5.ひとつの旅路、ふたりの現在
静かな朝。
テレミアの街を囲む山の上から、朝日がこぼれはじめていた。
宿の窓辺で、ユウはゆっくりと目を覚ました。
その隣では、フェルが人の姿で丸まって、まだすやすやと寝息を立てている。
「……よく寝てるな」
声に出すことはないが、その寝顔を見て、ユウの胸の奥に小さな感情が灯る。
“最初の出会いから、ずいぶんと遠くまで来たな――”
◆
その日、ふたりは街の外れにある丘の上へ足を運んだ。
街と空と山が見渡せる静かな場所。
かつてユウが幼い頃、よく家を抜け出してひとりで来ていたという“秘密の場所”だった。
「ここ、風がきもちいい」
「うん。……ここだけは、ずっと変わってないんだ」
ふたりは並んで腰を下ろし、しばし無言で景色を眺めた。
◆
「なあ、フェル。君とこうして旅して……何度も町をめぐって、誰かと関わって……」
「……うん」
「最初の頃は、“誰かと関わるのがちょっと怖い”って思ってた。……でも今は、違う」
「それは……たぶん、わたしも、同じ」
フェルは少しだけ頬を緩めた。
「昔のわたしは、“だれも信じられない”って思ってた。……でも、ユウに会って、少しずつ変わってきた気がする」
「……フェル」
「……わたし、今は“ひと”の言葉が好き。優しい声も、怒った声も、照れた声も――ぜんぶ、君たちの世界の“色”だと思うから」
それは、魔獣としてのフェルには、かつて決して持ち得なかった“世界の輪郭”だった。
◆
風が吹く。
木々がさざめく。
空は高く、雲がゆっくりと流れていた。
「この旅に、終わりがあるかどうかは、わからない」
ユウがつぶやいた。
「でも、たぶん、そんなことはどうでもいい。大事なのは“誰と、どう歩くか”だと思うんだ」
「うん。“ふたりで歩いてる”って、それだけでいい」
ふたりの指先が、そっと触れ合った。
◆
その夜――
宿で日記を開いたユウは、静かにペンを走らせる。
今日、僕たちはテレミアを出る。
この街は、たぶん僕にとって“はじまり”であり、“越えるべき場所”だった。
……でも、もう大丈夫だ。
僕の旅は、もう“ひとりじゃない”。
ふたりの旅は、まだまだ続く――
ラストの一文を書き終えると、ユウは小さく笑った。
「行こうか、フェル。次は“グランティス”だ」
「うん、“もふもふ全開”でがんばるよっ」
そしてふたりは、再び旅へと歩き出した。
次のページへと、足跡を刻むように。




