5.この手に灯る、真夜中の祝福
◆深夜、魔導演示会の記録室
ギルドの奥。記録保管室に、ユウはひとり静かに佇んでいた。
仮面は外し、手にはあのとき使った「記憶投影補助:イメージサブリミナル」の記録水晶。
「……この魔法、まだ完成じゃない。でも――」
記録された映像は、観客の反応を淡く映していた。
涙、微笑み、驚き、そして“黙って見つめるまなざし”。
「“心に届く”って、こういうことなのかもな」
かすかに震えたその手に、
ぽん――と、柔らかなぬくもり。
振り返ると、そこにはパジャマ姿のフェル(人化Ver.リーア)がいた。
「ユウ……まだ寝てないの?」
「ちょっと、見てた。……君の踊りも、ちゃんと記録に残ってる」
フェルは照れたように、でも嬉しそうに笑った。
「……それ、わたしじゃなくて“わたしの中の風”が動かしたんだよ」
「ううん。君自身の、気持ちが動いたからだよ」
◆その瞬間、記憶の灯火が“共鳴”する
突然、水晶がふわっと輝き出す。
ふたりの手から溢れる、ほのかな魔力が反応したのだ。
「あれ……? 魔力が……混ざって……る?」
記録水晶は、ふたりの記憶を映し始める――
それは“昨日の演目”ではなく、
出会いの森、傷ついた日、肩を寄せて眠った夜、
フェルが初めて「名前」を口にした、あの焚き火の時間。
「これ……」
「……わたしたちの“記憶”?」
フェルの目に涙が浮かぶ。
「わたし、こんなふうに見られてたんだ……
あのときのユウの目が、こんなに優しかったなんて……」
ユウは何も言わず、そっとフェルの手を握った。
「ずっと見てた。ずっと、大事に想ってるよ」
◆小さな祝福、魔法でも伝説でもない
そのとき――
ふたりを包む空気が、ふわりと震える。
窓の外、風がそよぎ、夜の街に静かな光が舞う。
遠くから、鐘の音が一つだけ響いた。
「……これは、祝福?」
「ううん、違うよ。これは――“心が響いた音”だ」
フェルは小さく頷いた。
「じゃあ、わたし……この旅を続けても、きっと大丈夫だね」
「もちろん」
ユウは優しく微笑んだ。
「だって、君の“灯火”は、もうちゃんと“ここに”あるから」
ユウの胸元に、フェルの手がそっと触れた。
そして――ふたりは、何も言わずに、
静かに寄り添って、夜の終わりを迎えた。
◆翌朝の光の中で
翌朝、ふたりは宿を出て、再び旅路へ。
「エリオン、すごかったね……」
「うん。色んな意味で、忘れられない日になったな」
フェルは、もふっとしっぽを一振りしてから、にっこり笑った。
「ねぇユウ……これからも、“ふたりの物語”は、まだまだ続くんだよね?」
ユウは真っ直ぐ前を見つめた。
「もちろん。まだ、終わらないよ。
――だって、伝説は、いつも“旅の途中”から生まれるから」
ふたりは並んで歩き出す。
次の都市、次の伝説に向かって。
その背中には、確かに“真夜中に灯された小さな祝福”が、寄り添っていた。




