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女神の帰還 2

「シーマス。此処は、帝国領土だろう?」

「いかにも、そのとおりです。」

微笑が美しく氷の美貌を彩る。滝と落ちる白髪。

「では、迎えの花火だ。撃ちたいというなら、撃たせてやらねばならないじゃないか。滅多にないぞ?原住民が帝国を迎える為にこうも盛大な催し物を企画してくれるとはな。」

「――花火、ですか。」

眉をあげるシーマスに、将軍がにこりと笑う。

「そう、花火だ。歓迎のな。下にもいってやれ。――少々、熱過ぎるかもしれないが、この極冠の地では丁度良い暖かさだろうとな。うろたえて迎撃などせぬよう伝えてやれ。」

「迎撃は、よろしいですか。」

「無論だ。花火だもの。―――貴君は、花火に何か、砲撃を返すというのか?それではおそろしくて祝砲も一々撃てないではないか。」

にや、と悪戯気に笑む将軍に、副艦長が淡々と制御盤へと向き直る。

「通信官。下の管制に、迎撃しないようにと伝えておけ。」

シーマスが何処か諦めを含んだ口調で云い、通信官が宙港の管制に連絡を取る。

 立体映像の球体に映る光点の位置が徐々にずれていき、宙港を真下に見下ろす映像となる。

「ほう、―――一つ、宙港近くの輝点のエネルギー値が上がったぞ。五百。」

「降下されますか?もし総てのエネルギー値が上昇するようでしたら、艦の防御壁にも弱点が生まれるかもしれません。」

「降下だ。」

「了解しました。降下。」

シーマスの復唱に艦が静かに垂直に降下していく。

 映像に映る輝点が、その輝きを増して行く。

 エネルギー値の上がる輝点は、加速度的に数を増して行く。

「…三、五、七、…――――対地距離二千、…十五、十六、二十七、八、九、三十一、五十、五十七、…―――。」

数える将軍に、操縦を行いながらシーマスが指摘する。

「大気組成によるエネルギー減衰を考慮に入れましても、五百を越えるエネルギー点からの攻撃点が七十七を越えた場合、高度千五百以下の地点では、真空時よりも弱体化している防御壁に、一時的ですが亀裂が入るおそれがあります。」

「…六十六、六十八、そのようだな。所詮我が艦は地上戦用ではない。真空での戦場が本来の場だ。もし亀裂を気にしてさらに本格的に防御壁を展開しようと思えば、地上の山脈総てを消し飛ぶ勢いでやらねばならんだろうな。」

「最悪の場合、惑星一つが消し飛ぶこととなります。」

「確かにそれは不味いだろうな。――亀裂が生じた場合、其処にもしエネルギー砲を撃ち込めれば、うまくすればこの艦に傷が入るかね?」

「極々、上手く狙えばですが。」

「そうか。―――ジャクル、おまえなら、防御壁に生じた亀裂に、砲を叩き込めるか?その場合、艦を落すことは可能かな?」

砲撃官の内右側に座っている赤い頭髪の一人が発言する。

「出来ないと云う方がどうかしています。」

艦の高度は千五百から徐々に下がっている。高度千、さらに千を切る。

「エネルギー値、五百が八十八。立派なものだ。」

微笑する将軍に、誰も答えるものは無い。

「調整官が派遣されるだけのことはある地だな。良い歓迎だ。二百を数える攻撃点の内八十八を五百に揃えることが出来れば、後は亀裂を狙いすませて撃ち抜く砲の準備等別に揃えてあるに違いない。立派なものだよ、実に。」

微笑が眸に乗り、藍の眸に笑みと同時に凍りつくほどの激しい炯が生まれている。

「我が艦に傷をつけることが出来れば、帝国の威信はがた落ちだろうからな。うまくいけば、沈めることも出来る。」

愉しげに笑うと、降下をさらに指示する。

「ゆっくり、撃ち易いように降りてやれ。」

「降下速度落します。地表まであと十五単位。」

「狙いをつけるには充分な速度だな。そのまま降下しろ。」

「降下致します。」

ゆっくりと、静かに旗艦藍氷は宙港へと向けて降下していく。立体映像はいまや周囲を輝点に取り囲まれた形になる中を降りていく形となる。

 地上施設まで、八百。ドーム形式の宙港設備等の姿が映像には輪郭をみせるまでになる。

 降下する旗艦。

 八十八の輝点が艦を取り巻き、狙っている。

 静かに、それを眺めている将軍。

地上戦用ではなく、本来の任務が宇宙にある旗艦藍氷の大気圏用防御壁は、大気との摩擦による艦の損傷を防ぐという本来の用途には万全の備えを持っている。これにより、かなりの程度まで地上からエネルギー値五百を超える攻撃を同時に七十七までは無傷で受け通すことが出来る。

しかし、七十八弾目からは負荷を超え、防御壁に亀裂を生じることが報告されている。

降下、五百。

最早、地上に降下することを止められる最終点まで到達した。

完全に降下して、それから上昇するのでなければ、もはや上空に逃れることは敵わない。

もしこれより高度の低い位置で攻撃を受ければ、大気圏用防御壁は破れる可能性も存在する。其処に砲撃を受ければ、最悪の場合、艦が大破、撃沈にもつながりかねない。

だが。

もし艦を護る為に、真空時用防御壁を展開すれば、――防御壁自身の威力が桁外れであるため、惑星自体を破壊してしまうだろう。艦隊戦に於ける有効射程距離は地上とはまったくことなり、一つの艦が防御するべき区域とエネルギーもまた、桁が外れたものになるからである。時には、艦が周囲に展開する真空時防御壁は、基本的な居住可能惑星の軌道四分の一を直径とすることがある。当然だが、防がなくては成らないエネルギー量も桁外れであり、防ぐ為に防御壁を作動させただけで惑星一つ位は簡単に消し飛んでしまう。

降下、三百。

二百五十。

輝点が突然輝きを増し、八十八の数値が総て八百を越えた。

「やるな。」

将軍が云うが、降下を留める言葉は云わない。

 …二百、百八十、百六十。

 いまや輝きに埋れて旗艦は宙港に降りていく。

 誰にも声は無い。

 百五十。

「反地平面に艦を繋留します。」

「許可する。」

動きが止まる。

「降下停止。」

地表より、百五十。宙港の艦船繋留面に艦が固定される。

 反地平面と呼ばれるこの高度に設けられた設備は、既に地表からの攻撃から艦船を護る為に適応した宙港が持つシールドに護られている。

「着艦しました。」

「ごくろう。」

将軍が笑みを含んで獰猛な視線を映像に向ける。

「撃ってきませんでしたな。」

シーマスにちら、と視線をくれて、将軍が顎を組んだ両手に預けて云う。

「…さて、こちらは地上との挨拶だな。」

攻撃不能地点、百五十に入る直前。輝きを増していた輝点は、その総てが瞬時に消失していた。

 一瞬に光点が消え、映像にはクリアな空間のみが残されている。

「消してもいいぞ。」

に、と笑む将軍に振り返らず、シーマスが操作して立体映像が消える。残る平常の艦橋内を見渡して。

 次に、通信パネルに地上管制が映し出されるのを待ちながら、愉しげに独り呟く。

「…この出迎え花火の件、どう言訳てくれるものかな。」

抵抗勢力がこれほど一斉に現れた事。さらにその統制の取れた行動他。これでは地上が仕事をしていないといわれても弁解しようがないだろう。それを、何といって含める気か。

 ―――確かに、調整官の訪れる地だけのことはある。

そして、招かれざる客、調整官の職務を思い返す。

 辺境の地に於いて、一度帝国の内に身を置きながら、反抗勢力が厚く力を蓄え、反抗が極度に緊張に達した惑星と星域がかれらの職場だ。

 ――この惑星も、かなりの難度に在る星のようだな。

では、頑張って貰おうか、調整官、と人事に放置して。

 別件として、帝国本隊から直接旗艦が訪れるこのときに、何故これほどの規模での攻撃を許したのかを、地上に問い詰めるべく将軍は笑みを浮かべた。地上がどれだけ反抗勢力に苦慮しようとも、それは関係無い。唯、それが帝国艦船を傷つける可能性があった以上、艦を護るものとして抗議は行われなければならないということだ。

「…実にたのしみだ。」

獲物を見つけた獅子のようだといわれる笑顔で云う。

 戦場で敵に情けをみせぬ将軍は、敵にだけでなく味方であろうと、自己を弁護するものにも容赦の無いことで知られている。

 地上管制管理官が、一体どのような受け答えをするかによって、世にも恐ろしい論敵に将軍はなるだろう。

 そしてまた、いい加減な誤魔化しで、将軍が今回の出迎えについて納得する筈も無い。

 地上管制は、窮しているのか、本来なら先方から呼び掛けてくるはずの通話を開いて来ない。

「それにしても、撃って来なかったか。気の毒にな。」

調整官、の一言は内に含んで。将軍は通話を待ち受ける。

 悪戯気な藍の眸が微笑を呑んで輝いていた。



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