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1.帰郷、風がふれる場所

朝の陽光が、街の石畳をやわらかく染めていた。

ユウとフェルは、静かにテレミアの街へと足を踏み入れる。


ここはユウの生まれ故郷。

けれど、懐かしさよりも、どこか胸を締めつけるような、微かな緊張が彼の肩を包んでいた。


「……あんまり、変わってないな」


ユウはぽつりと呟き、街路樹の並ぶ道を見上げた。

春の風が、花の香りを運んでくる。どこか懐かしくて、でも、遠い。


フェルは人化した姿で、そっと隣を歩いている。

淡い緑のチュニックに、旅用のクロークを羽織り、少し不安げにユウを見上げた。


「ここが……ユウの、育ったところ……?」


「ああ。……でも、いまの僕が、ここにどう立てるのかは……わからないけどね」


ふたりは街の中心部を抜け、ギルドに立ち寄る。

受付の職員が顔を上げ、軽く会釈を返す。


「あれ……君、どこかで……?」


「冒険者のユウです。依頼を探しに来ました」


「……ああ、そうだ。前にも名前を聞いたことがあったかも。街にようこそ」


それだけのやりとり。

でも、それでよかった。


ギルドで軽い依頼をひとつ受けた後、ふたりは宿屋を探して歩く。

選んだのは、小さな三角屋根の宿――《風の小径亭》。


「なんか……この宿、昔の記憶にちょっと似てる気がする」


そう呟くユウの横で、フェルがにこっと笑った。


「……じゃあ、ここで“あたらしい記憶”も、つくろ」


「うん……そうだな」


宿の部屋に荷物を置いたあと、ユウは少し街を歩いた。

ふと、記憶のままの坂道を見つける。登った先には――


実家の門があった。


黒い鉄柵。高く整えられた垣根。

あの日と変わらぬ、閉ざされた静寂。


けれどユウは、門の前に立つことはせず、遠くからひとつ、深く息を吐いて――背を向けた。


「……行こう、フェル」


「うん」


フェルは、ただ黙ってユウの隣を歩く。


そしてその背中に、ほんの少しだけ――

“風”が寄り添ったように見えた。

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