Day 7
急遽書いてます。終わり方が雑と感じる人もいるかもです
Day 7
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午前8時02分 研究所・中央管理室
テレビ会議の画面には、国家保健委員会、軍医学研究院、国営製薬グループの高官がずらりと並んでいた。
そして、その中心に座っていたのは、中国政府感染症対策本部の主席補佐官・劉江だった。
彼は端正な顔をしかめながら、低く、短く告げた。
「武漢への**“第一支援物資”**を、48時間以内に搬送する。中には、**実験段階にある抗ウイルス化合物 “PR-57”**も含まれている。
これは国家レベルの特例だ。……君たち研究所にとっては、最後のチャンスになるかもしれない」
室内がざわついた。
「PR-57……?あれは、まだ霊長類実験すら……」
「それを我々が“臨床”で試せというのか……?」
画面の向こうで劉は目を細めた。
「この薬の存在は外部には一切漏らすな。漏洩があれば、研究所ごと閉鎖の可能性もある。……以上だ」
──通話が切れた瞬間、沈黙が室内を包んだ。
午前10時45分 B棟・新設封鎖エリア
ジャンの遺体は軍の車両により回収された。
その処理方法について、私たちには何の説明もなかった。
陳は静かに言った。
「……ジャンが受けたNV-047も、まだ国家承認が下りていなかった。つまり**彼は“非公式の臨床被験者”**として扱われるだろう」
私は歯を食いしばった。
「じゃあ……また記録から消されるのか?彼の死も?」
「消されるか、利用されるか……どちらかだ」
陳の声は、もう怒りでも悲しみでもなかった。ただ、諦念だった。
午後13時12分 研究所・上層部会議室
その日の午後、私は突然呼び出された。
研究所上層部の会議だったが、席に着いた瞬間、異様な空気を感じた。
机には一枚の書類が置かれていた。
──「内部調査報告:通信記録の異常/蓮・匿名データ送信疑惑」
私は一瞬で理解した。
USB送信が露見した。
「蓮研究員、君が国外へ不正に研究データを送信したという証拠が出ている。国家安全局に報告する前に、君自身の弁明を求める」
副所長の冷たい声が飛ぶ。
私は、言葉を探した。
「……私は、“真実”を守るためにやった。ウイルスはもう封じ込められない。ならば、世界が同時に情報を得るべきだと…」
「勝手な倫理観で国家機密を漏洩したというのか!?」
誰かが机を叩いた。
そのとき、会議室の扉が乱暴に開いた。
「それ以上は言うな」
入ってきたのは、陣(上司)だった。
彼はまっすぐに私を見て、そして、上層部に向き直った。
「データ送信を指示したのは、私だ」
会議室が凍りついた。
「何を言っている……?」
陣は、白衣のポケットから一通の文書を取り出し、机に置いた。
「これは、PR-57の設計マップだ。……君たちが隠していた“真の抗ウイルス骨格”だろう?
我々は、それに独自の解析を加えて、脳神経型の進行抑制効果を見つけた。
だが国家承認は遅れ、現場では人が死んでいく。──だから、私は判断した。この薬の研究は、政府に返すべきだと」
「……お前、自分の立場が分かっているのか?」
「分かっているさ」
陣は笑った。
「今日付けで、私はこの研究所を辞める。……責任は全部、私が負う」
そう言って、陣は私に向き直った。
「蓮。お前は、ここで止まるな。次のデータを解析しろ。ジャンの死を無駄にするな」
私は言葉が出なかった。
──この人は、本当にクビを覚悟で、国家に立ち向かっていた。
ジャンを助けることも、私を守ることも、すべて一人で背負って。
午後19時44分 研究所・観察室
PR-57の初期投与が、1人の重症患者に対して行われた。
反応は驚くべきものだった。
──血漿中のウイルス量が、24時間以内に87%減少。
脳波の乱れも改善、出血症状の停止。
私は震える手で、結果を記録した。
「……これは、“効く”。本当に効く……!」
だがそのとき、ドアの向こうに立つ白衣の影に気づいた。
──副所長だった。
彼はじっと私を見て、ただ一言だけ呟いた。
「君の次のミスは、もう“寛容”されない」
23:48 医療棟・観察室
蓮は、最後のデータログをUSBに収め終えた。
ジャンの死。陳の離脱。副所長との対立。
すべてが頭をよぎる。
通信端末に接続し、指が送信ボタンの上で止まる。
背後から足音──副所長か?いや、違う。
ドアが開く。入ってきたのは、主任研究員・李だった。
私はクビを覚悟していた。
その後、李は短く言った。
「君がやるなら、今だ。迷うな」
蓮は静かにうなずき、ボタンを押した。
PR-57の設計情報、WZ-34の変異記録、全患者データが一括送信された。
送信先は、WHOだった。