二部 一二話 蛇足
田中麗奈が静に罪を告白し、事態が急速に収まったことを、
京介、美香、劉は余白探偵事務所に戻って、透に報告していた。
「なるほど、結局自分のしたことに耐えられなかった、というわけですね。
なにはともあれ、これ以上事態がややこしくならなくてよかったです」
透は安心したように笑った。
「杉原君に連絡しててくれて助かったわ。二人が先生と来てくれてなかったら……本当に大変だったから」
そう、美香は透に深く感謝を述べた。
だがその直後、透はじっと京介と美香に目を向け、わずかに目を細めた。
「お二人とも。あまりご自分が“派手に動くべき存在ではない”ということを、自覚されるべきです。
……まあ、今回は仕方なかったですが」
「……静ちゃんが危なかったの。反省はしてます」
「僕、出そうとしてなかったのに……」
京介は少しだけ拗ねたように言った。
「……やっぱりまだ自覚なかったのですね。八田様の能力、無意識下でも“守ろうとしたら”発生するようです。積極的に使うものではないですが――制御できないのは問題です」
「ま、まあ……これからは俺も、京ちゃんや草薙さんが能力を使わないで済むよう、フォローしていくから」
劉がそう言って二人をかばうように言った。
「ありがとう、杉原君」
美香が笑みを浮かべると、京介も小さく頭ん下げた。
たしかに、京介らの能力によって一触即発の状況は収まった。だが、それは同時に、“ただの高校生ではない何か”を静と大和に見せてしまった瞬間でもあった。
翌日の放課後。
静は校舎裏の草の上にしゃがみ込み、小さく息を吐いていた。
怪我はなかったものの、心の整理はまだついていないようだった。
そこへ、制服の裾を揺らして大和が現れる。
「静……なんか昨日いろいろあったけど、大丈夫か?」
「うん……大丈夫。だけど、田中先輩のこととか、親も呼ばれて話すことになって……。帰るのが遅くなっちゃった。ちょっと寝不足」
「静って、規則正しいもんな。10時には寝るんだろ? 毎日夜更かししてる僕には、想像もつかん」
「夜更かしすると、身長伸びないよ」
「うっせ」
静がくすっと笑えば、大和は照れ隠しのようにそっぽを向いた。
しばらく風が吹く音だけが流れた後、静がそっと呟く。
「……でも、八田さんと草薙さんが……どうしてあんな風に動けたのかなって」
「……多分、俺らが見ちゃいけないもん、見ちゃったんだよな」
「……怖く、なかった?」
「正直、ちょっとビビった。草薙さんの動き、プロの格闘家かと思ったし。
八田くんのあの……空気の壁? あれも、なんかすごかった。説明できないけど」
静は目を伏せたまま、草をちぎる指先を止めなかった。
「……もし、私のせいで誰かが傷ついてたらって思うと……怖かった。あの人たちが怖いんじゃなくて……そんな自分が」
その指先は、小さく震えていた。
「私……変わりたいなぁ」
「……静は、もう十分頑張ってると思うけど」
大和は少し照れたように言いかけて、ふと何かを思いついたように目を見開いた。
「……あ、いいこと思いついた」
「え、なに?」
静が顔を上げると、大和は真剣な表情でしゃがみ込み、静と目を合わせる。
「草薙さんと八田くん。あの人たち、誰かのために能力を使ってるんだよな。……人助けってやつ」
「……うん。隠しながらだけど、ちゃんと守ってくれた」
「でも、今回みたいに人目があると、なかなか動けないだろ? だから、俺たちで……そのフォローをするってのはどうかな? ちょうど夏休みも近いしさ」
「……うーん。でも、邪魔にならないかな。余計なことって思われたら……」
「まぁ、だめって言われたら諦めるけど。聞いてみるだけでも、悪くないだろ?」
静は一瞬だけ迷って、そして――そっと微笑んだ。
「……うん。聞いてみる」
大和の言葉が、不思議と胸の中にあたたかく響いていた。
この話をもって、第ニ部は一区切りとさせていただきます。ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
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