表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

Day 5

※現実の事件とはなっっっっっっっっっっんにも関係ありません

午前7時42分 研究所・医務隔離室

助手リウ・ジャンは依然として重篤状態にあった。


紫斑は体全体に広がり、目は虚ろで、出血は口腔と直腸の両方から観察された。

彼の意識は混濁し始めており、既にサイトカインストームはピークに達していた。


陳が持ち出した**試作抗ウイルス薬「NV-047」**を投与するかどうか──判断の時が迫っていた。


「このままだと、彼は……24時間以内にDICで多臓器不全を起こす」


私は静かにそう言った。

誰も反論しなかった。


「投与する。実験動物じゃない。彼は俺たちの仲間だ。可能性があるなら、賭ける」


投与時刻:午前7時55分

初回投与量:150mg/kg(ラット試験に基づく安全域内)


午前11時03分 ラボ・観察室

ジャンの体温はわずかに下がり始めた。


IL-6、TNF-α、CRPの値に微弱な下降傾向。

同時に、出血斑の拡大は一時停止。


「効いてる……?」


私は数値を睨みながら呟いた。

陳が言った。


「まだ分からん。ウイルスの増殖は止まっていない。むしろ、やや加速してる可能性がある」


「薬が……炎症を抑えてるだけ?」


「そうだ。原因ではなく、反応を鈍らせてる。つまり、時間を稼いでるだけだ」


午後13時15分 研究所 屋上通信装置付近(機密記録)

私は前夜、陳から受け取った通信キーを持って、再び屋上へと向かった。


リュウの容態は一時安定したが、長くはもたない。

私の中で「迷い」はほぼ消えていた。


屋上に設置された非常用衛星通信端末。

まだ起動は確認されていない。監視ログにも記録なし。


私は手元のUSBを差し込み、コンパイルした「WZ-34」の全データパッケージを、接続テストの仮想サーバーに見せかけて外部の知人研究者宛にパケット分割送信を開始した。


画面上には送信状況のバー。

数字が少しずつ進む。


21%...34%...46%...


「……頼む、間に合ってくれ」


そのとき、背後で何かが動く音がした。


私は慌てて画面を閉じ、データUSBを抜いた。


現れたのは、警備服を着た武装職員だった。

マスク越しの目が、こちらを見据えている。


「ここは立入禁止区域です。今、何を?」


私は咄嗟に答えた。


「冷却装置の温度アラームが鳴った。念のため確認に来ただけです」


男はしばらく私を見つめていたが、やがて無言でその場を去った。


送信はまだ62%までしか進んでいなかった。


「……チャンスはあと一度だな」


午後17時20分 ラボ・解析室

ジャンの血中ウイルス量は減少傾向に入った。

これは「NV-047」がウイルスのRNA複製酵素にも阻害作用を持つ可能性を示唆していた。


私はこの兆候をもとに、すぐに薬剤候補としての再評価プロトコルを作成。陳に見せる。


「これを記録しておけば、治療薬開発の第一歩になる」


陳は静かに頷いた。


「だが、記録するということは……誰かに奪われるということでもある」


「だからこそ、外に出す」


「……今夜、もう一度だけチャンスを作る。屋上の監視員が交代するタイミングがある。その時しかない」


午後18時13分 ラボ廊下(封鎖区域)

研究所は沈黙していた。


外から風の音さえ届かないこの空間で、私は再びUSBを手にして立っていた。


データは圧縮し直され、送信先は複数国の大学・医療機関へと分散ルーティングされるように組まれていた。


──“世界に希望を繋ぐためのパスワード”は、ただ一つ。


「蓮」。

私の名前、それだけ。


屋上の鍵が、ゆっくりと開いた。




18時42分 所内緊急放送

《警告:研究棟Bにて原因不明の爆発音が発生。全研究員は指定区域へ退避してください──》


私は廊下に飛び出した。

ガラス越しに見えたB棟の一角から、黒煙がのぼっていた。

陳もすぐ後ろから追ってくる。


「まさか、今さら……」


「WZ-34の別株だ」

陳の声は低かったが、確信に満ちていた。

「誰かが外に持ち出そうとした──あるいは、もう“誰か”が持ち出していた」


私は思わず立ち止まり、ラボ内モニターに目を向けた。


その瞬間、政府公式SNSアカウントのライブフィードが強制的にモニターに流れ出した。

そこには、武漢市内の病院前に押し寄せる市民の群れが映っていた。


ライブ映像:武漢 第三人民病院前

「隔離される!隔離されるぞ!マスクを配れ!」

「政府はまた隠してるんだろ! アノの時と同じじゃないか!」


病院の入口前には、数百人の市民が列をなしていた。

一部は金属バリケードを倒し、病院職員と口論している。


誰かが地面に崩れ落ちた。痙攣。吐血。

その映像に、誰かが叫ぶ。


「これはインフルじゃない!新しいウイルスだ!」


所内・作戦指令室

陳が口を固く結んだ。

「……もう、外の世界は“感染”と“薬”の情報で混乱してる。どちらが先に出たのか分からない状態だ」


「でも、なぜあの病院が……?」


陳は別の端末を操作し、あるスクリーンショットを私に見せた。

そこには──“NV-047(試験治療薬)”を持ち出した人物の監視映像。


「内部職員の一人が、NV-047を“正義”のつもりで外部に漏らした。

家族を助けるためだった、と言っていたらしい」


陳「……なんてことだ」


蓮「お前の部下は本当に糞だな....」


皮肉を言いながらもスマホを取り出すと、SNS上では、次のようなハッシュタグが急上昇していた


#新型出血熱


#武漢再封鎖


#政府隠蔽


#研究所爆発


#特効薬争奪戦


各地の都市ではパニック買いが発生し、薬局には長蛇の列。

黒市では“NV-047”の偽造品が出回り、正体不明の薬物を服用して倒れる者も出始めていた。


「お前が送った“真実”は届いた。

でも──真実は、いつも希望だけを運ぶとは限らない」


私は拳を握りしめた。

「それでも……黙っていたら、“何も始まらなかった”。この事態を止められるのは、俺たちだけだ」


バカでもわかるかもしれない要約



秘密研究所で流出の危機にある新型ウイルス「WZ-34」。感染拡大を止める唯一の望みは、未承認の試作薬「NV-047」。


■ 時系列の流れ

午前7時台~

助手リウ・ジャンが重篤な状態に陥る(出血、意識混濁、サイトカインストーム)。


試験段階の抗ウイルス薬「NV-047」が、緊急判断で投与される(150mg/kg)。


午前11時頃

体温・炎症反応マーカーに改善傾向が見られるも、ウイルス増殖は止まらず。


薬は「対症療法的」で、時間稼ぎに過ぎない可能性が浮上。


午後13時~

主人公・蓮が、ウイルス情報「WZ-34」の機密データを海外研究者へ密かに送信を試みるも、警備により中断(62%)。


午後17時~

ジャンの血中ウイルス量が減少し始め、「NV-047」がウイルスの複製酵素にも作用している兆候。


データを再送信すべく準備を整える。


午後18時過ぎ

再度、屋上から外部送信を実行(分散ルーティング+パスワード「蓮」)。


同時に研究棟Bで爆発。WZ-34の「別株」が拡散した可能性。


■ クライマックス

SNSには「武漢第三人民病院」の混乱するライブ映像。


市民の間で感染爆発への恐怖と政府不信が急速に広がる。


NV-047を家族に投与するため、内部職員が薬を無断持ち出していたことが判明。


結果、真実と薬の情報が混ざり合い、社会はパニックへ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ