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四部 十六話 情報収集


展示室の前にはロープが張られ、教員と委員会の生徒たちが立っていた。

天音は「重要参考人」として廊下の椅子に座らされ、両脇を二人の教員や委員会メンバーに固められている。彼女の表情は硬く、唇を噛みしめて下を向いていた。


「外部の方はご退室ください。それから、くれぐれも外で余計なことを口にしないように。もし噂を流せば、学校の名誉毀損として訴えます」


 透にそう言い放ったのは、険しい表情の野原だった。学校側は騒ぎを大きくしたくないらしく、警察を呼ぶことも渋っているようだ。


透は肩をすくめ、こちらに視線を寄越す。

「……まあ、そういうことらしいので。私は一度事務所に戻ります。進展があればご連絡ください」

 わずかに口元を歪め、彼は踵を返す。その背中が廊下の角に消えるのを見届けてから、美香が小さく息を吐いた。


「……ケースに触れてもらえたら一発でわかるのに」

「でも、僕らだけでやるしかないだろ」


 野原たちが用意した“証拠”を信じていたら、天音はこのまま犯人にされてしまう。



京介たちは展示ケースのある化学室へ向かった。見張り役なのか、結城と篠原も同行している。


美香がケースを覗き込みながら首をかしげる。

「うーん……無理にこじ開けられた形跡はないわね」

「鍵を使って開けたってことか? なら、貸し出し履歴を調べればいいんじゃないか」京介が提案する。

「いや、鍵は野原先輩が管理してたし、合鍵もないはずだよ」結城が答えた。


篠原も頷く。「あの人が鍵を手放すとは思えないね。実際、肌身離さず持ってたし、定期的にチェックもしてた」


「じゃあ、可能性があるとしたら……鍵を盗んで合鍵を作ったか、スパイ映画みたいに針金でガチャガチャやったか」


「どっちも薄いな」結城が渋い顔をする。

「鍵は使わないとき金庫に入ってたし、もし針金で開けたなら、鍵穴に傷の一つでも残るはずだ」



その頃、余白探偵社。


学園を追い出されてから透が事務所に戻ると、鍵が空いていた

「おや、お二人でしたか」

そこにはソファーにすわる大和と静がいた

「真上さん」

「少し、美香さんたちに聞きたいことがあって」


透が首を傾げる。

「聞きたいこと、ですか?」

「はい。文化祭の日は場を壊したくなくて言えなかったんですが、展示されていた扇子についてです」


「どのようなことですか?」


「僕たちの学校に歴史好きの先生がいて、文化財にも詳しいんです。展示されると聞いて偶然一緒に見に行ったんですが……その先生が『扇子は贋作だ』と言っていて」


「……どういうことですか?」



文化祭2日目、京介達との合流前


「うわー、すごい人」

「静、はぐれないでくれよ」

「そっちこそ、人混みに流されないでね」

「じゃあ行こう、科学室だよな」

大和と静は自分たちの作った扇子の新聞のようすを見にきた、ついでにそばに展示されている扇子を資料館で見たがもう一度見学する予定だ

ようやく到着したが、目の前には長蛇の列ができていた。


「……これ、みんな扇子目当て?」

「そうだぞ」低い声が返る。

「稗田先生!」

「今来られたんですか?」

「いや、これで二回目だ。少し気になることがあってな」

「二回目って……気になることって何ですか?」

「一度目はよく見えなかった。だが、どうにも引っかかる」


十分後、ようやく展示ケースの前に立つ。

中央の特別展示台には、金箔の輝きをまとった檜骨の扇が広げられていた。


「……やっぱり違う」


稗田は小声でつぶやく。


「衣装の襞の描き込みが妙に均一だ。本物なら筆圧の揺らぎや墨のかすれが残る。だが、あれは均一で“描きすぎている”印象を与える。……贋作だ」



余白探偵社。


透は腕を組み、「合っているかどうかはともかく、興味深い情報ですね」とつぶやいた。



科学室の京介たち。


透から美香に電話が入る

「……つまり、扇子は最初から偽物だったってこと?」美香が眉をひそめる。


『はい、その教師の証言はとても気になります』

スピーカーから透の声が響く


「その教師の見立てが正しいかはわからない」

結城が口を挟む。


「展示には学芸員も立ち会ってたはずだし」

「でも……もし本当だとしたら」


 美香が言葉を探していると、後ろで月夜がぽつりとつぶやいた。

「本物を隠してダミーを置いてから“盗まれた”ことにすれば……騒ぎを遅らせられるし、大きくできる」


その一言に、場の空気が凍りついた。


京介が振り返ると、月夜はそっけなく肩をすくめている。 


「誰がどんな目的でやったのかは、まだわかりませんが」


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