2.魔導舞台装置と、見えざる記憶の投影
◆王都エリオン・東区《魔導技術管理局 研究棟》――
そこは、王都でも特に“実験と応用”に特化した研究者たちが集う場所。
一見すると地味な建物だが、その中では日々、革新的な魔導技術が生み出されていた。
そんな中に、仮面の魔導師――《ルヴィス=アル》の姿があった。
机の上には、かつてヴィオランで試作した《簡易舞台装置》の進化版。
魔力の流れをセンサーで読み取り、記憶から“感情の残像”を呼び起こし、
映像として具現化する――《記憶投影補助:イメージサブリミナル》を組み込んだ特注機だった。
「……“記憶”そのものを、見せるわけじゃない。“記憶が残した光と影”を――“誰かの心に再現”させるんだ」
ユウ(ルヴィス)は、装置に触れながら、深く集中する。
◆静かな実験――“心の投影”を試す
協力者は、ギルドから招かれた劇団関係者数名。
彼らのうち一人が、かつての舞台経験をユウに語った。
「……戦災のあと、小さな村で再演した舞台があってね。
あの時、照明もなくて、衣装もバラバラだったけど――
子供たちは、目を輝かせてくれた。あれは、忘れられない光景だよ」
ユウは頷くと、機構を調整し、装置を起動した。
魔法装置が、わずかに唸りながら回転を始め――
数秒後、演者の“記憶の情景”が淡く浮かび上がる。
それは、完全な映像ではなかった。
だが、光の重なりと影の動きが、“記憶に宿るあの舞台”を思い出させた。
「……まるで、自分があの時に戻ったみたいだ……」
誰かが、ぽつりとつぶやく。
記憶ではない。“想いの再現”だった。
◆王都の魔導技師たちの視線
研究員たちの間に、ざわめきが走る。
「……記憶の直接投影ではない……まさに、イメージサブリミナル……!」
「心の深層を魔力で読み取り、それを視覚化したのか……?」
「これは魔法じゃない、“共鳴の演出”だ……!」
仮面の下で、ユウは静かに口角を上げた。
「――“魔法”ってのは、使うものじゃなくて、“信じさせる”ものさ」
◆フェルの“観客デビュー”?
その夜、宿に戻ったふたり。
「……今日の装置、すごかった。なんか、夢みたいだったよ」
フェルは仰向けになって、しっぽをぱたぱた。
「うん。けっこう上手くいったな。……でも、本番はまだこれからだ」
「……また、踊るの?」
「踊ってもいいけど、今回は“見せる”だけでも充分だ。
君の想いが、この装置に宿れば、それだけで伝わるものがある」
フェルはこてん、と寝返りを打ってにこっと笑った。
「じゃあ、あしたは“きらきらの服”じゃなくていい?」
「……うーん、ちょっとだけ羽飾りつけてくれたら嬉しいかも」
「えぇぇ……(でも、がんばる)」
◆そして、舞台の準備は整う
王都の片隅。
仮面の魔導師が用意したのは、魔法でも技術でもない――
「記憶と感情を届ける、たったひとつの“舞台”」だった。
王都エリオンの風が、静かにその幕開けを見つめていた。




