4.風が残した、灯りの記憶
グランティスの朝。
昨夜のフリーマーケットの余韻が、街のあちこちにやわらかく残っていた。
市街地の掲示板には、子どもたちの描いた「もふと仮面のおにいさん」の絵。
広場のベンチには、小さな折り紙と「ありがとう」と書かれた手紙。
そして、商人ギルドのカウンターにも――
露店を訪れた市民からの、控えめだけど心のこもった「ありがとうカード」が束ねられていた。
◆ 静かな別れの準備
ギルドの一室。
ラウル=ディス(擬装ユウ)は、仮面をそっと外し、布を使って慎重に磨いていた。
「この街……なんだか、やさしかったね」
椅子に座ったフェル(人化Ver.)が、窓の外に目を向けながらつぶやく。
「うん。君の笑顔が、きっと空気をやわらかくしたんだよ」
「……ちがう。ラウルがいたから」
ラウルは、ふっと笑った。
「君が“もふ”でも“リーア”でも、どちらでも“君”であるように、
俺も、仮面があってもなくても――俺は俺さ」
◆ ふと、感じる“変化”
フェルが何気なく時計を見て、ぽかんとした。
「……あれ? もうこんな時間?」
「え?」
「わたし、まだ人化のままだよ……。いつもなら、もう“もふ”に戻ってるはずなのに……」
ユウはそっとフェルに目をやる。
その瞳に、昨日より深く澄んだ光が宿っている気がした。
「……感情の共鳴……かもしれないな。昨日は、たくさん“人の想い”に触れたから」
フェルは小さく頷いた。
「……ねぇ、ユウ。
“わたし”って、誰かにとっての“癒し”になれてるのかな?」
「なれてるよ。きっと、それが“君らしさ”なんだ」
◆ 静かな旅立ち
その夜。
仮面の商人と、もふもふの相棒は――
そっと、灯りの落ちた市街通りを歩いていた。
別れの言葉も、告知もない。
ただ、歩く速度だけが“次の地”を示している。
けれど、街角の影から、小さな声がした。
「……ありがとう」
振り向くと、昨日会った小さな女の子が、
布で作ったフェルの“しっぽマスコット”を握りしめながら、そっと手を振っていた。
フェルも――
にこっと笑って、しっぽをふわっと揺らしながら応えた。
◆ 風はまだ、残っている
数日後の広場。
「ねぇ、“仮面の商人さん”って、どこ行ったの?」
「さぁ。でも、またきっと来るって言ってたよ」
市民の間で、こんな会話が自然と交わされるようになった。
そしてギルドの受付カウンターには、こんなメモが一枚――
“風はいつか戻る。
あなたの心が、また静かに揺れたとき。”
――ラウル・ディス




