表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諦めた僕と諦めないお嬢様の話  作者:
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/87

第四章 一四話 レッツ文化祭! 中

2日目午前


「……人多いな」

人波を眺めて、思わずうめいた。


「警備員の方の話だと、これでも昨日よりは少ないみたいですよ」

隣で月夜が淡々と答える。


「ゆっくりお進みくださーい!」「最後尾はこちらでーす!」

委員の呼びかけが響き渡る。


今日は朝10時から、起舞の扇子の展示警備の当番。これさえ耐えれば、代表としての仕事もクラスの出店も終わる。心の中で「あと少し」と唱えながら立ち続けた。


近くでは学芸院が拡声器で解説をしている。

「こちらが伝説に名高い起舞の扇子でございます!」

(ぶっちゃけうるさい)


あのお盆の「お化け鏡」以来出してなかった大声を、思わず張り上げる。

「押さないでくださーい!前へ進んで!」

喉が焼けるように熱くなりながらも、どうにか交代時間まで持ちこたえた。


ようやく解放され、広場で劉、美香、静、大和と合流する。


「あ、京ちゃんこっち!」

人の間を縫って、美香が手を振る。


「八田さん、お疲れ様です」

静がはにかみながら丁寧に労い、後ろの大和がペコッと頭を下げる。


「八田君、人すごかったでしょ、ちゃんとできた?」

「京ちゃん、大丈夫?押し潰されなかった?」

「……一応、大きな問題はなかった」

「よかった〜!京ちゃん変なところで気が強いから、また問題起こさないか心配だったんだよ」

「“また”ってなんだ。今まで一回もないだろ」


ふと、京介はその場にいない人物に気づく。

「……あれ、真上さんは?」


4人が顔を見合わせ、そろって苦笑いを浮かべる。

大和が答えた。

「自分たちと来てたんですけど……人の多さを見て、『やっぱり、私はやめておきます』って帰っちゃいました。」

「へぇ、どうしたんだろな」


その時、校庭の特設ステージから軽音部の演奏が響いた。観客がリズムに合わせて手拍子を始め、生徒も保護者も人だかりになっていく。


「やっぱり生演奏ってテンション上がるね!」

美香はノリノリで手を叩く。劉や静、大和も楽しそうに揺れていた。大和のリズムはちょっとズレている気がするけど。


京介はというと、暑さと人混みでぐったりだ。

「八田君、もっと楽しそうにしてよ」

「……無理」

「ほんとつまんない人!」


そう言ってニパッと笑う美香の横顔が眩しくて、思わず視線を逸らした。



午後 — 演劇『カエルの王様』


いよいよ演劇の時間。

体育館のステージに立つ美香は、普段の彼女とは別人だった。


幕が上がり、泉のほとりで金の球を転がして遊ぶ王女の姿が現れる。観客がざわめき、照明が彼女を包む。


やがて球は水面に落ちる。

「どうしましょう……あの金の球は、大切な宝物なのに」

泣きそうな声に、前列の子どもが思わず「かわいそう」とつぶやいた。


湖からカエルが現れる

「泣くことはない、姫君。私がその球を拾ってきてやろう。ただし――条件がある」

「条件?」

「私を友とし、そばに置いてほしい」


観客席がざわめく中、王女はためらい、笑みを作る。

「ええ、いいわ。球を取り戻してくれるなら、何でも」


球を受け取ると、あっさり背を向けて去る王女。いい性格をしている


――王宮の食卓。

父王に叱責され、渋々共に食卓につく王女。

だが日を重ねるうち、カエルの誠実さに気づいていく。


そこへ現れる魔女。

「哀れな王子よ。呪いを解いてやろう。ただし――その命は虫よりも長く続かぬがな」


カエルは苦しげに答える

「私は人の姿で君と共にいたい。たとえ短い命でも」


観客の視線が、美香に集まる。

彼女は唇を震わせ、涙をこらえて叫んだ。


「いいえ! 私は、この姿のままのあなたを愛します!もし人間に戻ったら……“外見が変わったから愛した”と思ってしまう。そんな愛は偽物よ。大切なのは、姿でも力でもない。心よ!」


その言葉は、美香自身の信念そのもののようだった。

その台詞が、なぜか強く印象的残った。


カエルは涙を流し、王女の手を取る。

幕が下り、物語は「人には戻らぬまま、寄り添い続ける」という結末で閉じられた。



カーテンコール。

深々と頭を下げる美香に、会場いっぱいの拍手が送られる。

舞台の上の彼女は、僕の知っている「草薙美香」であり、同時に全く別の誰かのようでもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ