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8.無から、在るを生む者

木漏れ日が静かに揺れる、林の奥。

ミルゼットの街から少し離れた場所は、今日も変わらず静かだった。

ユウは、腰を下ろして草の上に小さな魔力陣を展開した。


「……じゃあ、次は“創造魔法”の確認だな」

魔力と構成式を使って、簡単な物質や道具を“創り出す”――

魔法理論の中では高難度に分類される技術だ。

しかもユウの場合、“少しチート仕様”。

普通では再現できないものも、理論と精度さえ整えば、ほぼ現実化できる。


まずは、練習用として「簡単な金属留め具」を作ることにした。

形状・強度・材質――

構成式は複雑ではないが、安定させるには魔力配分が重要だ。


「創造開始――」

ユウが魔力を流し込むと、空間に浮かぶ魔法陣がゆっくりと明滅しはじめる。

パチッ……

小さな火花のような光とともに、魔法陣の中央に“金属の輪”が現れた。


(成功率、約65%……もう少し安定させたいな)

素材を生成するには、構成情報の精度が重要。

ユウはすぐにノートを開き、昨日使った解析魔法の記録をめくった。


(この鉄片の構成と、温度耐性、魔力伝導率……)

(よし、次は“ナイフの柄”を創ってみよう)


翌日。

ユウは、昨日の素材解析を活かし、短剣の柄部分のみを創造する実験を始めた。

何度も、構成式を修正し、魔力の流し方を調整し――

三度目の挑戦で、やっと納得のいく形が生成された。


「……できた」

柄だけとはいえ、握りやすさ、強度、重心バランスまで意識して作った一品。

何もない空間から、自分の頭の中の設計図を具現化するこの感覚。

ユウは、少しだけ心が弾むのを感じていた。


三日目は、収納用の小物ケースを創ってみた。

開閉機構のある箱型の構造。

魔法の仕組み上、可動部分の創造は難易度が上がる。

最初の挑戦は、蓋が固まって開かなかった。

二度目は、形が歪んでしまった。

三度目――

「……よし。ちゃんと開く」


ユウは、箱の中に手を入れてみて、指先に当たる“空っぽの中”を確かめた。

たったそれだけのことなのに、嬉しかった。

自分の力で、“形のなかったもの”に意味を与える。

それが、創造魔法の本質だった。


「解析して、理解して、構築して、創り出す……」

「この一連の流れが……俺の一番得意な領域、ってことだよな」

そっと目を閉じて、空気を吸う。

自分だけの技術、自分にしかできないこと。

少しずつだけど、それが形になっていく感覚があった。


「……次は、もっと実用的なものに挑戦してみるか」

そう言って立ち上がったユウの背中には、“確かな手応え”が宿っていた。

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