プロローグ
初めての投稿です、至らないところも多いと思いますが。
やさしく読んで頂けたらなと思います。
あれは、蒸し暑さを感じ始めた六月の夕暮れ。
その日は、やけに空がきれいだったのを覚えている。
「たしか、“マジックアワー”って言うんだっけ?」
いつかテレビで聞きかじった言葉を、頭の片隅から引っ張り出す。
僕のオツムはあまり出来がよくないので詳しい意味は覚えてないけど、
そんなことより今は、やらなくてはいけないことがある。
――といっても、簡単なことだ。ただ、前にジャンプするだけ。
僕は今、廃ビルの屋上、柵の手前に立っている。
つまり、「飛び降り自殺」の直前ということだ。
前から、ずっとやろうと思っていた。
ネットで自殺の方法もいろいろと調べた。
思いのほか苦しかったり痛かったりするものが多くて、
楽に死ねる方法を探しているうちに、タイミングを逃して今に至る、というわけだ。
だって、痛いのはイヤだろ?
今まで散々、苦しんできたんだ。
死ぬときくらい、一瞬で終わってほしい。
そんな灰色の毎日に、ある日ふと、希望の光が射した。
絶好のロケーションを見つけたのだ。
そこは、人通りの少ない路地裏の奥。
「これ、どうやって使われてたんだ?」と聞きたくなるような場所に、
ぽつんとある古びたビル。
看板の文字は掠れていてかろうじて“探”の隣に“にんべん”があることから、かつては探偵事務所だったのだろうと想像している。
中には、それっぽいソファーや机もあったし。
中に入るのは簡単だった。なんの施錠もされていなかったから。
少しだけ罪悪感を覚えながら、階段を上る。
四階建てだったため、そこそこ距離があった。運動能力ゼロの僕にはかなりキツい。
息を切らせながら、なんとか最上階――屋上にたどり着いた。
もちろん、屋上の扉も開けっ放しだった。
……そして、今に至る。
下を見下ろす。僕が入ってきた小道が見える。
滅多に人が通らないことに、少しだけ安堵する。
あらためて、自分の状況を見つめ直す。
自分にとある感情が強く現れる
……怖い。
そう怖いのだ。
いくら死にたくても、勝手に恐怖が湧いてくる。
このままだと、あきらめてしまう気がする。
それは嫌だった。
ここでやめてしまったら、永遠に死ねない気がした。
生きる理由など特にないのだ
だから、勢いに任せて大ジャンプした。
一瞬だけ、昔遊園地で乗った、上下に振り回されるアトラクションみたいな感覚が体を襲う。
でもすぐに、その動きは止まった。
代わりに――足と背中に、何かが触れる感覚があった。
疑問に思い恐怖を感じないように固く閉じた瞼を開けてみる、すると
たなびく黒髪と、整った横顔が、スローモーションで僕の視界に映る。
次の瞬間、何かを考える間もなく、体がグワングワンと揺れに襲われる。
「よっ、はいっ、よいしょ!」
少女の快活な掛け声。
彼女は僕をお姫様抱っこしたまま、細い路地裏のビルの壁――その窓枠や配管を足場に、
まるでパルクールのように縦横無尽に飛び回っていた。
「う、うわあああああ!」
僕は、どうにもならない声を上げ続けるしかなかった。
……そして、次の日からだ。
謎のお嬢様に、しつこく絡まれるようになったのは。
プロローグを最後まで読んでくださりありがとうございます。
少しでも続きに興味を持っていただけたら幸いです。