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諦めた僕と諦めないお嬢様の話  作者:
第五章

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第五章 十二話 『傲慢お嬢様とバリアの少年』Ⅳ

京介が、バックヤードへの扉を見つけて、勢いよく開けた。


二人は中に飛び込む。

狭い通路に、段ボール箱が積まれている。奥

には、従業員用の休憩室らしき部屋が見える。


京介が扉を閉める。

そして——


「えい!」


ーーガチャ


京介が扉をロックした。


ドン!ドン!


外から強盗たちが扉を叩く音が響く。扉が揺れ、軋む音がする。


「開けやがれ!出てこい!」


「クソ!なんだこれ、開かねえぞ!」


しばらくドンドンと激しく叩かれた。

でも、扉は壊れない。京介も美香も必死に扉を抑えている。額に汗が浮かび、顔が真っ赤になっている。


やがて、叩く音がしなくなった。


静寂が訪れる。


「もう、行ったか?」


京介が、おそるおそる扉に近づこうとした。


「待って!」


美香が京介の腕を掴んで止めた。


「罠かもしれないわ。これだけの騒ぎなら、誰かが通報して、警察が来るはず。パトカーのサイレンが聞こえるまで、ここにいましょう」


「あ、ああ……そうだね」


京介は頷いた。

美香の言う通りだ。 


焦って出て行って、また捕まったら、今度こそ逃げられないかもしれない。


二人は壁に背中をつけて、座り込んだ。荒い息をしながら、しばらく黙っていた。


5分、10分と過ぎ、15分くらい経ったと思う


「にしても……暑いわね」


美香が額の汗を拭いながら言った。


確かに暑い。

バックヤードには冷房がないのか、むっとする熱気がこもっている。


夏の始まりにしても、妙に暑すぎる。


「!し、下!」


京介が、扉の下を指差した。


「け、煙?!」


扉の下の少し開いた隙間から、灰色の煙が流れ込んできている。


鼻をつくような、焦げた臭い。

プラスチックが燃えるような、嫌な臭いだ。


さっきのモバイルバッテリーの爆発だ。

火の手が店を包んでいたのだ。


「か、火事!早く出ないと……あっ、熱い!」


京介は慌てて扉のノブを掴もうとして、すぐに手を引っ込めた。ドアノブが、まるでフライパンのように灼けるように熱い。


「大丈夫?!」

「う、うん」

美香が京介の手を見ると、掌がすこし赤くなっていた。


「いけない、早く冷やさないと……」


美香は慌てて、近くにあったペットボトルの水を京介の手にかけた。でも、扉は熱くて開けられない。


扉の鍵を解除しても、あの熱さでは触れない。無理に開けたら、炎が流れ込んでくるかもしれない。


「どうしよう……このままじゃ……」


京介の声が震える。煙がどんどん濃くなってきている。咳き込み始める二人。


美香は必死に周りを見回した。


そして——天井を見上げた。


「あれ!換気扇!」


天井に、大きな換気扇がついている。

業務用の、四角い換気扇。


そこから外に出られるかもしれない。


「でも、高すぎるよ……」


京介が不安そうに言う。確かに、天井は3メートル近くある。普通の子供では届かない。


「大丈夫!私の能力で!」


美香は近くにあった段ボール箱を積み上げ、その上に登った。

それでもまだ、換気扇には届かない。


美香は能力を発動させた。


ピンク色の光が溢れ出す。

「よっと」

美香は換気扇の高さまでジャンプした。


そして流れるように美香の拳が換気扇に向かって放たれる。


ドガンッ!


換気扇が吹き飛ばされ、青空が見えた。


「やった!」


美香は喜んだ。

でも、問題はここからだ。


「すご…」


「ぼーっとしてる場合じゃないわ。さあ、行くわよ」

「で、でも、俺、あんな高いところ…」

京介の声が震える。


煙で涙目になった彼は、恐怖で足がすくんでいた。美香は一瞬迷ったが、時間がない。彼女は意を決すると、京介の体を抱き上げた。


「ちょ、ちょっと!」

「じっとしてて!」

小柄な美香が京介を抱えて浮き上がる。


美香は能力で京介の体を軽々と持ち上げた。

最初は不安定だったが、試行錯誤の末、お姫様抱っこの体勢に落ち着く。


「お、俺、降りる! 恥ずかしい!」

「うるさい! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

京介の顔が真っ赤になる。


女の子に抱っこされて脱出するなんて。

でも美香の腕の中は不思議と安心感があった。

二人は換気扇の穴から外へ出た。


コンビニの屋根に降り立ち、そこから地面へ。振り返ると、店の中は炎に包まれ、黒煙が空高く立ち上っていた。

「間に合った…」

京介が膝をついて息を吐く。


その時、黒塗りの高級車が急停車した。

ドアが開き、黒いスーツの男性が降りてくる。

「美香お嬢様!」

「如月…」

執事の如月は険しい顔で美香の元へ駆け寄った。


彼女の姿を確認すると、安堵と怒りの入り混じった表情になる。

「一体何があったのですか! 無断で外出され、しかもこのような…」

「ごめんなさい」

美香は素直に頭を下げた。


如月はすこしびっくりした様子で深いため息をついて、車のドアを開ける。

「とにかく、屋敷へお戻りください。詳しい話は後ほど」

美香が車に乗り込もうとして、京介を振り返った。


「あなたも乗って」

「え、でも…」

「手当てしないと。それに、お礼もしてないし」

如月は不承不承といった様子だったが、美香の視線に負けて頷いた。

豪邸のリビングで、京介の手当てが済んだ。

医務室まである屋敷の規模に、京介は終始圧倒されっぱなしだった。

幸いやけどは軽く腫れもなく、冷やすだけですんだ。


「お嬢様、詳しい事情をお聞かせ願えますか」

如月が厳しい口調で尋ねる。

美香は一瞬躊躇したが、京介を見た。


彼の不安そうな顔を見て、決心する。

「ただの買い物よ。たまたま強盗に遭遇しただけ」

「……そうですか」

如月は信じていない様子だったが、それ以上は追及しなかった。

やがて京介を家まで送り届ける時間になった。

玄関で、美香が京介に向き直る。


「今日のことは二人の秘密よ」

「秘密?」

「そう。如月にも詳しく話さない。あなたも誰にも話さないで」

「あ、ああ」


美香は少し照れたように笑った。

「次会うときには、もっと男らしくなっててよね。じゃないとまた抱っこしちゃうんだから♪」

京介の顔が再び真っ赤になる。


美香は車に乗り込みすぐに車が走り出し、姿が遠ざかっていく。


京介は慌てて気づいた。


「名前…名前聞いてない!」

だが車はもう角を曲がって見えなくなっていた。


ーーーー


「そして、そのあと私はお父様とお母様からこっ酷く叱られたのでした」


美香は手をパシッと合掌し話の終わりを示した。


「想像してたより、壮絶な昔話でしたね。そのあと会うことはなかったのですか?」

月夜は静かに言った、手元のカップはもう空っぽだ。


「ええ、そのあと私は姉と一緒に海外に留学することになって忙しかったのよ」

(まぁ今考えると、組織に目をつけられたからお父様が逃してくれたのかもね)


美香は心の中でそう呟く


現に京介の里帰り後の話的に京介の記憶が失われたのは時系列的に美香に会い事件に遭遇したすぐあとだ。


つまりは、私が屋敷を抜け出したから。

(私の、せい、で。)


美香の表情が曇る。

握りしめた拳が、わずかに震えた。

「あなたがそんな暗い顔をする必要はないわ」


月夜がまるで美香の心を読んだかのような言葉をかけてきた。


「え…」

「その後のことは、私も調書で確認しています」


月夜の声音が変わった。普段の上品な口調とは違う、感情のこもった本音の言葉。


「“あの件”は1000:0で、あのクソ男たちに非があります。償うべきは、あいつらです」

「月夜さん…」

美香が顔を上げると、月夜は真っ直ぐに彼女を見つめていた。


その瞳には、確かな意志と優しさがある。


コンコン


「美香お嬢様、月夜様、夕食の支度が整いました」

扉の向こうから、如月の声が聞こえた。

「ありがとう。すぐ行くわ」

美香が返事をして、立ち上がる。


「行きましょう、月夜さん!」

元気よく差し伸ばされた美香の手を、月夜は微笑みながら握った。


温かい手だった。


「ええ、参りましょう」



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