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プロローグ.女ガニとの出会い
気づくと、俺は死んでいた。
さっきまで何をしていたのか思い出せない。ただ、冷たい現実から解放されたような、不思議な浮遊感だけがあった。
そして、目の前に“それ”はいた。
振り返ると、そこには女神――いや、女ガニがいた。
人の形をしている。だが頭には立派な甲殻があり、両腕の先には艶やかな鋏が備わっている。横歩きこそしていないが、どう見てもカニだった。
「あなたの能力は――蟹です。」
澄んだ声で、女ガニはそう告げた。
意味がわからなかった。
蟹?
かに?
カニ?
俺の新しい人生は、甲殻類から始まるらしい。
俺の名前は蟹岡裕也。十八歳。友人も恋人もいない。……いや、“いなかった”と言うべきか。
学校では空気で、家では無職予備軍。誰からも必要とされず、誰の記憶にも残らない。そんな、どこにでもいる――いや、どこにも居場所のない、俗に言う非リア充の弱者男性だ。
そして今、俺は死んだ。
にもかかわらず、目の前には女ガニがいる。
どうやら、俺の人生は――まだ終わっていないらしい。




