3.ふたり露店、もふもふ営業日
グランティス市街、復興通り。
朝から通りは賑やかだった。
再建を祝う「市民フリーマーケット」が開かれ、
仮設のテントや露店が色とりどりに並んでいた。
そして――
その一角、静かに風を通すような露店がひとつ。
「仮面の商人さん、今日は何を売ってるの?」
「この瓶の中……光ってる……!」
仮面の下に柔らかい笑みを隠した商人、ラウル=ディスがそこにいた。
露店の名は《風の記憶》――
幻想的な魔導ガラスの小瓶や、音を記憶する詩晶、思い出の残滓をかたどった小物たち。
「これは、“風の声を映す器”です。耳を澄ませば……誰かの大切な言葉が聴こえるかもしれません」
彼の語りは、商人というより“語り部”だった。
物を売るというより、“物語を贈る”ような、不思議な販売だった。
◆ 看板娘(?)フェル、登場
露店の脇では、もふもふのフェルが看板娘(?)としてちょこんと座っていた。
「わー! かわいい! さわってもいいの?」
「もふってしていい?」
「きゅんです……」
フェルは最初こそむぅっとしていたものの、
しっぽをふわふわと揺らしながら子どもたちに囲まれていた。
ときおり、人化して《リーア》の姿となり、
簡単な“もふもふダンス”を即興で披露したり、
紙芝居のような“精霊の昔話”を語ったり――
街の空気が、ふたりの存在で少しずつやさしくなっていくのがわかる。
◆ 小さな奇跡の時間
「ねぇ、“風の記憶”って、ほんとに聴こえるの?」
少女が恐る恐る聞くと、ラウルは微笑んだ。
「信じてくれるなら――風がそっと答えてくれるかもしれません」
その瞬間、小さな瓶の中で、ふわりと音が鳴った。
まるで、ほんの少しだけ、“その子だけに”語りかけるように。
「……おかあさんの声……」
少女は、ぽろぽろと涙をこぼした。
そんな時間が、今日だけで何度も訪れた。
◆ そして、“ちいさな伝説”に
夕暮れ――
市街通りが賑わいを終え、露店がゆっくり片づけを始めた頃。
「ねぇ、“仮面の商人さんと、もふの娘さん”って、今日だけなのかな?」
「また会いたいね……」
「なんか、心があったかくなった」
誰が言い出したかもわからない。
けれど、広場の片隅に貼られたチラシの端に、手書きの言葉が加えられていた。
“風の記憶を運ぶ仮面商人と、笑うもふの娘。今日も静かに、誰かの心に触れる”
――市民通りの、ちいさな伝説
◆ 夜。風車亭の一室にて
「……今日も、すごかったね……」
「……ちょっと……つかれた……でも、たのしかった」
ユウはフェルの人化状態を保ったまま、そっとブランケットを肩にかける。
「君のおかげで、またひとつ、街に灯がともったよ」
「……ほんとに……?」
「うん。“ふたりでいたこと”が、ちゃんと、残った」
フェルはくすっと笑った。
そのしっぽが、そっとユウの手に触れ――やさしく絡まる。




