3.幻想に灯る、記憶の花火
◆エリオン中央演示広場・特設魔導ステージ 夜
この日、魔法ギルド主催の《魔導応用技術披露会》が開催された。
それは本来、研究成果を発表する地味な舞台のはずだった――
しかし今年は、“ある若き仮面の魔導師”が登壇するという噂が静かに広まり、
市民や魔導関係者、貴族の目も注がれる小さな注目イベントへと変わっていた。
仮面の魔導師《ルヴィス=アル》と、その“相棒”。
ふたりの舞台が、今――始まろうとしていた。
◆序幕:無音の中、光が揺れる
照明が落とされ、辺りはしんと静まりかえる。
中央の魔導舞台装置が、かすかに魔力の光を帯びて起動する。
観客の視界に、柔らかな光の波が立ちのぼる――
それは記憶のかけら。風景の断片。心象の投影。
そこに、“ひとりの少女”が現れる。
フェル――いや、リーア。
銀の髪、儚げな衣装、そしてふわりと宙を撫でる指先。
誰もが言葉を失った。
「……まるで、夢を見てるようだ……」
◆舞踏と魔導装置のシンクロ――記憶が“今”になる
ユウ(ルヴィス)は、ステージ袖で魔導装置を操る。
記憶投影補助と
動作補正が完璧に同期するよう、
彼は舞台裏で“記憶の波”を制御していた。
リーアの動きに呼応し、光が舞い、風が揺れる。
《照らされるのは――かつて、ひとりで泣いていた少女の記憶》
《差し伸べられた手が、未来の希望になる瞬間》
《交わした約束が、胸にそっと咲く灯火》
記憶そのものは語られない。
けれど、誰もが“自分自身の過去”と重ねてしまうような感覚に包まれていた。
◆観客の中に起こる“共鳴”
舞台が進むにつれて、観客席からすすり泣く声が漏れる。
「……なんだろう……懐かしい気持ちになる」
「……昔、姉がくれたマフラーを思い出した……」
「……あの時、手を振ってくれた友達の顔が、急に浮かんで……」
ルヴィスの装置は、記憶を“映す”のではなく、“心に響かせる”。
まるで、それぞれの心が自分の“過去”と“今”を抱きしめるような――
そんな、魔法でも奇跡でもない“優しい魔導”だった。
◆ラスト:記憶の花火
最後に、リーアが指を天に向けて掲げる。
その動きに呼応して――
ぱあっと、夜空に魔導花火が咲く。
しかしそれはただの火ではない。
色彩は“懐かしさ”で、音は“優しさ”で、余韻は“涙”で構成されていた。
それは、“記憶の中でしか咲かないはずだった幻の花火”だった。
観客の誰もが、その夜の花火を一生忘れないと、確かに思っていた。
◆演目、静かに終了
拍手はなかった。
ただ、深い沈黙と、心に響く余韻だけが残った。
やがて、誰かがゆっくりと立ち上がり、掌を合わせる。
それに続くように――次第に、広場が拍手の波に包まれていく。
リーアは静かに一礼し、舞台の奥へ。
仮面の魔導師ルヴィスもまた、すでに人混みに紛れていた。
◆その夜、静かな部屋にて
「……ユウ、あの花火……わたしの気持ちだった?」
「うん。君の記憶と、ぼくの魔法。ふたつ合わせて作った《幻の灯火》」
「……すごく、きれいだった」
「君の想いが、きれいだからだよ」
そう言って、ユウはフェルの頭に手を置いた。
そっと撫でる手のぬくもりに、フェルは目を閉じた。




