4.森を駆ける、ふたりの背中
朝。ルミル=ナアの森は、やわらかな光に包まれていた。
風が木々のあいだを通り抜け、葉がさわさわと揺れる音がする。
それは、まるで“森そのものが息をしている”ような静けさ。
◇
「よし、今日の依頼は《風路の整備》だってさ」
ユウは地図を片手に、森の入り口でフェルに声をかける。
「うん、森の小道、ちょっと荒れてるって」
「でも、あの風の精霊たちも通る道だし、ちゃんと整備したらきっと喜んでくれるはずだよ」
フェルはうなずいて、軽やかに先を行く。
くるんと回るように、ふわりと跳ねるしっぽ――
その後ろ姿に、ユウは自然と笑みをこぼす。
◇
ふたりは、小さな石をどけたり、崩れた木橋を補修したり。
ときおり精霊のいたずらで飛んでくる落ち葉に笑いながら、黙々と作業を進めていく。
「フェル、あの上の枝に、風の精霊がいるみたい」
「……うん、あの子、昨日もいた。名前、あるのかな?」
「あるかもね。でもきっと、“言葉じゃなくて感覚で呼ぶ”んじゃないかな」
そんな会話をしながら、ふたりは森の奥へと進んでいった。
◇
昼すぎ。
風路の終点にある《風見の丘》で、ふたりはひと休みしていた。
そこには、小さな村の子どもたちが数人、遊びに来ていた。
「わぁ! お姉ちゃん、あの子、お話してる! 精霊さんと!」
「きれーい……風が、ぐるぐるしてる」
フェルは、子どもたちに囲まれながら、森の精霊たちと“言葉にならない会話”を交わしていた。
手をそっと差し出すだけで、風が形を取り、子どもたちのまわりをくるくると回る。
「ふふ……ちいさな風さん、こっちおいで」
声は小さくとも、その笑顔は、どんな言葉よりもやさしかった。
◇
「フェル、人気者だったね」
帰り道、ユウがそう言うと、フェルは少し照れたように顔をそむける。
「……なんか、こそばゆかった。でも、うれしかった」
「精霊も子どもたちも、君のことが好きなんだよ」
「……じゃあ、わたしも、すき」
ぽつりとこぼれたその言葉に、ユウは目を細めた。
「うん。そんなフェルが、誇らしいよ」
◇
森を抜けたとき、ふたりの背中に、また風が吹いた。
それは、あの日の加護のように――やさしくて、力強い風だった。




