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諦めた僕と諦めないお嬢様の話  作者:
第五章

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第五章 五話 ランチの後は…上

ランチを食べ終えた八人は、満足そうにお腹を撫でていた。可愛い見た目に相反してかなり腹に溜まった、どの料理も美味しく、キッツー君とフォックちゃんの可愛らしい装飾に最後まで癒された。

「ごちそうさまでした」

全員が声を揃えて言った。


「さて、午後はどうしましょうか」

大和がマップを広げながら尋ねた。

「あ、これ! 『お狐様を鎮める』お化け屋敷!」

劉が指を差したのは、園内の端にある古めかしい日本家屋風の建物だった。マップには不気味な雰囲気の黒狐のイラストが描かれている。

「お化け屋敷か……」

京介が少し渋い顔をした。

「面白そうですね。行きましょう」

天音は積極的に賛同する。

「私も行きたい!」

透が目を輝かせた。

彼も意外にホラー好きなようだ。

「でも、これ最大六人までって書いてありますね」

大和がマップの注意書きを読み上げた。

「では、六人と二人に分かれないといけないですね」

月夜が言った。


「……私、ちょっと遠慮しておこうかな」

美香が申し訳なさそうに言った。彼女の顔には、明らかな抵抗感が浮かんでいる。

「草薙さん、お化け屋敷苦手なんだ?」

劉が意外そうに尋ねた。

「うん…その、前のやつがかなりトラウマになってて……」

美香が顔を少し赤くして認めた。

「ああ、なるほどそれなら京ちゃんもやめた方がいいね」

劉が思い出したように言った。

「ああ……」

京介が恥ずかしそうに俯く。

「それでは、お二人に待っていてもらいましょう。」

静がさりげなく言った。


「……この前、お化け屋敷」

ボソッと呟いた月夜が天音とコッソリ目を合わせる。

「じゃあ、残りの六人で行きましょう」

透が話をまとめた。


「待って、私も草薙さんたちと一緒でいい?」

突然、静が手を挙げた。

「え、静、さっき行きたいって……」

大和が不思議そうに尋ねる。


「うん、でも考えたら、私もそこまでお化け屋敷得意じゃないかも。それに、草薙さんとお話ししたいこともあるし」

静が少し照れくさそうに笑った。

「あら、それなら私も一緒にいようかしら」

月夜が突然言った。

「月夜さんも?」

透が驚いたように尋ねる。


「ええ。お化け屋敷より、草薙さんたちとお茶でもしている方が有意義ですもの」

月夜が優雅に髪を払った。

「じゃあ、四人と四人で分かれるってことですね」

透が確認する。

「そうなるわね。お化け屋敷組は、杉原君、真上さん、大和君、天音さんの四人」

美香がまとめた。

「はい! 頑張ってきます!」

天音が元気よく答えた。


「それじゃあ、終わったら入口で合流ということで」

京介が提案した。

「了解です」

こうして、八人は二つのグループに分かれることになった。

お化け屋敷組の四人——劉、透、大和、天音——は、『お狐様を鎮める』の入口に向かった。古びた鳥居をくぐると、そこには日本家屋風の不気味な建物が佇んでいる。入口には大きな提灯が揺れており、「お狐様」という文字が不気味に浮かび上がっていた。


「うわぁ、雰囲気あるなぁ」

大和が少し怯えたように呟いた。

「大和君、まさか怖いんですか?」

透が意地悪そうに笑う。

「いや、怖くはないよ! ただ、雰囲気がすごいなって」

大和が強がって答える。

「大丈夫ですよ。私がいますから」

天音が劉の肩に手を置いた。

その落ち着いた声が、不思議と安心感を与える。


「それじゃあ、入りましょうか」

大和が深呼吸をしてから、入口の暗い廊下へと足を踏み入れた。

四人が中に入ると、重い扉が背後で閉まった。ゴトン、という鈍い音が響き、完全に暗闇に包まれる。

「わっ」

劉が小さく声を上げた。

しばらくすると、薄暗い照明がぼんやりと灯り始めた。目の前には長い廊下が続いている。壁には古びた掛け軸や、不気味な狐の面が飾られていた。

「お狐様を怒らせた村人たちの、呪われた屋敷……か」

透が壁に貼られた説明書きを読み上げた。

「なんか、本当に呪われてそうな雰囲気だね」

劉が周囲を見回しながら言った。


「大丈夫ですよ、ここはただの作り物です」

天音があっさりという

「み、身も蓋も無いことを…」

透が苦笑いをした


四人は慎重に廊下を進んでいく。

床はギシギシと音を立て、時折どこからともなく風が吹いてくる。

「うわっ!」


劉が突然悲鳴を上げた。角を曲がった瞬間、真っ白な顔の幽霊が現れたのだ。

「っ!」

透も驚いて劉にしがみついた。

「落ち着いてください。ただの作り物です」

天音が冷静に幽霊を見つめながら言った。

確かによく見ると、壁から飛び出す仕掛けのようだ。

「びっくりした……」

劉が胸を撫で下ろす。

「真上さんも杉原さんも意外と怖がりですね」

大和が少し笑いながら言った。

「大和君は怖がらないですね、得意なの?」

ふわふわの髪を揺らし天音が大和の顔を覗き込む

「ホラー小説とか読むから……」

「そうなんだ、大人だね」

天音に微笑まれ大和が照れくさそうに頭を掻いた。


「静さんに言いつけましょう」

「ですね」

みっともない年上が遠吠えをする

さらに奥へ進むと、突然畳の部屋に出た。

中央には古びた鏡台があり、その前には狐の面が置かれている。

「これ、触っても大丈夫かな?」

劉が恐る恐る手を伸ばした。

「やめた方がいいんじゃないですか? 何か起きそうで……」

透が制止しようとした瞬間——

ガタンッ!

突然、部屋の襖が全て一斉に開いた。そこから複数の狐の面をつけた人影が現れる。

「うわああああ!」

「っ!」

劉は叫び、透は声にならない悲鳴を上げた。


「こ、こっちです! 走りましょう!」

天音が二人の様子に笑いを堪えながら冷静に出口を指差す。四人は脱兎のごとく走り出した。

狭い廊下を抜け、階段を駆け上がり、何度も驚かされながら、ようやく出口の光が見えてきた。

「やった、出口だ!」

劉が安堵の声を上げる。

四人は息を切らしながら、明るい外に飛び出した。

「はぁ……はぁ……」

全員が肩で息をしている。

「怖かった……」

劉がへたり込んだ。

「でも、面白かったですね、二人が」

天音が涼しい顔で言った。彼女だけは全く動じていなかったようだ。

「天音さん、本当に動じませんね……」

透が感心したように言った。

「慣れているんです」

天音が微笑んだ。

「それにここは怖い音がしないので」

小声すぎてなにを言っているかわからなかったがその笑顔には、何か意味深なものが含まれているような気がした。


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