃん(生産)、ルル(警備)、そしてハムさん(土壌改良)。

私の牧場は、いつの間にか「ミニ・ファンタジー牧場」としての機能を完璧に揃えつつあった。

明日、ガルドさんが見たら腰を抜かすだろうな……。そんなことを考えながら、私は黄金に輝く二匹(と一羽)を抱え、温かいランタンの灯る小屋へと戻った。


だが、この「黄金の光」が、遠く離れた場所からも目立っていたことに、この時の私はまだ気づいていなかったのだ。

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