1.再建の街、風のように現る
陽が高く昇りきる前、グランティスの城門前に、ひと組の旅人が姿を現した。
仮面をつけた落ち着いた青年――ラウル=ディス。
その傍らには、柔らかな栗色の髪を揺らす少女、フェル。
その姿はすでに“旅人”というより、“街に風を運ぶ語り部”のようだった。
グランティスは、数年前に起きた土砂崩れと地震によって市街の一部が壊滅し、
いまも復興の只中にある。
石畳の道の一部にはまだ補修用の板が敷かれ、街のあちこちで木槌と職人たちの声が響いていた。
「……前より、少しずつ……街の音が、明るくなってる」
フェルが静かに呟く。
「うん。人が戻ってきてるんだ。きっと、あの音も、希望だね」
ラウルはそう言って、軽くフェルの頭を撫でた。
その手つきには、どこか兄のような、仲間のような、柔らかい絆が宿っていた。
◆ 商人ギルド・仮登録室
再建途中の商人ギルドでは、臨時事務所のようなテントが設けられていた。
瓦礫の影から立ち上がるようにして生まれ変わったその場で、ラウルは仮登録の証明を提示する。
「――“ラウル=ディス”です。
復興支援ボランティアの一環として、露店通りの準備に加わりたいと思いまして」
応対に出た若いギルド職員は、仮面と柔らかな口調に一瞬戸惑いながらも、すぐに微笑んだ。
「ようこそ、ラウルさん。ちょうど人手が足りていなくて……助かります」
◆ 広場・準備の手伝い
翌日から始まる「再建記念マーケット」のために、広場では屋台の設営が進んでいた。
ラウルは、持参した携行型の小道具を使いながら、照明の調整や棚の安定化、装飾布の演出などを的確にこなしていく。
一方、フェルはというと――
「そこの角に、花飾りを……あ、わたし、つけてくる」
と、飾り紐をもふもふの手で器用に結びつけ、子どもたちに「わあ、かわいい!」と囲まれていた。
「ねえ、お姉ちゃんは商人さんの仲間なの?」
「んー……なかま? たぶん、“たびのおとも”?」
笑いながら答えるフェルに、ラウルはそっと目元を細めた。
◆ その日の終わりに
作業が一段落した夕方、二人は広場の端で腰を下ろし、風に揺れる旗を眺めていた。
「……静かだけど、いい街だね」
「うん。あしたは、もっとにぎやかになるよ。
あの人たちの声が、ちゃんと届けば……」
ラウルは頷くと、胸ポケットからメモ帳を取り出した。
そこには、“灯りの配置”と“音の演出”に関する計画が、すでに書き込まれていた。
「少しだけだけど……この街に、彩りを添えよう」
「うん。……“そっと、ね”」
ふたりは視線を交わし、ゆっくりと夕暮れの中へ溶け込んでいった。
明日、この街に――小さな、でも確かな“伝説の予感”が訪れる。




