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第五章 五話 ランチの後は…下

一方、お化け屋敷に入らなかった四人——京介、美香、静、月夜——は、『なんでも食堂』の近くにあるカフェテラスでお茶を楽しんでいた。

「ここ、落ち着きますね、紅茶も美味しい」

静がアイスティーを飲みながら言った。

「そうですね、紅茶が湯呑みに入れられているのは驚きですけど、あの賑やかさから離れて、少しゆっくりできるわ」

月夜が優雅に湯呑みを傾けた。

「みんな、大丈夫かな」

美香が少し心配そうに呟く。

「大丈夫だろ。劉も真上さんもいるし」

京介が湯呑みに入ったカフェオレを飲みながら答えた。

四人はしばらく、午前中の出来事や今後の予定について談笑していた。穏やかな時間が流れ、心地よい秋風が頬を撫でる。


その時——

「ママ……ママ……」

小さな声が聞こえてきた。

「?」

月夜が声の聞こえる方を向く。

四人が顔を上げると、カフェテラスの端で、三つ編みの小さな女の子が泣いていた。七歳くらいだろうか。ピンクのワンピースを着て、手には小さなキッツー君のぬいぐるみを握りしめている。

「あれ、あの子……なんでも食堂にいた」

静が心配そうに見つめた。

「お母様が見えませんね、迷子かしら」

月夜が立ち上がった。

「行ってみましょう」

美香も席を立つ。京介もそれに続いた。

四人が近づくと、女の子はさらに大粒の涙を流していた。

「ねぇ、どうしたの?」

美香が優しく声をかけながら、女の子の目線に合わせてしゃがみ込んだ。

「ママ……ママがいないの……」

女の子がしゃくりあげながら答えた。


「迷子になっちゃったんだね。大丈夫よ、一緒にママを探そうね」

静も隣にしゃがんで、女の子の背中を優しく撫でた。

「お名前は?」

月夜が落ち着いた声で尋ねた。

「えま……」

「えまちゃんね。可愛いお名前」

月夜が微笑んだ。


「えまちゃん、ママとどこで離れちゃったか覚えてる?」

美香が優しく尋ねる。

「……あのね、お店で……ご飯食べてて……」

えまがキッツー君のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら答えた。


「もしかして、『なんでも食堂』かしら」

月夜が推測した。

「うん! それ!」

えまが目を輝かせて頷いた。

「じゃあ、一緒に戻ってみよう。ママもきっと探してるよ」


美香が手を差し伸べた。

えまは少し躊躇ったが、美香の優しい笑顔を見て、小さな手を握り返した。

「大丈夫、怖くないからね」

静が反対側から手を繋いだ。

四人はえまを連れて、『なんでも食堂』へと向かった。えまは時折振り返りながら、不安そうな表情を浮かべている。


「えまちゃん、そのキッツー君、可愛いね」

美香が話題を変えて、えまの緊張をほぐそうとした。

「うん……ママが買ってくれたの」

えまが少し笑顔を見せた。

「そっか。大事にしてるんだね」

「うん!」

えまが元気よく頷いた。

少しずつ、落ち着きを取り戻しているようだ。


『なんでも食堂』に到着すると、入口で必死に周囲を見回している女性の姿があった。三十代くらいの、優しそうな顔立ちの女性だ。

「あ、ママ!」

えまが女性を見つけて叫んだ。

「えま!」

女性が振り返り、駆け寄ってきた。えまも美香と静の手を離し、母親の元へ走る。

「ママ!」

「えま、どこ行ってたの! 心配したのよ!」

母親がえまを抱きしめた。安堵と心配が入り混じった表情だ。

「ごめんなさい……」

えまが泣きながら謝った。



「あの、本当にありがとうございました。目を離した隙にいなくなってしまって……」

母親が深々と頭を下げた。

「いえいえ、無事に会えて良かったです」

美香が優しく微笑んだ。

「えまちゃん、今度はちゃんとママの近くにいるんだよ」

静がえまに優しく声をかけた。

「うん……」

えまが素直に頷く。

「本当にありがとうございました。お名前を教えていただけますか?」

母親が尋ねた。

「いえ、大丈夫です。困った時はお互い様ですから」

美香がさりげなく断った。


「そうですか……本当に、ありがとうございました」

母親が再び深く頭を下げた。えまも、小さな手を振って別れを告げる。

「ばいばい、お姉ちゃんたち」

「ばいばい、えまちゃん。気をつけてね」

静が手を振り返した。

四人は母娘が去っていくのを見送った。


「良かったね、無事に会えて」

静がほっとしたように言った。

「ええ。本当に」

月夜も同意する。

「……僕が出る幕なかったな」

京介がふと言った。

「八田君はもっとちびっ子に触れ合わないと、ヒーロー失格よ、今度保育園のボランティアに連れて行くわ」

「おやめください、子供達が可哀想です」

月夜が冷淡に告げる

「じゃあ、月夜さんもいきましょう」

月夜が驚いて振り返る。


「だって、あの子に話しかける時。自然に目線合わせてたし、すごく優しい表情だった」


「あれは…何というか、泣いてるあの子が妹みたいで」

月夜が顔を赤くして俯いた。

「いえ、美香さんの言う通りですよ。月夜さん!とても素敵でした本当に。私も見習いたいです」

静が微笑んだ。


「やめてください、みんなして……」

月夜がますます顔を赤くする。

しかし、その表情はどこか嬉しそうだった。

その時、遠くからお化け屋敷組の四人が歩いてくるのが見えた。


「あ、みんな帰ってきた」

静が指を差す。

「どうだった?」

京介が劉に声をかけた。

「めちゃくちゃ怖かった! もう二度と入らない!」

劉が大げさに震えながら答える。


「でも、楽しかったんでしょ?」

美香が笑いながら尋ねた。

「まぁ……うん」

劉が照れくさそうに認めた。


「それよりこんなところでどうされたのですか?そっちは何かありました?」

透が尋ねる。

「実は……」

静が迷子のえまちゃんを助けた話を始めた。

四人は興味深そうに耳を傾ける。

「へぇ、そんなことがあったんだ」

「お姉ちゃんが…」

「月夜さん、かっこいいですね」

大和が感心したように言った。


「そんな大したことじゃないよ」

月夜が謙遜する。

「でも、困ってる人を助けるって大事なことだよね」

劉が真面目な顔で言った。


「…そうね」

月夜が頷いた。


秋の日差しが少しずつ傾き始めていた。午後の時間が静かに流れていく。

「さて、次はどうしましょうか。時間的に最後ですよ」

時刻はもう16時これから帰宅となると1.2時間かかる、高校生達は大丈夫だがさすがに中学生を遅くまで連れ出すのは良くない。

透が再びマップを広げた。

「では、観覧車、乗りませんか?」

天音が提案した。

「いいですね。夕焼けも見れるかもしれませんし」

大和が賛成する。

「じゃあ、観覧車に決定!」

劉が元気よく宣言した。

八人は連れ立って、園内で一番高くそびえる観覧車へと向かった。


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