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5.ひとつの旅路、ふたりの現在

静かな朝。

テレミアの街を囲む山の上から、朝日がこぼれはじめていた。


宿の窓辺で、ユウはゆっくりと目を覚ました。

その隣では、フェルが人の姿で丸まって、まだすやすやと寝息を立てている。


「……よく寝てるな」


声に出すことはないが、その寝顔を見て、ユウの胸の奥に小さな感情が灯る。


“最初の出会いから、ずいぶんと遠くまで来たな――”



その日、ふたりは街の外れにある丘の上へ足を運んだ。


街と空と山が見渡せる静かな場所。

かつてユウが幼い頃、よく家を抜け出してひとりで来ていたという“秘密の場所”だった。


「ここ、風がきもちいい」


「うん。……ここだけは、ずっと変わってないんだ」


ふたりは並んで腰を下ろし、しばし無言で景色を眺めた。



「なあ、フェル。君とこうして旅して……何度も町をめぐって、誰かと関わって……」


「……うん」


「最初の頃は、“誰かと関わるのがちょっと怖い”って思ってた。……でも今は、違う」


「それは……たぶん、わたしも、同じ」


フェルは少しだけ頬を緩めた。


「昔のわたしは、“だれも信じられない”って思ってた。……でも、ユウに会って、少しずつ変わってきた気がする」


「……フェル」


「……わたし、今は“ひと”の言葉が好き。優しい声も、怒った声も、照れた声も――ぜんぶ、君たちの世界の“色”だと思うから」


それは、魔獣としてのフェルには、かつて決して持ち得なかった“世界の輪郭”だった。



風が吹く。

木々がさざめく。

空は高く、雲がゆっくりと流れていた。


「この旅に、終わりがあるかどうかは、わからない」


ユウがつぶやいた。


「でも、たぶん、そんなことはどうでもいい。大事なのは“誰と、どう歩くか”だと思うんだ」


「うん。“ふたりで歩いてる”って、それだけでいい」


ふたりの指先が、そっと触れ合った。



その夜――

宿で日記を開いたユウは、静かにペンを走らせる。


今日、僕たちはテレミアを出る。

この街は、たぶん僕にとって“はじまり”であり、“越えるべき場所”だった。

……でも、もう大丈夫だ。


僕の旅は、もう“ひとりじゃない”。


ふたりの旅は、まだまだ続く――


ラストの一文を書き終えると、ユウは小さく笑った。


「行こうか、フェル。次は“グランティス”だ」


「うん、“もふもふ全開”でがんばるよっ」


そしてふたりは、再び旅へと歩き出した。


次のページへと、足跡を刻むように。

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