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諦めた僕と諦めないお嬢様の話  作者:
第四章

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四部 十七話 遂行ミステリー! 上

「でも、これだけ証言が揃えば、天音さんが犯人って筋は消えるわね」

「待て」篠原が割って入った。


「監視カメラは偽造、扇子は元から贋作だとしても文化祭の時点で“偽物”だったなら、まだ埋まっていない穴がある」


「本物はどこにあるの?」結城が続けた。


「資料館から学園に運ばれるまでの流れを調べれば分かるはずです」美香が答える。


「その期間に天音さんのアリバイが証明されれば、完璧だ」


劉の一言で場は一瞬静まった。


篠原は少し考え込んでから顔を向けた。

「僕は資料館の貸出記録と搬入のサインを当たる。結城は文化祭当日の立ち会い名簿と配布物一覧を洗ってくれ」

結城は頷いて「はい」と返す。


美香が京介に耳打ちした。

「透さんにも連絡してみる。書類の改ざんがあれば、透さんの“接触”で前の記憶が見られるかもしれない」

「でも、また追い出されるんじゃないか?」

「大丈夫。透さんはプロだし……」


そのとき、結城が鞄から小さなメモ帳を取り出して指を走らせる。


彼らが動き出そうとした矢先、いつのまにか来ていた野原が近づいてきて鋭く言い放った。

「書類は簡単に出せません。調査は教師を通してからです」

「野原さん!」

「ゲッ、いつの間に」


「大人数で動くと混乱も増えるかと」

月夜は静かに問う。

だが、野原は表情を崩さない。


「学校の信用問題です。勝手なことは控えなさい。」


物理的な壁が立ちはだかる――だが、書類に残された“痕跡”は消せない。


京介、美香、劉、月夜は空教室で作戦を練り直していた。

「あそこまで言われたら調べられませんね」

「野原さん、どうしてあそこまで拒絶するんだろう」

「扇子がなくて焦ってるというより、イライラしてる」


「……」

「草薙さん、どうしたの、険しい顔して」

「へ? なんでもないわよ⁈」


京介は妙に神妙な顔をしている美香に嫌な予感がした。

「草薙、まさか忍び込もうとか考えてないよな」

「そ、そんなわけないじゃない」

あからさまに、美香の目が泳ぎだす


「こ、こいつ……」

「バレたらこちらが不利になりますよ」

「はい」


教室の扉がガラッと開き、全員がビクッとする。

「やぁ、探偵団さんたち」

そこにいたのは石城だ。


「あ、えと! まだ未遂です!」

「草薙さん、白状しちゃってる!」


「何の話?」

「あー、どうかされましたか?」

「おー、ヤタッチ〜、いいもん持ってきたよ」

「ヤタッチ?!」

「これ見てみー」


差し出されたスマホの画面には、書類が表示されていた。

「デデン! 扇子の貸し出し書類だよ!」

「!」


ヤタッチたちが化学室へ行っているあいだ、暇だったから動いてみたという石城。


資料館との貸出台帳は想像より扱いが雑で、ページの間に封筒や受取伝票の控えが挟まっていた。鉛筆で殴り書きされた日付と、受取にサインした欄。署名は走り書きで判読しにくいが、受取人欄には「学園側:早乙女」と朱印が押してある。朱印は正式な「学芸員」印ではなく、角張った別の印影――押し直した痕跡すら残っていた。


「印が二重になってる……誰かが後から押したのか?」劉が呟く。

封筒の中には当日の簡易リストと小さなメモ。メモの端には学生の名札が擦れて付着していた紙切れが貼られている。名札は半分しか見えないが、生徒のものであることは確かだ。


美香はそれを拡大し、指先で痕を追った。

「これは……生徒が運搬に関わった証拠になる。意図的に“学生の手”を使ったと見るのが自然ね」



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