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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

冷蔵庫からの声

作者: めもん

ある夏の日のことだった。蒸し暑さにうんざりしながら家にたどり着き、玄関のドアを開けた瞬間、「おかえり」という声が耳に飛び込んできた。

家に帰ったばかりで冷房も効いていないのに、空気が冷たく感じる。人は本当に恐ろしいことに直面すると、動けなくなるというのは本当のようだ。だけど、冷蔵庫の中に人が入れるスペースなんてない。もしかすると、この部屋におばけ的なものがいるということだ。

震える手で、スマートフォンを取り出し、某事故物件サイトを検索する。どうやら、曰く付きの物件というわけでもないみたいだ。


時間が経って、少し落ち着いた私は、声の主を捜索することにした。もしかしたら、冷蔵庫から声が聞こえたわけではないのかもしれない。その場合、また見知らぬ誰かが、この家の中にいる。

この小さなワンルームで隠れられるところは少ない。近くにあった傘を握り、まずはトイレの扉を開けた。上下をしっかり確認したが、誰もいない。


「そこじゃない」


また背後から声が聞こえる。幻聴だと思っていたが、どうやらそうではないみたいだ。

冷蔵庫を調べる勇気がない私は、次にクローゼットを開ける。

洗濯物を適当に突っ込んだだけで整頓されていないクローゼットをくまなく調べる。怖さを堪えながら、ハンガーを右から左に移動させる。移動させられるものがなくなり、現実を受け止めるしかない。


「ここだよ」


この家にもう隠れられる場所なんてない。本当に冷蔵庫から声が聞こえるなんてありえない。

「何が目的なの……」

私はかすれた声でつぶやいた。返事はない。私は恐る恐る、冷蔵庫の前に立つ。震える手で冷蔵庫の取っ手に手をかける。頭の中がうるさい。


これを開けたらどうなる。もし、幽霊的なものだったらがどうしよう。そもそも、なぜこんなことに巻き込まれないいけないんだ。もしかして、また誰かを連れ込んだのか。ふざけやがって。もう夢であってくれ。


ん? 夢? もしかしたら、夢なのかもしれない。そう思いたち、ほっぺをつねる。痛みがない。この違和感に私は胸を撫で下ろした。

安心した私は、冷蔵庫を勢いよく開けた。中には、声を発するものが入っていない。先日買ってきた食材と、先日別れた彼氏の首が入っているだけだ。その首を手に取り抱き締める。


「びっくりした〜。本当に幽霊が出たのかと思っちゃった。死んだ後も私以外の女を連れ込んだのかと。ダメよ。死んだ後くらいは私のものになってくれなきゃ」


そう言って、私はもう一度、冷蔵庫に彼を戻した。

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