表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/52

二部 十話 内気な少女 続4 救援

不良たちが立ち去った後、京介たちは生徒指導室に集まっていた。

「助かったのはありがたいんだけど、二人はどうしてここに?」

京介は匠と劉を見つめて問いかけた。

「真上さんから連絡が来たんだ。事態が急変したって教えてもらって」

劉が答える。

「真上さんが? いつの間に……」

どうやら美香と京介の知らないうちに、静が大和とともに呼び出されたこと、そして美香と京介が二人を助けに向かっていることを、透が簡潔なメールで知らせていたらしい。

「それで、メールを見た劉が俺に教えてくれて、六限が終わってから急いで来たんだ。

俺、一応ここの卒業生だから、顔見せに来たって言えば入れると思って」

匠は劉の説明を補足するように付け加えた。


-----


一方、美香、静、大和の三人は生徒指導の松山茂まつやましげると向き合っていた。

振り返れば——

あの混乱が収まったのは、この人の鶴の一声があったからだった。

「二人いたのかよ。おい、そいつら逃がすな」

指示されたそばかすが京介たちに襲いかかった瞬間、京介の周囲にうっすらとした光の膜のようなものが広がった。それが静と大和の周囲を囲み、加害者の侵入を拒む。

本人は無自覚だったが、相手が踏み込もうとした瞬間、何かに押し戻されるのだ。

「な、なんだこれ?」そばかすは困惑している。

「……なんか……壁みたいなのがある……?」

「……八田さんや私たちの周りが……光ってる……」

「えっ、いや、これどうやって消せば──」

大和と静は困惑し、京介は困惑している

美香が小さく舌打ちする。「……マズい」


三者三様に混乱していたその時だった。

「こら誰だ、校舎裏で騒いでいるのは?」

大人の男性の声が響いた。

「やべぇ、この声、生徒指導の松山だ!」

不良二人組はそそくさと逃げていく。

——この人が来なければ、事態はかなりカオスになっていただろう。


-----


「静さんが以前、クラスの男子から悪質なストーカー被害を受けていたことは存じております。

学校側としてもSNSの講習を開いたり、いじめ対策のプリントを配布したりしているのですが……残念ながら効果はなかったようですね」

松山は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

年齢は四十代から五十代ほどだろうか。髪の毛にところどころ白髪が混じっている、厳格そうな顔つきの男性だった。

「どんな状況だとしても、勝手に学校に侵入し騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありませんでした」

美香は頭を下げる。

「申し訳ありませんでした」

慌てて京介も頭を下げた。

「いえ、頭を上げてください。今回はこちらの監督不行き届きです。お二人が止めに入ってくださらなければ、怪我人が出ていたかもしれません」

松山は静と大和をちらりと見やる。

「今後、いや今後はない方がよいのですが、事前にご連絡をいただければと……」

松山は冗談交じりに笑って言った。おそらく普段は生徒指導として厳格だが、これが素の姿なのだろう。

しかし、すぐに真面目な顔に切り替えた。

「大和君、新田さん、状況を把握したいので、具体的にどのようなことがあったのか話してもらえますか」

「は、はい」

二人は揃って返事をする。

「あまり人が多いと話しづらいかもしれないから、僕たちは外で待っていよう」

「うん、そうだね」

京介はそう言って付き添いは美香に任せ、劉と匠とともに教室の外に出ていった。


-----


十数分後。

ストーカー事件から今までのことを話し終えると、松山は渋い顔をしていた。

大和は自分の知らないところで物騒なことが起きていたことに戦慄していた。

「静の周りでそんなことになってたのか。怖~」

「大和君は周りの空気にまったく気づいてなかったものね……常に平常運転」

おそらく傍から見れば、静は孤立させるべき人物という扱いだったのだろう。

大和はそんな空気にまったく気づかず通常運転を続けていた。

マイペースすぎるようにも思えたが、静はそんなところに救われていたのだろうと美香は思った。


「随分と悪質ですね。ここでやる理由が理解できない」

 松山は右手で頭を押さえながら苦悩する

「私たちの方でも調べていたんですけど、少し気になることがあって……」

「なんでしょう。私が答えられる範囲でなら何でも」

「まず確認なんだけど、静ちゃん。話しかけても無視されたり、机を勝手に離されたり、持ち物を動かされたりし始めたのは、浅野和馬のストーカー被害の時期と重なってた?」

「う、ううん? みんな普通に話してくれてたよ。嫌がらせが始まったのは浅野君のことが終わった後だったと思う……」

静は首を振る。

「ネットの掲示板で噂が出てきたのも、浅野の一件の処分が終わってからなの」

「もしかして、浅野っていう奴が逆恨みして静の悪い噂を流してるってことですか?」

美香の話を聞き、大和が推測する。


「いえ、それはないかと。浅野はスパイアプリの件もあって、SNSの使用はご両親が管理しているようなので」

松山は大和の推理を否定する。

「でも、浅野が関係してるのは私も同意見よ」

美香がフォローした。

「さっきの不良たち、『三年の先輩に命令されたから』って言ってた。おそらく三年が元締めよ」

「三年の中で一年の浅野が関わりのあった人が犯人の可能性が高い、ということですね」

松山は情報を整理する。


すると、部屋の扉が開いた。

「話はどうなりましたか?」

匠が少し開いた扉の隙間から顔を出す。どうやら待ちくたびれたようだ。

匠は部屋に入る

「今、誰が犯人なのか考えてるの……」

静が答える。

「それで、三年の中で一年の浅野が関わりのあった人が犯人の可能性が高いって話になったの」

「やっぱりあの二人から話を聞いた方がいいんじゃないか……指示した三年から辿っていけば」

「でも、それだと時間がかかりすぎちゃうよ」

京介と劉も入ってくる。

「……なあ、草薙。昨日、掲示板の三人のログ使用履歴を調べていた時、何か気になることはなかったか?」

京介の問いかけに、美香は少し驚いた様子で振り返った。

「ええ、実は。三人の中に最初に掲示板へ噂を流した人がいて……浅野の聞き込みの時に女子生徒から聞いた『浅野に恋していた田中麗奈(たなかれいな)』という人物だったの」

美香は記憶を辿るように慎重に言葉を選ぶ。

「確か、その田中麗奈という人が浅野を好きで、周りに告白できないと愚痴をこぼしていたという話だった」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ